シンガポールにおける事業拠点の設立

2022年7月更新

 シンガポールに進出する際に利用できる事業拠点としては、大別して①現地法人(Company)、②支店(Foreign Company)、③駐在員事務所(Representative Office)が挙げられます。そのほかに、パートナーシップ、ビジネストラスト、個人事業主(Sole Proprietorship)などの形態もあります。

 拠点の種類ごとに長所と短所があるため、拠点設立の目的に応じて適切な拠点を選択して設立することが望ましいです。また、一旦支店を設立しておき、その後現地法人を設立して同法人に支店の機能を移転させることも可能ですが、銀行口座の切り替えや就労ビザを改めて取得する必要があるなど、当初より現地法人を設立した場合に比して煩雑となるため、進出時点において、将来拠点において予定する事業内容等を十分に検討した上で適切な拠点を設立することが重要となります。

 本稿では、日系企業にとって一般的な事業拠点である上記①から③に関して、それぞれの特徴について説明します。

1.現地法人(Company)

(1) 概要

 現地法人は、他の2つの拠点(支店及び駐在員事務所)とは異なり、シンガポールにおいて、独立した法人格を付与され、その事業活動にも制限はありません(親会社の本国における事業活動とは異なる事業活動も可能となります)。また実務上も、シンガポールでは会社設立手続きが他国に比して容易であり、しかも税制上、恩恵を受けられることもあって、日系企業がシンガポールに進出する際には、現地法人が設立されるのが最も一般的です。

(2) 有限責任会社と無限責任会社

 現地法人の会社形態は、構成員が会社の債務等に関して追う責任の範囲により、構成員が無限定に責任を負う無限責任会社(Unlimited Company)と構成員の責任が持分に応じて有限である有限責任会社(Limited Company)に区分されます。このうち、後者には、有限責任株式会社(Company Limited by Shares)と有限責任保証会社(Company Limited by Guarantee)の2種類がありますが、日系企業に関しては有限責任株式会社を設立される例がほとんどです。

(3) 有限責任株式会社における非公開会社と公開会社

 有限責任株式会社は、株式譲渡制限の有無により、株式譲渡制限があるⅰ非公開会社(Private Company)と株式譲渡制限のないⅱ公開会社(Public Company)に大別されます。

  • (ⅰ) 非公開会社は、日系企業にとって最も一般的な形態です。非公開会社として設立するには、基本定款又は附属定款において、株主を50人以下に限定する旨と、株式譲渡制限を定める必要があります。また、株式社債の公募の禁止などを定める必要があります(シンガポール会社法(以下「会社法」といいます。)第18条第1項)。
    なお、非公開会社のうち、①株主が20人以下であり且つそのすべてが個人株主である会社、もしくは②シンガポール政府が100%の株式を保有する非公開会社で、大臣が官報において免除非公開会社(Exempt Private Company)と宣言した会社は、免除非公開会社(Exempt Private Company)に該当し、一定のコンプライアンス要件を減免される、一般的には禁止されている取締役への貸付が認められる、また起業促進の優遇税制スキームが利用可能となる等の恩恵を受けることができる場合があります。日系企業の現地子会社は該当しませんが、個人による起業の場合の多くは免除非公開会社に該当すると思われます。
  • (ⅱ) 公開会社は、株式の譲渡制限がなく、株式の公募をすることができるほか、シンガポール証券取引所に上場することができます。
    なお、非公開会社から公開会社への変更、又は公開会社から非公開会社への変更は、株主総会の特別決議により行うことが可能です(会社法第31条第1項第2項)。

2.支店(Foreign Company)

 支店(すなわち、外国会社のシンガポール支店)は、シンガポール国内においては独立した法人とは認められず、外国法人とみなされます。したがって、支店の活動により生じた法的効果は、そのままシンガポール国外の本社に帰属します。

 支店には、現地法人と比較して、資金移動が容易であることやシンガポール国外の本社との損益通算ができることなどの利点があります。すなわち、現地法人が親会社から資金調達をする場合、増資や親子ローン等の手続きを踏まなければならない反面、支店の場合は、シンガポール国外の本社からの資金移動で足りるということになります。他方で、支店はあくまでも外国会社の一支店にすぎないため、その事業活動は、シンガポール国外の本社の事業活動と同じ範囲に制限されます。また、税制上も、シンガポールの支店自体に課される法人税率は現地法人と同率となりますが、外国法人として扱われる支店には、現地法人が利用可能な各種の優遇税制が利用できない場合があるというデメリットもあります。

3.駐在員事務所(Representative Office)

 駐在員事務所においては、シンガポールへの本格的な進出のための市場調査やフィージビリティスタディ等の一定の活動に限り行うことが認められ、営利を目的とする事業活動は認められておりません。したがって、駐在員事務所は、本格的なシンガポール進出を見据えた準備活動や市場調査のために設立されるのが一般的です。

 駐在員事務所の開設に際しては、業種に応じて監督官庁に登録を行う必要があります。

 駐在員事務所は、現地法人又は支店の設立のための準備段階において設立されることが想定されているため、通常1年間を期限として設立及び存続が承認され、その後1年ごとの更新をする必要があります。また、更新をして活動を継続したとしても、原則として駐在員事務所設立から3年程度で更新がなされなくなります。そのため、この期間内に現地法人又は支店を設立して本格的に進出するか、撤退するかの判断をする必要があります。

以上