アラブ首長国連邦(UAE)における拠点設置について

2018年1年15日更新

  1. 概要
  2.  UAEに進出する際には、フリーゾーンへの進出か、フリーゾーン域外へのオンショア進出かを最初に検討することになります。

     フリーゾーンへ進出する場合、進出形態はフリーゾーンごとに異なりますが、主に、出資者が1名でも設立可能なFree Zone Establishment(FZE)、出資者が2名以上の会社形態のFree
    Zone Company(FZC)、支店の3形態から選択します。

     オンショア進出の場合には、主として、現地法人設立、支店、駐在員事務所の3形態から選択します。そのうち現地法人設立を選択した場合には、2015年に改正された新会社法が規定する、下記の5つの会社形態から選択します。

    ①Limited Liability Company(LLC、有限責任会社)

    ②Private Joint Stock Company(非公開株式会社)

    ③Public Joint Stock Company(公開株式会社)

    ④Joint Liability Company(無限責任会社)

    ⑤Simple Commandite Company(合資会社)

     以下では、フリーゾーン進出、オンショア進出についてそれぞれ解説し、その後、日系企業の進出形態として主に用いられているLLCの設立手続について詳説します。

     

  3. 1.フリーゾーンへの進出
  4.  フリーゾーンとは、外資100%での会社設立が可能であり、法人税及び所得税の設立後最低50年間の免除等の手厚い投資優遇措置が採られている地域で、その多くがドバイ内に設置されています。フリーゾーンは年々増えており、本原稿の執筆時点で主なものだけでも約40の地域があります。フリーゾーンにおける優遇措置の適用を受ける会社(フリーゾーン会社と呼びます。)は、当該フリーゾーン外のUAE内地での活動は一切禁止されています。

     そのため、フリーゾーン外のUAE内地での商品販売や生産活動を予定している場合には、原則として、オンショア進出を選択する必要がありますが、フリーゾーン会社でもUAE内地での活動が可能となる場合があります。それは、商事代理店の利用です。フリーゾーン会社は、UAE国内資本100%の会社と代理店契約を締結することで、その会社を通して、UAE内地での活動が認められています。なお、この商事代理店は、UAEの経済省(Ministry of Economy)に登録された事業者でなければならず、また、中途解約が厳しく制限されていることから、慎重な事業者選びが必要です。

     前述のとおり、フリーゾーン進出の際には、FZE、FZCという選択肢があり、これらの設立手続は、フリーゾーンごとに定められておりますが、共通して、当局からのライセンス取得が必要になります。手続に要する期間は、オンショア進出の場合よりは短い場合が多く、通常は数か月程度です。

     

  5. 2.オンショア進出の場合の進出形態
  6.  前述のとおり、現地法人設立・支店・駐在員事務所の3形態から選択することになりますが、現地法人の設立形態に比べ、支店、駐在員事務所の設置の場合は、手続が比較的容易で、設立期間も短くて済む場合が多いのではないかと思われます。

     ただし、支店、駐在員事務所いずれの場合にも、当局からのライセンスの取得と経済省への登録が必要です。また、一般的にスポンサーと呼ばれるUAE国内資本100%の会社を任命しなければなりません。駐在員事務所の場合には、商業的な活動は一切許されず、また、支店の場合にも、当局によって活動範囲が制限される場合があります。

     現地法人設立の場合には、既に述べた5つの法人形態から選択できますが、その中の無限責任会社及び合資会社は、基本的には、出資者がUAE国民に限られています。また、公開株式会社は、最低資本金が3000万ディルハム(約9億円)に設定されており、UAEでの上場を想定した法人形態と言えます。

     以上から、日本企業がUAEに進出する際には、LLC(有限責任会社)か非公開株式会社のどちらかを検討するケースが多かったのではないかと思われますが、2015年の会社法改正で、非公開株式会社の最低資本金が200万ディルハム(約6000万円)から500万ディルハム(1億5000万円)に大幅に引き上げられたことから、今後は、LLCでの進出を選択する企業がさらに増えるものと思われます。他方で、会社法改正によって、非公開株式会社については、今後、種類株式制度が整備されることが明記された一方で、LLCについては当該条項の準用がされなかったことから、今後の種類株式制度の整備状況によっては、非公開株式会社のニーズが増えることも考えられます。

     

  7. 3.LLCの設立
  8. (1) 設立条件
  9. ① 2015年の会社法改正で、1人株主でのLLC設立が可能となりました。株主数の上限は50人です。そして、LLCの資本の51%以上が、UAE 国民あるいは UAE の国民が100%所有する会社によって所有される必要があります。

     よって、LLCを設立してUAEに進出する日系企業としては、信頼できるローカルパートナーを見付けることを前提として、そのパートナーとの間で株主間契約を締結し、自社が実質的な経営権を支配できるような定めをする等の工夫が必要となります。例えば、日系企業に取締役の過半数の選任権を与えたり、重要な経営事項に関する拒否権を付与したりする方法です。また、株主間契約においては、利益配分の規定や、デッドロック条項、撤退に際してのエグジット条項の規定を設けておくことが肝要だと思われます。

    ② LLCの最低資本金について具体的な金額は定められておらず、会社法上は、「会社の目的を達成するため十分な額」と規定されており、個別に判断されることになります。例えば、ドバイやアブダビの場合には、通常は、30万ディルハム(約900万円)の資本金が必要とされています。

  10. (2) 具体的な設立手順(ドバイの場合)
  11. ① まず、ドバイの政府経済開発局(Department of Economic Development 、DED)の事業分類リストより、設立する会社の事業分野を特定します。

    ② DEDで、自社がUAEで用いる商号を仮登録します。

    ③ LLC設立をDEDに申請し、LLC設立の事前承認を取得します。申請の主な必要書類は次のとおりです。

     ・LLC設立事前承認の申請書

     ・商号の予約証明書

     ・設立申請者の身分証明書の写し

     ・LLC設立を決議した親会社の取締役会決議書

      *アラビア語に翻訳し、在外UAE大使館およびUAE外務省の認証を受ける必要があります。

     ・関連当局が発行したNo Objection Letter

    ④ DEDから最終承認とライセンスを取得します。申請の主な必要書類は次のとおりです。

     ・事前承認書

     ・事前承認取得時の必要書類一式

     ・事務所賃貸契約書写し

     ・会社定款

      *公証人の認証を得る必要があります。

     ・親会社の会社定款

      *アラビア語に翻訳し、在外UAE大使館およびUAE外務省の認証を受ける必要があります。

     ・親会社の登記事項証明書

      *アラビア語に翻訳し、在外UAE大使館およびUAE外務省の認証を受ける必要があります。

  12. (3) 設立に要する期間
  13.  航空運送業、建設業、医療関連等、特定の分野のライセンスの要否等にもよりますが、標準的なケースでは、3~6か月間を要します。

以上