マレーシアにおける解雇規制

2016年3月25日更新

 以下では、マレーシアにおいて解雇を行う場合に必要とされている一般的な要件・手続を紹介し、次に懲戒解雇を行う場合に実務上行われている手続を紹介する。

 なお、雇用法(Employment Act 1955)が適用される労働者は、①1ヶ月あたりの賃金が2,000リンギ(約5万5000円)を超えない雇用契約を締結した者、②職人等の肉体労働を行うことを内容とする契約を締結した者等に限定されているが、雇用法に定められている法の原則は、その他の雇用関係においても一般に考慮されている。

  1. 1.  解雇に必要な一般的な要件・手続
  2.  マレーシアにおいては、使用者が労働者を解雇する場合、(1)解雇の正当事由が必要であり、原則として(2)当該労働者に対して雇用終了の事前の予告通知をし、かつ、原則として(3)解雇手当を支払わなければならない。以下、順に検討する。

    1. (1) 正当事由
    2.  使用者が労働者を解雇する場合には、正当な事由又は原因が必要とされている。したがって、雇用契約書に「一定期間前の予告通知をすれば雇用契約を終了できる」と定めてあったとしても、使用者は雇用契約を終了する正当な理由(例えば、被用者の不正行為、能力不足、人員過剰等の事実)を根拠とする必要がある。

       かかる正当な事由又は原因なく解雇されたと考える労働者は、解雇の無効を労 使 関 係 局(Department of Industrial Relations)に申し立てることができる。

       かかる手続が存在しているため、マレーシアにおいて使用者が労働者を解雇する場合、以下の(2)雇用終了の予告通知に先立って、雇用契約違反等の解雇事由・原因やその是正手段・是正期間等を記載した警告書を当該労働者に発して解雇事由の是正を促す等の慎重な措置が用いられる場合が少なくない。

    3. (2) 雇用終了の予告通知
    4.  雇用法においては、同法において定められた一定の労働者との間の雇用契約を終了させる場合、使用者は当該労働者に対して一定期間前までに原則として通知をする必要がある旨が定められている。具体的な通知期間については、雇用契約書に定めがある場合にはこれに従い、雇用契約書の定めがない場合は、雇用法が適用される場合には、雇用期間は通知期間は以下のとおりとなる。

       ・勤続年数が2年未満の場合: 最低4週間前

       ・2年以上5年未満の場合: 最低6週間前

       ・5年以上の場合: 最低8週間

       ただし、これらの予告通知期間に相当する期間につき受領し得る賃金を支払った場合、故意による雇用契約の違反があった場合、不正行為等が存在しそれにつき適切な内部調査を行った場合等には、予告通知をすることなく雇用契約を終了することも可能である。

    5. (3) 解雇手当(Termination or Lay-off Benefit)の支払
    6.  使用者が、12ヶ月以上継続して雇用されていた雇用法の適用を受ける労働者との間の雇用契約をが終了する場合、使用者は、原則として労働者に解雇手当を支払わなければならない。解雇手当の金額は、勤続年数に応じて以下のとおり計算される。

       ・勤続年数が1年以上2年未満の場合: 1年毎に10日分の賃金

       ・2年以上5年未満の場合: 1年毎に15日分の賃金

       ・5年以上の場合: 1年毎に20日分の賃金

  3. 2. 懲戒解雇
  4.  労働者が行った不正行為を理由として当該労働者を懲戒解雇する場合、実務上は以下の手続を踏むことが多いように思われる。

    1. (1) 不正行為の重大性の判断及び調査
    2.  発見された不正行為が重大なものと判断される場合に限り、不正行為の調査を社内で行う。不正行為が軽微なものにとどまる場合は、助言・カウンセリング・警告等の対応にとどめるべきである。

    3. (2) Show Cause Letterの送付
    4.  調査の結果、不正行為の証拠が発見された場合、不正行為を特定して当該労働者に対して説明を求めるShow Cause Letterを送付する。

       これに対する回答として、当該労働者が不正行為を認めた場合、会社は当該労働者に弁解の機会を付与するとともに、不正行為の内容に見合った懲戒処分に付すことができる。

    5. (3) 社内審問手続(Domestic Inquiry)の通知
    6.  Show Cause Letterに対する回答として、当該労働者が不正行為を認めなかった場合、①不正行為を特定し、②社内審問手続の日時・場所を指定し、③手続に証人・証拠書類を伴うことができる当該労働者の権利を明示した、社内審問手続の通知を行う。

    7. (4) 社内審問手続(Domestic Inquiry)
    8.  社内審問手続は、不正行為について予断偏見を有しない者により行われなければならない。

       社内審問手続において不正行為を行ったと判断された場合に限り、会社は不正行為の内容に見合った懲戒処分に付すことができる。

       社内審問手続の判断に不服のある労働者は、取締役会等の経営陣に対して不服申立をすることができ、この場合、経営陣が最終的な判断を下す。

       なお、かかる適切な内部調査を行い、雇用契約の条件に反する不正行為を理由として当該労働者を解雇した場合、上記1(2)の雇用終了の予告通知を発する義務及び1(3)の解雇手当の支払義務を使用者は負わないと雇用法上は定められている。

以上