UAEにおけるM&Aについて

平成30年12月13日更新

  1. 1.はじめに
  2.  近年UAEにおいて、M&Aが活発に行われています。これは、単にUAEにおけるM&Aの取引金額が増加しているというだけでなく、例えば、医療、小売、教育、さらにはヘルスケア等様々な業界においてM&Aが積極的に行われるようになっています。

     UAEにおける主なM&Aの手法としては、①株式取得(Share Purchase)、②事業譲受(Asset Purchase)及び③合併(Merger)の3種類が挙げられます。このうち②は、当該対象会社が保有するライセンスに基づく会社の営業活動と当該資産を切り離して移転することが実際上困難である場合が少なくなく、③についても、上場企業の支配権取得に用いられることがありますが先例はあまり多くないため、現時点において最も一般的に用いられているM&Aの手法は、①の株式取得ではないかと思われます。

     そこで、本稿では、UAEにおけるM&Aの一般的な手法とされる株式取得のメリット・デメリット、手続の流れを中心に説明しつつ、事業譲受や合併についても概説します。

     なお、UAEでは、ドバイ国際金融センター(DIFC)を含むフリーゾーンでは、それぞれのゾーン毎に独自の会社登録やライセンスなどを規制する監督省庁・法規制が存在します。そこで、本稿では、フリーゾーン以外(すなわちUAE本土)で設立された会社のうち、特殊な資本構成を有しない有限責任会社(Limited Liability Company: LLC)をM&Aの対象会社とする場合に絞って、以下、解説します。

     

  3. 2.株式取得によるM&Aについて
  4. (1) 株式取得のメリット、デメリット
  5.  株式取得を用いる主なメリットは、M&Aの対象会社の支配権が単に買主(新株主)に移転するだけで、対象会社の組織・資産はそのまま存続するというシンプルな手続である点です。

     他方、デメリットとしては、株式譲渡契約書において除外されない限りすべての資産及び負債の承継が行われ、買主が不要な資産や予想外の負債を負うリスクがある点です。そこで買主は、後述するデューデリジェンスの結果を株式譲渡契約書の保証条項や補償条項に盛り込む等の対応をする必要があります。

     

  6. (2) 株式取得によるM&Aの主な手続の流れ
    1. ア 基本合意書の締結
    2.  本格的な交渉に入る前に基本合意書を締結することで、最終的な株式取得に向けて協力し、正当な理由なく交渉を中断しないこと(当該正当な理由が生じた場合には、速やかに相手方に通知することを含む)を、相手方当事者の義務として定めておくことができます。

    3. イ 秘密保持契約の締結
    4.  秘密保持契約の締結により、対象会社に関する情報について守秘義務が当事者間に発生し、この義務に違反した者に対しては、損害賠償の請求をなし得ます。加えて、UAEにおいては、秘密保持契約の条項の違反が、刑事犯罪に該当する可能性があるので留意が必要です。

    5. ウ デューデリジェンスの実施
    6.  UAEの企業を対象とするM&Aにおいては、対象企業に関する公的な情報を入手することは困難である場合が少なくなく、対象企業に関する情報が、売主の提供する情報に限定されることが少なくありません。そのため、このデューデリジェンスの手続において、いかに対象企業の正確な情報を確保するかが、特に重要になります。

    7. エ 株式譲渡契約の締結
    8.  株式譲渡契約(Share Transfer Agreement)を締結するにあたり留意すべき主な点を、以下記載します。

      (ア)外国人の出資規制

       UAEのフリーゾーン以外で設立された企業に関しては、外国人は49%を超えて株式を取得することが制限されているため留意が必要です。加えて、これとは異なる出資規制が課せられている保険業や代理店等の業種も存在していますので、対象会社の業種に応じた出資規制の内容を事前に検討しておく必要があります。

      (イ)既存株主の優先買取権

       有限責任会社の既存の株主には、株式譲渡の際に優先的に株式を買い取ることができる権利を有しますので、買主の名称・株式譲渡契約の内容を事前に通知する必要があります。

      (ウ)使用言語

       UAE本土の有限責任会社の株式譲渡契約書その他一定の書類は、定められた方法に従って作成される必要があります。具体的には、アラビア語で作成し、UAE裁判所の公証人の面前で、買主・売主双方が署名する必要があります。使用言語については、アラビア語と合わせて英語その他の言語を併記することも可能ですが、両者間に矛盾が生じた場合にはアラビア語が優先的に適用される旨を定める必要があります。なお、株式譲渡契約の準拠法は、特に定められているわけではありませんので、UAE以外の国の準拠法とすることが可能で、外国投資家が関与するM&Aにおいては旧宗主国である英国法を準拠法とすることが少なくありません。

     

  7. 3.事業譲受について
  8.  事業譲受のメリットは、買主が希望する資産や負債を選ぶことができるところにあります。対象となる資産・負債を個別に選ぶことで、買主は、簿外債務などの潜在的かつ未知の債務を負担することを回避することができます。他方で、買主が、移転する資産・負債の選別をし、個別に移転手続をする必要があるので、特に被用者・ライセンス・個別の取引契約の移転等の手続が煩雑であること、移転を希望した財産が外国人による所有要件を満たさないなどを理由に移転できないという可能性があることなどがデメリットとして挙げられます。

     個別の資産については、原則として、個別の資産譲渡契約において、①契約当事者、譲受対象資産、譲受価格が特定され、②契約当事者が署名をする等の契約の基本的な要件を満たしていれば、譲り受けることができます。これらの場合の資産譲受契約は政府機関に登録等を行う必要はなく、また、アラビア語以外の言語で契約書を作成することができます。ただし、一定の資産については、例えば、登録された知的財産権については権原(title)移転するための登録手続等を行う、賃借物件については賃貸人の承諾を取得する等、譲受資産の性質に応じた手続を個別に行う必要があります。

     また、日本の会社法における事業譲渡のように包括的に資産を譲り受けることも可能ですが、UAE商事取引法(1993年連邦法第18号。以下「UAE商法」といいます。)が適用される場合には、①契約当事者名・事業譲受の日・譲受対象資産・譲受価格等の事項について、公証人の公証を受け、政府機関に登録をし、②関連する債権者を保護するため、当該譲受契約の概要を、日刊新聞において、少なくとも1週間の間隔をおいて2回公告する等の手続が必要となります。

     

  9. 4.合併について
  10.  UAEにおける合併については、主に2015年連邦法第2号(商事会社法)によって規律されています。合併の法的な特徴は、異なる企業が結合することにより、全ての権利義務、契約上の関係、事業、資産、負債及び従業員が、合併後に存続する企業又は合併により新たに設立される企業に承継されるところにあります。

     UAEにおいては、合併という手法は、上場企業の支配権取得に用いられることがありますが、有限責任会社のM&Aの手法としてはあまり用いられることは多くありません。その理由は、株式取得や個別資産の譲受と比べて、債権者への通知・日刊新聞への公告等の手続が煩雑であることに起因していると思われます。

以上