トルコ汚職防止関連法について

平成30年11月12日更新

  1. 1.はじめに
  2.  近年、トルコでは汚職が頻発しています。2013年にはエルドアン内閣のムアメル・ギュレル内相の息子、ザフェル・チャーラヤン経済相の息子、国有ハルク銀行の頭取等を含む24名を対象とする大規模な摘発が行われ、閣僚3人が辞任するまでに発展しました。

     また、トランスペアレンシー・インターナショナルが公開する2017年度の腐敗認識指数ランキングによれば、トルコは全180カ国中81位であり、日本(20位)や、シンガポール(6位)、米国(16位)、中国(77位)といった日本企業の上位進出先の諸国と比較しても低い水準にあります。

     そこで、本稿では、トルコにおける汚職防止関連法の法整備の現状を概説します。

     

  3. 2.トルコ汚職防止関連法の概要
  4. (1) 法体系
  5.  トルコにおいては、包括的に汚職防止・贈賄禁止を規律する法律は制定されておらず、個別の法令においてそれぞれ規定されているのが現状です。主な法律としては、①トルコ刑法(法第5237号)、②資産の申告並びに贈収賄及び汚職の対策に関する法律(法第3628号)、③公務員法(法第657号)、④公共事業に関する倫理評議会設立関連法があり、それぞれに汚職防止・贈賄禁止に関連する規定が置かれていますが、規制の最も中核になるのは、①トルコ刑法になると思われます。

     そこで以下では、トルコ刑法における贈収賄罪の規定を中心に、公務員の定義、汚職に関する罪等について検討します。

  6. (2) 公務員の定義
  7.  トルコの法令においては、「公務員」という用語について、統一的な定義がなく、関連する法令によって様々な定義規定が置かれています。

     中でも、トルコ刑法が最も広範囲を捕捉しており、有期若しくは無期を問わず、また、選挙、指名その他の選任方法を問わず、公務に従事する者を「公務員」であると定義しています。従って、トルコ刑法における「公務員」該当性を判断するにあたっては、行政主体とどのような雇用関係にあるのか等は別段考慮されず、主として従事している業務が公共的性質を有する否かを基準として判断されることになります。

     例えば、トルコの国有企業に勤める従業員は、トルコの地方公共団体において勤務しているわけではなく、明文で定められているわけでもありませんが、公共的活動に従事している限り、トルコ刑法上の「公務員」に該当すると解されます。

  8. (3) 贈賄罪・収賄罪の概要
    1. ア 贈賄罪
    2.  贈賄行為とは、公務員の職務行為に関する作為又は不作為の対価として、直接又は間接に、公務員又は公務員が指定する第三者に対して、不正な利益を供与する行為を言います。実際に利益の供与がされる場合に限らず、公務員の職務行為に関する作為又は不作為の対価として、賄賂を供与する約束をした場合でも、既遂に達します。

       自然人が贈賄行為を行った場合は、4年以上12年以下の禁固刑に処せられます。もっとも、公務員から賄賂を要望されたがかかる要求を受け入れなかった場合や、公務員に対して賄賂の申し出をし又はその約束をしたが当該公務員がこれを受け入れなかった場合には、刑が2分の1に減ぜられます。

       また、法人が、贈収賄行為を通じて不正な利益を得た場合は、関連する許認可の撤回、財産の没収等の処罰が科せられます。

       賄賂の申し出や要求を仲介したり、賄賂に関する合意をまとめたり、賄賂の供与を手助けした者も、公務員であるか否かに関わらず、共犯として処罰の対象となります。

    3. イ 収賄罪
    4.  収賄行為は、公務員が、公務員の職務行為に関する作為又は不作為の対価として、直接又は間接に、自身又は自身が指定する第三者に対する不正な利益を確保する行為を言います。贈賄罪と同様に、不正な利益を受け取る合意をした場合でも既遂に達します。

       自然人が収賄行為を行った場合は、贈賄罪と同様に4年以上12年以下の禁固刑に処せられます。

       相手方の拒絶によって未遂にとどまった場合に自然人の刑が減じられる点、贈収賄の仲介を行った者が共犯として処罰される点については、贈賄罪と同様です。

    5. ウ 刑の加重
    6.  上記の贈収賄罪について、賄賂の収受、要求及び合意を行った者が、裁判官、仲裁人、鑑定人、公証人などである場合は、贈収賄罪の法定刑にその3分の1から2分の1を加えたものが刑期となります。

    7. エ 私人間における利益の供与等に対する処罰
    8.  トルコ刑法の贈収賄罪の規定に関して留意すべきは、一定の場合には、公務員を当事者としない民間の法人又は自然人相互間においても贈賄罪・収賄罪も成立しうる点です。

       すなわち、公務員であるか否かにかかわらず、ある者が不正な利益を収受し、申し出又は約束を行った場合であって、その者が一定の公共団体・公益団体等に代わって行為をするときは、贈賄罪・収賄罪の規定による処罰の対象となります。

    9. オ 国際的な贈収賄に対する取り組み
    10.  トルコ刑法は、上記の贈収賄罪に関する規律が、下記のような外国公務員にもにも適用されることを明記しています。

       ①外国において選任又は任命された公務員

       ②裁判官、陪審員その他の国際的な法廷又は外国の法廷等で職務を遂行する公務員

       ③国際的な議会等の構成員

       ④公共機関・公共的組織を含む外国政府において公共サービスを提供する者

       ⑤仲裁手続において任命された市民又は外国仲裁人

       ⑥国際的な合意に基づいて設立された国際的組織の職員又は代表者

  9. (4) 汚職に関する罪の概要
  10.  上記で述べた贈収賄罪の成否とは別に、公務員が、自身の職務に由来する影響力を濫用して、他人に対し利益の供与やその約束を強要した場合は、5年以上10年以下の禁固刑に処せられます。本項の罪の成否を左右する主たる基準は、公務員が公権力を背景にした威圧的な強要を行ったか否かによります。仮に公務員が公平な職務行為をしないとの懸念から、相手方が公務員に利益を供与した場合は、かかる威圧的な強要があったとみなされます。

     また、公務員が、威圧的な強要を行ったと認められない場合であっても、自身の職務に由来する影響力を濫用して、詐欺的手法によって利益の供与や約束をさせたときは、3年以上5年以下の禁固刑に処せられます。ただし、当該公務員が他人の誤解に乗じて利益の供与を受けた場合には、1年以上3年以下の禁固刑に処せられることになります。

     

  11. 3.エンフォースメントの現状
  12.  冒頭に述べたとおり、トルコは、近年、トランスペアレンシー・インターナショナルが公開する腐敗認識指数ランキングにおいて、そのスコアが下降しています。

     また、2014年のOECDにおける国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約の適用状況のモニタリングレポートにおいても、トルコの贈収賄に対するエンフォースメントが低いレベルに留まっていることに深い懸念が示されています。

     これに対して、2015年2月20日付でトルコ法務省から「国際的な汚職問題に関する調査及び訴追」と題する通達157号が発出されるなど、国際的な贈収賄に対する検挙体制の整備が進められています。

     今後は、これらのエンフォースメントの更なる改善が望まれるところです。

以上