ミャンマーにおける外資規制

2016年12月20日更新

 最近まで、ミャンマーには、諸外国における一般的な外資規制(法)が存在しない状況であった。

 しかしながら、実際には、以下説明するとおり、会社法など各種法律や実務の運用によって、実質的な外資規制が行われているという、複雑且つ予測可能性の低い外資規制が存在していた。

 このような状況を打破するため、各国の協力を経て、軍事政権下から、外国投資法を抜本的に改正して外資規制の一般法とする準備、及び、実質的な外資規制となってきた会社法についても、抜本的改正の準備が行われ、2016年11月、新投資法が国会を通過した。他方で新投資法の細則や運用の具体的な内容は未だ不透明であり、本原稿執筆時点(2016年12月20日)では、新投資法の解説は暫定的とならざるを得ない状態である。なお、旧外国投資法に基づく投資申請は2016年12月末日まで受付可能との発表がなされた(Notification第123/2016号)。

 そこで本稿では、新投資法制定前の外資規制の解説の後に、新投資法の概要を併せて解説することとし、新投資法の具体的な運用内容については、細則等の制定後、順次補訂することとする。

  1. 1.国営企業法
  2.  前記のとおりミャンマーには、ネガティブリストを明示した、諸外国におけるような、一般的な外資規制法は存在しなかった。

     しかしながら、まず、国営企業法が、以下の事業分野について民間企業による事業を禁止している。同法は内国会社にも適用されるものであるが、広い意味での外資規制といえる。これら事業については、国営企業との合弁形態でのみ事業が可能となる。

     1. チーク材の伐採、販売及び輸出

     2.植林および森林管理(家庭消費用は除く)

     3. 石油・天然ガスの採掘及び販売

     4. 真珠・ひすいその他宝石類の採掘及び輸出

     5. 魚類・海老類の養殖

     6. 郵便・通信業

     7. 航空・鉄道業

     8. 銀行・保険業

     9. ラジオ・テレビ放送事業

     10. 金属の採掘、精錬及び輸出

     11. 発電事業

     12. 治安・国防上必要な物品の生産

  3. 2.会社法
  4. (1)外国会社は、ミャンマー国内における法人設立前に、大統領の営業許可を取得する必要があり、これを取得しなければ、ミャンマー国内において事業を営むことができない。

     ここで「外国会社」とは

     ①ミャンマー会社以外の会社

     ②国外で設立された会社であって、国内に設置した事業所を有する会社

    をいう。

     ミャンマー会社とは全株主がミャンマー人の会社を意味するので、外国人が1名でも株主になっている会社は①に該当することになる。

     そうすると、外国人株主が1名でもいる会社はすべて外国会社となり、また、日本法人の現地支店も②により外国会社になるため、いずれの進出形態にせよ、現地で事業を営むには、大統領の許可を取得する必要がある。

    (2) Trading Ban

     ところが、現在の実務上、外国会社に対しては商業(Trading)の分野において、前記の大統領許可は下りない。したがって、事実上、外国会社はミャンマー内で事業を行うことができない。

     商業(Trading)に何が含まれるかについて、明示する法律はないが、少なくとも、貿易業、流通業、小売業が含まれると解されている。

     他方、近年Trading Banを緩和する動きがある。一定の条件下で、自動車の輸入販売[i]、肥料、種子、殺虫剤及び医療機器の輸入販売[ii]が解禁されている。

  5. 3.不動産譲渡制限法
  6.  別項にて詳述するが、不動産譲渡制限法によって、外国人は、不動産を取得することはできず、また、1年を超える不動産のリースを受けることもできない。

     この意味で、製造業など、特に土地の長期利用が不可欠な事業分野においては、不動産譲渡制限法が実質的な外資規制となる。

  7. 4.(旧)外国投資法 (以下本項において単に外国投資法という。)
  8. (1) 外国投資法の役割

     しかしながら、外国投資法の適用を受ければ、最長50年間の不動産リースが可能となる。この意味で、外国投資法は、実質的な外資規制の適用除外措置となる。

     外国投資法の適用を受けるためには、ミャンマー投資委員会(MIC)の許可を取得する必要がある。

     投資委員会の許可を受けるための要件は、Notification(通知、勧告)として、MICが公表している。その最新版は2016年3月21日付、Notification No.26/2016である。[iii]

     MIC許可を得て、外国投資法の適用を受けることができれば、会社法上の営業許可も取得することができる。

    (2) 外国投資法の適用を受ける要件(Notification No.26/2016)

     Notification No.26/2016によれば、以下の分野については、MIC許可は与えられない。

     1.国防のための武器弾薬類の製造等

     2.河川流域又は貯水池のための保全林、宗教施設、伝統的な巡礼地、牧草地、傾斜した開墾地、及び農地、並びに水源に影響を与える事業

     3.自然林の保全管理

     4.宝石、ヒスイの調査、探査及び生産

     5.中小規模の鉱物生産

     6.電力システムの管理

     7.電力業務の検査

     8.航空交通管制業務

     9.河川及び水路における鉱物(金を含む)の探査

     10.水先案内業

     11.政府の許可を得ていない印刷業及び放送業の一体運営

     12.ミャンマー語を含む民族語による定期刊行物の発行

     また、以下の事業分野については、内国会社との合弁形態でなければMIC許可を与えられない。

     1. クッキー、ウエハース、麺類、マカロニ、バーミセリ、スパゲティ及びその他の穀類関連食品等の穀物製品の製造及び販売

     2. 飴、ココア及びチョコレート菓子などのあらゆる菓子類の製造及び販売

     3. 牛乳及び乳製品以外の食品の保存、製造、缶詰製造及び販売

     4. 麦芽及び麦芽醸造酒並びに非炭酸飲料の製造及び販売

     5. 蒸留酒及び非飲料用アルコールの蒸留、混合、精留、瓶詰及び販売

     6.氷雪の製造及び販売

     7. 精製飲料水の製造

     8. 織物繊維製の綱、縄及び撚り紐の製造及び販売

     9.琺瑯製品、カトラリー、陶器類の製造及び販売

     10. プラスチック製品の製造及び販売

     11. 梱包業

     12. 合成皮革以外のあらゆる皮革の加工、並びにこれに係る履物、かばん等の製造及び販  売

     13. 各種カーボン紙、パラフィン紙、トイレットペーパー等の紙、紙の原材料、その他紙製品及び板紙の製造及び販売

     14. 国内の天然資源を利用した化学製品の製造及び販売(原油、天然ガス、石油製品は除く。)

     15. 固形燃料、液体燃料及び気体燃料、並びにエアゾール(アセチレン、ガソリン、プロパン、ヘアスプレー、香水、デオドラント、防虫スプレー)の製造及び販売(原油及び天然ガス、石油製品は除く。)

     16. 酸化剤(酸素、過酸化水素)及び圧縮ガス(アセトン、アルゴン、水素、窒素、アセチレン)の製造及び販売

     17. 腐食性の薬品(硫酸、硝酸)の製造及び販売

     18. 産業用化学ガス(圧縮ガス、液化ガス及び固形ガスを含む。)の製造及び販売

     19. 医薬品の原材料の製造

     20. 中小規模の発電事業

     21. 国際規格のゴルフコース及びリゾート地の建設

     22. 集合住宅、分譲住宅の建設、販売及び賃貸

     23. 事業所、商業建築物の建設及び販売

     24. 工業地帯に隣接する住宅地における共同住宅の建設、販売及び賃貸

     25. アフォーダブル住宅の建設

     26. 国内航空業

     27. 国際航空業

     以下の事業分野については、以下の関係省庁の承認(recommendations)及び、内国企業との合弁形態であればMIC許可が与えられる。

     1. 畜水産農村開発省(The Ministry of Livestock, Fisheries and Rural Development)

    1. (1) 養蜂、蜂関連製品の生産
    2. (2) 漁網の製造
    3. (3) 釣り桟橋及び魚競り市場の建設
    4. (4) 畜産業及び水産業に関連する研究事業
    5. (5) 漁業(海における)
    6. (6) 漁業関連製品の加工及び生産
    7. (7) 動物及び魚類の生産及び輸出入
    8. (8) 淡水魚、海水魚及びエビ類の養殖

     2. 環境保全・林業省(The Ministry of Environmental Conservation and Forestry)

    1. (1) 国立公園
    2. (2) 二酸化炭素排出量削減を目的とする事業
    3. (3) 森林地帯(保護林)における伐採
    4. (4) 遺伝子組換え生物の輸入、流通及び販売
    5. (5) 林業分野に関する先進研究(高価な希少種のチークの栽培及び保全管理、細胞組織の製造及び培養等)及び商業目的の事業
    6. (6) 林業分野に関する先進技術並びに研究資源及び人材の開発事業
    7. (7) 政府が処分権原を有する森林及び森林地下部での天然資源の探査
    8. (8) 商業目的での野生動植物の輸出入、飼育及び生産

     3. 産業省(The Ministry of Industry)

    1. (1) 清涼飲料水、炭酸及び非炭酸飲料の製造及び販売
    2. (2) 粉末型調味料の製造
    3. (3) 規制化学物質を成分に含む医療用医薬品の生産

     4. 交通省 (The Ministry of Transport)

    1. (1) 船舶及び艀による乗客及び貨物の輸送
    2. (2) 海事施設及び海事関係訓練学校
    3. (3) 造船所関連業務
    4. (4) 内陸水運公社(I.W.T)が所有する土地区画における水上輸送及び関連業務

     5. 情報通信省 (The Ministry of Communication and Information Technology)

    1. (1) 国内及び国際郵便事業

     6. 保険省 (The Ministry of Health)

    1. (1) 私立病院
    2. (2) 個人経営の診療所
    3. (3) 民間の診断サービス
    4. (4) 民間の医薬品製造
    5. (5) ワクチン、診断器具並びにスクリーニング及び検査キットの研究
    6. (6) 民間の医療保健施設及び訓練学校
    7. (7) 伝統的な医薬品原材料の売買
    8. (8) 伝統的な薬草の栽培及び生産
    9. (9) 伝統的な薬の研究及び研究所
    10. (10) 伝統的な薬の製造
    11. (11) 伝統的な薬を処方する病院

     7. 情報省 (The Ministry of Information)

    1. (1) 外国語による定期刊行新聞の発行
    2. (2)ラジオ放送(FM)
    3. (3) DTH(Direct to Home)放送
    4. (4) DVB-T 2 放送
    5. (5) ケーブルテレビ放送
    6. (6) 映画製作
    7. (7) 映画上映

     その他、一定の条件の下、連邦政府の許可や関係省庁との合弁等の特殊な条件下でのみ許される事業が22存在する(パイプラインなど大型のインフラ設備の建設、タバコの製造、都市開発など。詳細は割愛する。)。

  9. 5.経済特区(SEZ)法
  10.  ミャンマーには、ティラワ、ダウェー、チャウピューの3つの経済特区(Special economic Zone,SEZ)がある。

     SEZではSEZ法が適用される。SEZ内では、SEZ管理委員会に強力な裁量が付与されており、SEZ管理委員会の許可を受けることができれば、殆どすべての業種について、事業進出することができる。ただしSEZ管理委員会は特定の要件を満たせば進出許可をする義務を負っているわけではなく、あくまでも裁量であるので、専門家の助力のもと、管理委員会との折衝が重要となる。詳しくは別項にて述べる。

  11. 6.新投資法
  12.  以上みてきたとおり、ミャンマーでは、従前、国営企業法、会社法、不動産譲渡制限法等に分散して、実質的な外資規制が行われるという、きわめてわかりにくい規制状況となっていた。また、外国投資法は、本来的には減税措置などの適用の恩恵を与える内容であるが、不動産譲渡制限法の強い効力の結果、不動産譲渡制限法の規制を外すための手段として、利用されている。SEZ内では、SEZ法によって、広く外資進出が認められるが、SEZ管理委員会に広範な裁量が付与されている結果、進出する側からすると予測可能性が低く、米国による経済制裁も手伝って、投資に対する魅力を減殺してきた。

     以上のような状況について、軍事政権下において、抜本的に規制を改める動きがあり、2016年10月に新投資法が国会を通過した。

     以下では、新投資法と旧外国投資法の違いについて、簡単に触れる。なお必要な範囲で、現在改正が検討されている新会社法(案)にも言及する。

  13. (1) 会社法上の営業許可制度の廃止
  14.  前記のとおり、外国人の株主が1名でも含まれている会社は、会社法上、外国会社となり、ミャンマー国内で事業を営むにあたっては、大統領の営業許可を取得する必要がある。ところがTrading Banなどのきわめて不明瞭な実務運用により、多くの分野で、営業許可が下りず、実質的な外資規制として機能してきた。

     これに対して、新会社法では、営業許可制度自体が廃止される見込みである。そうすると、会社法は、実質的な外資規制としての性格を失うこととなる。

  15. (2) 新投資法の立ち位置
  16.  会社法が実質的な外資規制の役割から退く予定であり、その代わり、新投資法が、一般的な外資規制法としての役割を与えられることとなった。

  17. (3) 新投資法の適用対象
  18.  新投資法は、外資会社に適用される見込みである。

     ここで「外資会社」とは、新会社法上の外資会社をいうとされ、新会社法上の外資会社は、一定の割合を超える株式を外国人が保有する会社とされている。その比率については未定であるが、35%程度になるのではないかとも言われているが、現時点では未確定である。

  19. (4) 不動産譲渡制限法との関係
  20.  現状では、外国投資法に基づく、MICの「許可」を受ければ、不動産譲渡制限法による前記の不動産長期利用の制限の適用が除外されるという仕組みになっている。

     しかしながらMICの「許可」については裁量が広く、外資にとっては予測可能性が低い。

     そこで新投資法では、MICの「許可」ではなく「Endorsement」という手続によって、長期賃貸借(~50年)が可能になる予定である。

     ただし「Endorsement」がどの程度の手続で、許可とどの程度の違いがあるのかについて、現時点では定かではなく、今後の帰趨を見守る必要がある。

  21. (5) 外国投資法による優遇措置の扱い
  22.  現状の外国投資法では、その適用会社に、種々の優遇措置を準備している。たとえば所得税の5年間免除、輸出入にかかる税金の免除等である。

     ところが、新投資法では、5年間の所得税免税措置が廃止された。


2015年3月18日付、Nortification2015年第20号

2015年11月11日付、Nortification2015年第96号

DICAのWebsite上で英語版を閲覧できる。

http://www.dica.gov.mm/sites/dica.gov.mm/files/document-files/notification26englishversion.pdf

以上