マレーシア事業からの撤退

2016年12月14日更新

1.現地法人の撤退方法

 マレーシア現地法人の撤退方法には、①現地法人の清算、及び②株式の譲渡の2つの方法が考えられる。本項では、①現地法人の清算を中心に説明を加える。なお、マレーシアの破産法は個人を対象としている。

2.現地法人の清算

  1. (1) 適用される法律
  2.  清算手続は、1965年会社法のPART10に規定されており、裁判所が関与する清算手続(強制清算)と、自主的な清算手続(任意清算)の2種類が存在する。

  3. (2) 強制清算
  4.  強制清算の概要は以下のとおりである。

     ① 清算命令の申請

     強制清算の端緒となるのは、申請権者の申請である。1965年会社法は、申請権者として、会社債権者、清算人等を挙げている。

     ② 清算命令の発令要件

     申請を受けた裁判所は、一定の要件を満たす場合に清算命令を発令することができる。1965年会社法は、清算命令の発令要件として、会社が株主総会において清算決議を行った場合、会社が設立日から1年以内に事業を開始せず若しくは1年間事業を停止した場合、会社が支払不能となった場合等、14のケースを挙げている。

     ③ 清算手続の開始

     清算手続は、原則として、申請権者による申請があった時に開始したものとみなされる。但し、申請に先立って任意清算に係る株主総会決議が行われた場合等、一定の例外がある。

     ④ 清算手続

     その他の、清算人の選任や会社の利害関係人の召喚等の手続については、1965年会社法PART10,DIVISION2に規定が置かれている。

  5. (3) 任意清算
  6.  任意清算には、株主による任意清算と、債権者による任意清算の2種類が存在する。会社に支払能力がある場合は前者が用いられ、会社に支払能力がない場合は後者が用いられる。支払能力のある・ないは、会社が負担する全ての債務の弁済の可能・不可能によって区別される。

     日系企業が撤退する場合、その大多数が株主による任意清算を選択する。以下、株主による任意清算を中心に説明する。なお、一般的に清算完了までに約18カ月から数年を要するとされる。

    1. ア 株主による任意清算
    2.  株主による任意清算の概要は以下のとおりである。

       ① 取締役による宣誓

      株主による手続を選択する場合、最初に、取締役(2名以上の取締役がいる場合は取締役の多数)において、会社は清算手続開始から起算して12カ月以内に債務全額を弁済できるか否かの確認を行い、その旨の宣誓を行うことが必要となる。

      当該宣誓を合理的な理由なく行った場合には3年の禁固若しくは1万リンギ(約25万9000円)の罰金に処せられ、又はこれが併科される。

       ② 臨時株主総会決議

       会社は、臨時株主総会において清算決議を行う。清算手続は、清算決議を行った時点から開始する。そして、会社の事業は、清算手続開始以降、行うことができない。

       また、会社は1名以上の清算人を選任する。清算人は、会社の債務を弁済し、株主間の利害調整を行う任務を負い、そのために必要な権限を行使する。取締役は原則として、清算人が選任された時点で全権限を失う。    

       会社は、清算決議後7日以内に決議書をマレーシア会社登記所に提出し、10日以内に新聞公告を行わなければならない。当該手続を怠

       ③ 清算人による清算手続

       清算人は、清算開始日以降、下記に例示される清算手続を行う。

       ・会社の事業所、倉庫、金庫等の適切な保全。

       ・会社の銀行口座の適切な管理。

       ・従業員の解雇手続。

       ・財産の売却、処分による現金化。

       ・債権の取り立て、回収。

       ・債務の確認及び弁済。

       ・残余財産の分配。

       ④ 税務クリアランス

       会社は、税務当局から、不動産譲渡益税、源泉税、従業員などの源泉徴収税を含む、全税務関係に関するクリアランスを取得する。

       ⑤ 残余財産の分配

       全ての債務を弁済した後の残余財産は、株主に分配することができる。

       ⑥ 最終株主総会決議

       清算人は、清算処理が完了次第、当該清算経過及び資産処分方法を記載した報告書を作成したうえで、最終の決算書及び帳簿処分の承認を得るために、最終株主総会を招集しなければならない。最終株主総会の招集手続は、1カ月以上前に新聞紙上に公告する方法によって行われる。

       ⑦ 最終報告書等の提出

       最終報告書、会計記録処分に係る議事録、清算状況報告書をマレーシア会社登記所に提出する。会社の法人格は最終報告書提出から3カ月の経過をもって消滅する。

    3. イ 債権者による任意清算
    4.  債権者による任意清算を行う場合、取締役は、事業の継続が不可能であること、株主総会を招集したこと、及び債権者集会を招集したことの宣誓を行うことが必要となる。

       清算人は、株主総会及び債権者集会により指名されるが、指名された者が両集会で異なった場合には、債権者集会で指名された者が清算人となる。取締役は、清算人が選任された時点で全権限を失う。

       清算人が選任された後の手続は、株主による任意清算と同様である。

以上