ベトナムからの事業の撤退

2016年12月28日

 ベトナムにおいて設立した現地法人が営む事業から撤退する場合の選択肢としては、①当該現地法人の出資持分を第三者へ譲渡する、又は、②現地法人の既存の事業を終結し、その法人格を消滅させるという2つの方法が主として考えられる。本稿では、①②の順に検討する。

 以下の記載は、主として、2014年に改正され2015年7月1日から施行されている企業法(68/2014/QH13、以下「企業法」という。)に基づいている。なお、②について、会社が倒産状態にある場合には、ベトナム破産法上の倒産手続が制度としては準備されているが、実務上倒産手続が利用される場合は現段階では限定的であるため、本稿では検討を割愛している。

  1. 1. 出資持分の譲渡
  2.  複数社員有限会社の出資持分を譲渡する場合、他の社員が先買権を有している。そのため、対象会社の持分を第三者へ譲渡する場合には、他の全ての社員に対して、それぞれの出資割合に応じた出資持分の譲渡を申出る必要があり、かかる申出から30日以内に、当該他の社員が申出に応じて購入しない場合に、初めて、第三者に対する譲渡が認められる。

     加えて、出資持分の譲渡については、これにより生ずる社員の変更について、出資者の変更を理由とする事業登録証又は投資証明書の登録の変更が必要となる。

  3. 2. 会社清算
  4.  会社清算とは、会社の債務を支払うために、会社資産を回収し処分する手続であり、清算手続が完了すると、原則として会社は解散し、その法人格は消滅することになる。

     複数社員有限会社の清算手続についての概要は、以下のとおりである。

  5. (1) 解散決議
  6.  複数社員有限会社の解散は、以下の内容を含む社員総会の特別決議により決定される必要がある。

     (i) 会社の名称、本店所在地

     (ii) 解散の理由

     (iii) 会社が当事者となっている契約の履行期限、会社の債務の弁済期限(解散決議から6か月以内)

     (iv) 労働契約から発生した債務の処理計画案

     (v) 会社の法定代表者の氏名及び署名

     複数社員有限会社の清算は、会社の定款において独自の清算組織の設立が定められていない限り、社員総会が直接実施する。

  7. (2) 解散決議の効果
  8.  解散決議の後、当該会社及び会社の管理者は、以下の行為を行うことはできない。

     (i) 会社財産の隠匿・分散

     (ii) 会社の債権の放棄・減額

     (iii) 会社財産の担保提供

     (iv) 新たな契約の締結(解散のために行う場合を除く。)

     (v) 会社財産の質入・贈与・貸与又は会社財産に対する抵当権の設定

     (vi) 有効な契約の履行の終了

     (vii) 出資の募集

  9. (3) 解散の通知・公示
  10.  解散決議及びその議事録は、決議の日から7営業日以内に、経営登記機関、税務機関及び会社の労働者に送付し、会社の本店において公に掲示する。

     また、会社が未払債務を有する場合には、解散決定に弁済計画案を添付して、各債権者及び利害関係人に対して、以下の内容を含む通知を行う。

     (i) 債権者の名称

     (ii) 債権者の住所

     (iii) 債権者の債権額

     (iv) 債務の履行期限・履行の場所

     (v) 不服申立て方法及びその期限

  11. (4) 債務の弁済
  12.  会社の債務が弁済される優先順位の概要は、以下のとおりである。

     (i) 労働者の給与、退職手当、社会保険及び労働協約・労働契約に基づく労働者のその他の債権

     (ii) 租税債務

     (iii) 上記以外の債務

     上記の弁済及び解散に関する経費の弁済が終了した後の残余財産は、持分の保有割合に従って、各社員に対して分配される。

  13. (5) 解散登記
  14.  複数社員有限会社の法定代表者は、会社の債務の弁済が終了した日から5営業日以内に、経営登記機関に対して、解散申請書を提出する。かかる書類を受領した日から5営業日以内に、解散の登記が行われる。

以上