ベトナムにおけるM&A・組織再編

2016年12月31日

 ベトナムにおけるM&A・組織再編の手法としては、主として、1.対象会社の株式を対象とする既存の株式の譲受及び新株の引受、2. 新設会社又は存続会社が合併当事会社の資産及び権利義務を承継する合併、及び3.分割会社を複数の会社に分割する会社分割、4.対象会社の事業・資産を譲り受ける事業譲渡の方法が考えられる。以下では、ベトナム進出の際に用いられることが多いと思われる二人以上社員有限責任会社(以下「複数社員有限会社」という。)に関する規制を中心として、1.株式取得、2.合併、3.会社分割、4.事業譲渡の順に、それぞれの手法の概要を紹介する。

  1. 1. 株式取得
  2.  株式取得は、(1)既存の株主から既発行株式を取得する方法、(2)会社が新たに発行する株式を取得する方法に分けることができる。以下、順に記載する。

  3. (1) 既発行株式の取得
  4.  複数社員有限会社の既存の社員から出資持分を取得しようとする場合、他の社員が先買権を有している。そのため、対象会社の持分の譲渡を予定する社員は、その他の全ての社員に対して、それぞれの出資割合に応じた出資持分の譲渡を申出る必要があり、かかる申出から30日以内に、当該他の社員が申出に応じて購入しない場合に、初めて、第三者に対する譲渡が認められる。

     加えて、出資持分の譲渡については、それにより生ずる社員の変更について、事業登録証又は投資証明書の登録を変更する必要がある。

  5. (2) 新株の取得
  6.  複数社員有限会社が増資を行うためには、原則として、社員総会の普通決議を行う必要がある。また、増資においては、全ての既存の社員は、その保有する出資持分の割合に応じて、新たに発行される持分についての優先引受権を有している。そのため、既存社員以外の第三者に対する第三者割当増資を行う場合、会社の定款に特別の規定がある場合を除き、社員全員の承認を得る必要がある点には注意が必要である。

  7. 2. 合併
  8.  複数社員有限会社の合併には、①既存の同種の複数の会社(消滅会社)が権利義務の全部を、新たに設立する会社(新設会社)に承継して消滅する新設合併、及び、②既存の会社(消滅会社)が権利義務の全部を他の既存の会社(承継会社)に承継し消滅する吸収合併の2つの方法が存在している。

     合併を行う会社は、合併契約を締結する。合併契約は、以下の内容を含んでいる必要がある。

    1. ・ 消滅会社の名称・本店所在地
    2. ・ 新設会社又は存続会社の名称及び・本店所在地
    3. ・ 合併の手続・条件
    4. ・ 労働者の雇用計画
    5. ・ 消滅会社の資産、出資持分を存続会社へ承継する期限・手続・条件
    6. ・ 合併の実行期限及び新設会社又は存続会社の定款のドラフト

     合併当事会社は、合併契約につき、その社員の承認を得た後15日以内に、合併契約を全ての債権者に送付するとともに、その内容を自身の労働者に周知する。

     また、複数社員有限会社が合併を行う場合、社員総会特別決議を得る必要がある。

     加えて、新設合併の場合の新設会社の設立及び消滅会社の解散については、投資計画局等において、各手続を行う必要がある。

  9. 3. 会社分割
  10.  複数社員有限会社の分割には、①既存の1つの複数社員有限会社(分割会社)の資産・社員の全部を新たに設立する複数の複数社員有限会社(新設会社)に分割して移転し分割会社を消滅させる消滅分割、及び、②既存の1つの複数社員有限会社(分割会社)の資産・社員の一部を新たに設立する複数社員有限会社(新設会社)に移転して分割会社も存続する存続分割という2つの手法が存在している。

     分割会社は、以下の事項を含む社員総会の特別決議を得る必要がある。

    1. ・ 分割会社の名称・本店所在地
    2. ・ 新設会社の名称
    3. ・ 分割会社の資産分割の基準及び手続
    4. ・ 労働者の雇用計画
    5. ・ 分割会社の資産・出資持分を存続会社へ承継する期限・手続
    6. ・ 分割の実行期限

     分割会社は、分割の特別決議から15日以内に、決議の内容を全ての債権者に送付するとともに、自身の労働者に周知する。

     加えて、新設会社の設立及び消滅する会社の解散については、投資計画局等において、各手続を行う必要がある。

  11. 4. 資産譲渡
  12.  資産譲渡の手法を用いる場合には、前記1.(株式取得)とは異なり、譲り受ける事業・資産・債務を個別に選択することが可能であるが、これらに関する権利・義務については個別に移転手続を行うことが必要である。

     譲渡対象資産が、対象会社の総資産の50%を超える場合には、対象会社の社員総会における特別決議が必要である。

     また、譲渡対象資産に事業登録証・投資証明書に関連する事業が含まれており、その社員の変更を伴う場合には、これらに関する登録の変更を合わせて行う必要がある。

以上