イスラエルにおける組織再編について

1.はじめに

 イスラエルにおけるM&A及び組織再編に関する主な法令等として、会社法、証券法、証券に関連する規則、契約法、経済競争法、産業研究開発奨励法、競争促進及び集中抑制のための法律、租税法令等の取引に関する法令があります。

2.M&Aの手法

 イスラエルにおけるM&Aの手法として、主に①株式譲渡、②事業譲渡、③法定合併及び④Scheme Of Arrangementが用いられています。

 各手法の選択においては、租税、事業戦略、必要な手続き等の各要素が考慮されます。

  • ⑴ 株式譲渡

     株主譲渡契約に基づき、既存の株主から株式を購入する手法です。
     会社法では公開会社(public company)と非公開会社(private company)が規定されています。公開会社とは、株式が取引所に上場されている会社、株式が証券法に定義される目論見書に基づいて公募された会社又は株式が外国の法令に従い海外で公募された会社のことであり、非公開会社とは公開会社以外の会社のことです。
    • ア 非公開会社

       非公開会社の株式譲渡について、会社法上の制限はありませんが、定款により株式譲渡の条件を設定することは可能です。
       会社法には非公開会社の株式の強制取得制度が規定されています。非公開会社の全株式を取得しようとする買収者が、取得対象とする株式の株主に対してその株式の取得の申出を行った場合に、その申出から2か月以内に、取得対象株式の80%以上(定款による別段の定めで変更可能)を保有する株主が同意した場合には、(所定の手続きを経て)申出を受諾しなかった株主の株式も含めて、申出の条件により全ての株式を取得することができます。
    • イ 公開会社
    • (ア) 原則

       公開会社の株式は、原則として、市場において自由に取得することが可能です。
       ただし、公開会社の株式を市場外で一定割合を超えて取得しようとする場合又は支配権の変動を伴うような株式取得をしようとする場合、公開買付けが必要になることがあります。
       公開買付規則では、公開買付けについて、特別公開買付け、全部公開買付け及び一般公開買付けという類型が定められています。
    • (イ) 特別公開買付け

       買収者が会社の支配権の変動を伴うような数の議決権を取得する場合(①議決権の25%以上を保有する株主が存在しない対象会社については、当該買付けの結果、買付者が対象会社の議決権の25%以上を保有する株主となる場合、②議決権の45%以上を保有する株主が存在しない対象会社については、当該買付けの結果、買付者が対象会社の議決権の45%以上を保有する株主となる場合)に要求されるもので、同等の条件による全ての株主に対する勧誘、勧誘に係る諾否を表明した者のうち議決権の過半数を有する者による応募、買付者が少なくとも対象会社の議決権の5%を取得すること等が必要です。
    • (ウ) 全部公開買付け

       買収者が対象会社の発行済株式の90%超の株式を取得しようとする場合に要求され、対象会社の発行済株式の全てを買収者に取得させるもので、買付けに応募しなかった株主の割合発行済株式の5%未満であることが必要です。
    • (エ) 一般公開買付け

       公開会社の株式を保有する不特定多数の者に対して、証券市場外で、6か月間で5%を超える公開会社の株式を売却するよう勧誘する行為のうち、特別公開買付け又は全部公開買付けに該当しないものとして要求されるもので、同等の条件による全ての株主に対する勧誘等が必要とされます。
  • ⑵ 事業譲渡

     事業譲渡契約に基づき、財産又は事業活動の全部又は一部を購入する手法です。
     会社法には、事業譲渡に関する明示的な定めはなく、必要な手続き等も定められていません。
     ただし、一定の場合に株主総会決議が必要とされる場合、また、第三者との間の契約によって事業譲渡が制限される場合等があることに留意が必要です。
  • ⑶ 法定合併(statutory merger)

     会社法には裁判所の関与なしで行われる合併が規定され、公開会社と非公開会社の双方に適用されます。
     会社法で定められた合併は、後述する裁判所が主導する組織再編であるScheme Of Arrangementと区別され、法定合併(statutory merger)と呼ばれます。
     原則として、取締役会決議、合併提案書の作成と会社登記局への提出、債権者異議手続、株主総会決議の手続きを経て、会社登記局に対して各当事者会社から必要書類が提出され、かつ、合併提案書が提出された一定期間経過後に、合併の効力が発生します。
     会社法に定められた上記の手続きは、イスラエル法に準拠して設立された会社間の合併に関するものです。そこで非イスラエル企業がイスラエル企業を買収するためには、逆三角合併の手法が採用されることがあります。

     つまり、非イスラエル企業がイスラエルに完全子会社を設立し、その子会社を合併消滅会社としてイスラエル企業と合併させ、存続したイスラエル企業の株主対して、現金又は非イスラエル企業の株式を対価として交付し、買収者がそのイスラエル企業の完全親会社となるという手法が用いられることがあります。
  • ⑷ 裁判所が承認するScheme Of Arrangement

     合併等の組織再編行為を、裁判所が主導・認可に基づいて実施する手続きのことです。
     もともとは倒産を防止するための組織再編の目的のために作られた制度でした。しかし、倒産手続きとは無関係の買収のためにも利用されることがあります。
     裁判所への計画書承認の申立て、株主総会又は債権者集会における計画書の承認、裁判所による計画書の承認という手続きを経て、会社登記局にその計画書が提出されることによりその計画書記載の組織再編行為の効力が生じます。

3.留意点

  • ⑴ 外資規制

     イスラエルには、一般的な外資規制を定めた法令はありませんが、イスラエル政府の土地に関する権利の移転、防衛企業・電気事業・電気通信事業の支配権移転、敵国との取引(イラン、シリア、レバノン及びイラク)等、個別の事業分野及び取引について、外国からの投資の規制がされています。
  • ⑵ IIA助成金の被支援企業に対する規制

     イスラエルでは、Israel Innovation Authority(IIA)による、科学技術に関する補助金を受領している企業があります。
     この企業を、被イスラエル企業が取得しようとする際には、当局からの承認が必要になる場合があります。
     また、その補助金が活用されたノウハウ等をイスラエル国外に移転する場合も、当局からの承諾又は当局への金銭支払い等が必要になる場合があります。
  • ⑶ 競争法

     一定の条件を満たす合併を行う際には、競争法の適用があり得る点にも留意が必要です。

4.まとめ

 以上、イスラエルにおける組織再編の概要を説明しました。もっとも、この記事は、一般的な事項をご説明したに過ぎませんので、個別具体的な事情については、弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めいたします。

以上