トルコにおける会社清算について

令和2年6月更新

1 はじめに

 トルコに現地法人を設立して進出する場合、株式会社の形態 をとるケースが多く見られます(トルコへの主な進出形態については「トルコにおける拠点設置について」をご参照ください)。

 しかし、コロナショックに伴う極めて厳しい経済情勢及び企業収益の急激な悪化に伴い、日本企業もトルコを含む海外展開の在り方を再検討せざるを得ない状況に置かれています。

 そこで、本稿では、株式会社の清算手続の概要について、ご紹介致します。

2 株式会社の解散

 トルコ商法において、株式会社は、下記のいずれかの事由を充足した場合、解散する旨が定められています

株式会社の解散事由

①定款に定められた期間が満了した場合

②会社の目的が達成され又はその達成が不能となった場合

③定款所定の解散事由が発生した場合

④破産した場合

⑤株式会社が法律上必要な機関を欠いた場合または株主総会が招集できなかった場合であって、裁判所が定める期間内にかかる瑕疵を是正できなかったとき

⑥10分の1以上の割合の持分を有する株主(公開会社の場合は20分の1以上)が裁判所に解散請求を行った場合(ただし、株主から解散請求を受けた裁判所は、株式会社の解散決定に代えて、請求した株主の持分の現在価値の支払によるスクイーズアウトを決定することができます)

 破産または裁判所の決定以外の事由により、株式会社が解散する場合、当該株式会社の取締役会は、商業登記簿への登録及び公表を行わなければなりません。

 また、解散した株式会社は、原則として清算手続を経なければなりません。会社の機関の権限は、清算手続に必要な範囲に限って、存続します。

3 株式会社の清算手続

⑴ 清算人の選任

 定款または株主総会決議によって清算人が指定されない限り、清算会社の取締役会が清算手続の実施者となります。取締役会は、清算人を、商業登記簿に登録し、公表します。

 もっとも、株主総会は、いつでも、清算人及び清算を実施する取締役会の構成員を解任し、別の者を清算人として指定することができます。

 また、株主から正当事由を具備した要求があったときも、裁判所は清算人を解任し、別の者を清算人として指定することができます。

 なお、清算会社の代表権限を有する清算人のうち1人は、トルコ国内に居住するトルコ国民でなければなりません。清算人にトルコ国内に居住するトルコ国民が含まれない場合、裁判所は、株主、債権者又は税関通商省の請求に応じて、かかる資格を有する適切な者を清算人として任命することができます。

⑵ 清算人の権限

 清算人は、裁判上及び清算手続に係る対外関係において、清算会社を代表する権限を有します。

 清算人は、その権限を第三者に移転することはできません。しかし、清算人は、特定の手続を履行するために、代表権限を別の清算人または第三者に授与することができます。

 清算人が、清算目的の範囲外で、第三者と取引を行った場合であっても、当該取引は原則として清算会社を拘束します(当該第三者において、清算人の行った取引が清算目的の範囲外であることを知り、又は、知り得た場合はこの限りではありませんが、その立証は容易ではありません)。

 また、清算会社は、清算人が職務遂行の過程で行った不法行為についても、責任を負います。

⑶ 清算手続

  • ア 清算貸借対照表等の作成

     清算人は就任後速やかに、清算時の会社の状況を調査し、期首棚卸残高及び清算貸借対照表の準備に取り掛からなければなりません。なお、清算人は、必要に応じて、専門家に清算会社の財産評定を求めることができます。
  • イ 各債権者への通知

     清算手続の開始に伴い、清算会社に知れたる債権者には、書留郵便を送付する方法により清算手続が通知されます。その他の債権者への連絡は、商業登記官報(Trade Registry Gazette)及び清算会社のウェブサイトにおいて、1週間の間隔を空けて3回行われる公表手続により行われます。

     清算手続開始の通知を受けた各債権者は、債権を届出なければなりません。届出がなされなかった債権に相当する金額は、税関通商省の指定する銀行口座に預託されることになります。
  • ウ その他の手続

     清算人は、清算会社の進行中の取引を完了し、必要に応じて株式の出資未了分を回収し、資産の換価作業を行います。清算中に回収された金銭は、清算会社の運用に要する費用を除いて、清算会社を代理する銀行に預託されます。

     清算会社が債務超過でない場合は、清算会社の債務を弁済します。他方で、清算会社が債務超過である場合は、清算人は直ちに当該清算会社の本店所在地を管轄する裁判所に通知し、裁判所は当該清算会社の破産手続開始決定を行います。

     清算人は清算業務の状況について株主に報告する必要があり、株主からの求めがあれば、署名付きの書面によって報告を行わなければなりません。

⑷ 清算後の残余財産の分配  

 清算後の残余財産(債権者への弁済及び出資の払戻完了後の残余財産)は、定款にこれと異なる定めがある場合を除き、払込資本比率及び保有する株式のオプションに応じて株主に分配されます。

 ただし、かかる清算後の残余財産の分配手続は、債権者に対する3回目の通知日から6ヵ月を経過しなければ、行うことができません。

⑸ 商号等の抹消

 清算手続の終了後、清算会社の商号は、清算人の要求に応じて、商業登記簿から抹消されます。

⑹ 紛争解決

 株主及び清算人の間で紛争が生じた場合は、簡略化された裁判手続内で速やかに解決されます。裁判所は株主から聴取を行い、30日以内に決定を下すこととされています。

4 株式会社の追加清算手続

 一旦清算手続が完了したものの、追加清算手続が必要であると考えられる場合があります。例えば、清算会社のいくつかの財産が当初の清算手続から漏れていた場合や、法的要請を看過した分配手続が行われたことを理由として訴訟が提起されている場合などです。

 このような場合、最終の清算人、取締役会を構成する役員、株主又は債権者は、裁判所に対して、清算会社の再登記を求めることができます。そして、裁判所は、かかる要求が適切であると判断した場合は、清算会社の再登記を決定するとともに、最終の清算人または1人以上の第三者を追加清算手続の清算人に任命します。

5 清算手続の廃止

 清算会社は、株主総会決議により、清算手続を廃止し、再び営利目的企業として事業を営むことができます。

 ただし、かかる清算手続の廃止が可能な期間は、株主間における清算会社の財産分配手続が開始する前に限られていることには留意が必要です。

以上