ベトナムの労働法制・解雇規制

2016年12月31日

 ベトナムの労働法は、全般に労働者保護の傾向が強く、雇用者側の都合で、労働者を解雇することは制限されており、実務運用上も会社側に厳しい。地方の労働当局に法令の解釈・運用について照会し、法令違反による摘発を防ぐことが肝要である。本稿では、1.労働契約の締結、2.労働契約の種類と更新、3.試用期間、4.就業規則、5.従業員に対する懲戒、6.労働契約の終了事由、7.労働契約終了時の離職手当の支払について検討する。

  1. 1. 労働契約の締結
  2.  3ヶ月未満の短期労働を除き、雇用開始前に書面による労働契約を締結する義務がある。就業場所や職務内容については、具体的に記載する必要があり、従業員の個別の同意なく一方的に転勤・配置転換を命じた場合、労働契約違反となるリスクがある。

  3. 2. 労働契約の種類と更新
  4.  労働契約は、以下の3種類に分けることができる。

     (i) 期間の定めのない契約

     (ii) 12ヶ月~36ヶ月の有期契約

     (iii) 12ヶ月未満の有期契約(季節労働契約)

     (i)を会社の側から解除することは非常に困難である。また、固定期間を労働期間とする契約については、上限は3年とされており、かつ、固定期間契約としての更新は1回に限定されている。

  5. 3. 試用期間
  6.  試用期間の上限は、以下のとおりである。

     (i) 高レベルの専門性が要求される業務は60日

     (ii) 中レベルの専門性が要求される業務は30日

     (iii) その他の職業については6日

     試用期間中の従業員の賃金は、対応する職務の賃金の85%を下回ってはならない。

  7. 4. 就業規則
  8.  従業員を10名以上雇用する雇用者は、就業規則を書面で作成しなければならない。就業規則を作成する前に、従業員を代表する組織の意見を聴取しなければならない。作成後の就業規則は、従業員に通知し、かつ、勤務地に掲示し、10日以内に現地の労働当局に届け出なければならない。

  9. 5. 従業員に対する懲戒
  10.  ベトナムにおける懲戒制度の基本原則は、以下のとおりである。

     (i) 従業員の過失を立証する責任は、雇用者が負う。

     (ii) 労働者集団の代表が懲戒手続に参加する。

     (iii) 従業員も懲戒手続に参加し、防御の機会が付与される。

     (iv) 懲戒処分について書面による議事録が作成される。

     懲戒処分は、懲戒事由の発生日から最大で6ヶ月以内に行わなければならない。

  11. 6. 労働契約の終了事由
  12.  労働契約の終了事由は、次の場合に限定されている。

     (i) 労働契約の期間満了

     (ii) 労働契約所定の業務の終了

     (iii) 契約当事者双方の合意

     (iv) 定年退職(男性:60歳、女性:55歳)

     (v) 労働者が刑事罰に処せられ、または、労働契約所定の職務に従事することを禁止された場合

     (vi) 従業員の死亡または行為能力喪失

     (vii) 雇用者(個人の場合)の死亡または行為能力喪失、雇用者(法人の場合)の営業終了

     (viii) 懲戒解雇

    1. ・懲戒解雇ができるのは、犯罪等雇用者の財産及び利益に重大な損害を与えた場合や、違反行為をして懲戒処分を受けたのに同一内容の違反を繰り返した場合、正当な理由なく月5日、または年間20日欠席した場合に限定されている。

     (ix) 労働法に従った労働者による契約の解除

     (x) 経済的理由・合併等を理由とする雇用者による解雇

     (xi) 労働法に従った雇用者による契約の解除

    1. ・雇用者側の都合による雇用契約の解除(普通解雇)に関しては、整理解雇・懲戒解雇の他には、次の場合しか認められていない点には、注意が必要である。
    2. ① 労働者が労働契約上の業務遂行を怠ることを繰り返した場合

      ② 労働者が12ヶ月以上(固定期間労働者の場合6ヶ月以上)療養をしても、就労の見込みがない場合

      ③ 天災等の不可抗力のために、会社があらゆる手段を尽くしたにもかかわらず人員の削減を行わなければならない場合

      ④ 労働者が勤務開始または勤務停止事由の終了後15日を経過しても、職場に復帰しない場合

       ※①の場合に該当すると主張するためには、社内規則において、業務の完了の程度を評価する具体的な基準を定める必要があり、その上で、業務不履行がある場合には、始末書等の書面を残しておく必要がある。

       手続としては、上記の普通解雇事由がある場合、期限の定めのない労働契約の場合は45日前、有期労働契約の場合は30日前までの事前通知を行う必要がある。

  13. 7. 労働契約終了時の離職手当の支払
  14.  12ヶ月以上勤務した労働者に対して、勤続年数1年あたり半月分の離職手当の支払が必要とされている。ただし、定年退職・懲戒解雇の場合については、離職手当の支払は不要である。また、雇用者側の経済的理由や合併等を理由に労働契約を終了させた場合、勤続年数1年あたり1ヶ月分の離職手当の支払が必要となる。

以上