トルコにおける拠点設置について

平成29年10月21日更新

  1. 1.はじめに
  2.  トルコでは、2012年7月から新たなトルコ共和国商法(法6102号)が施行されています。そして、同法下での拠点設立形態としては、①トルコ法に準拠した株式会社、②トルコ法に準拠した有限責任会社、③外国法に準拠した外国会社の支店、④外国法に準拠した外国会社の駐在員事務所が考えられます。

     このうち、株式会社または有限責任会社の設立はトルコに進出する形態としては最も一般的な選択肢であり、いずれの形態を利用するかを適切に判断するため、その概要及び相違点を予め把握しておくことは有益です。

     そこで、本稿では、まず株式会社と有限責任会社の主たる相違点について説明した後、その設立手続の概要を紹介します。

     

  3. 2.株式会社及び有限責任会社の主たる相違点
  4.  株式会社及び有限責任会社は、いずれも、その出資者が株式という細分化された割合的単位としての地位を有し、その引き受け価額の合計額が会社の資本を構成する会社であり、法令及び定款によって事業範囲等が画される営利法人であるため、広範な経済活動をその事業として行うことが可能な進出形態です。

     株式会社と有限責任会社の主な相違点は、以下のとおりです。

  5. (1) 出資者の責任
  6.  株式会社の株主は、保有する株式の引受価額を限度として責任を負うにとどまり、それを超えて債権者に対して責任を負うことはありません(間接有限責任)。

     他方で、有限責任会社の出資者は、株式会社と同様に間接有限責任の負担を原則としつつも、税金や社会保険料等の公的債務については例外的に無限責任を負担します。

  7. (2) 最低資本金額
  8.  株式会社における最低資本金の額は、原則として5万トルコリラ(≒約156万円、1トルコリラを約31.3円(2017年8月現在)で換算)とされています。

     他方で、有限責任会社における最低資本金の額は、原則として1万トルコリラ(≒約31万円)と株式会社の5分の1に過ぎません。

  9. (3) 株式・持分の譲渡
  10.  株式会社では、株主は保有株式を任意に譲渡して投下資本の回収を図ることができます。また、多様な資金調達目的を達成するために株券を発行することが認められており、譲渡は株券の交付や裏書によって行うことができます。

     他方、有限責任会社では、出資者が出資持分を譲渡しようとする場合は、出資者総会の特別決議が必要となります(譲渡制限)。また、出資者の持分が化体した証券を発行することは認められません。

  11. (4) 機関設計
  12.  株式会社では、意思決定機関として株主総会のほかに取締役会を設置することが必要とされています。株式会社の取締役会は、法令及び定款によって株主総会決議事項として留保された事項を除き、事業目的を達成するために必要なあらゆる事項を決定し代表する権限を有しています。

     これに対して、有限責任会社における意思決定機関は出資者総会のみであり、取締役会の開催頻度等に係る規定は置かれていません。出資者総会で任命された経営者が日常業務を行うことになります。

     上記の相違点からすると、株式会社は発展的・フレキシブルな事業形態であるのに対して、有限責任会社は閉鎖的な小規模事業を想定した形態であると言えます。

     両者の選択を検討する際の留意点としては、以下の業種については、個別法によって事業形態を株式会社とすることが義務付けられており、株式会社の形態を選択せざるを得ない点には留意が必要です。

    • 銀行
    • 保険
    • 証券会社
    • ファイナンスリース
    • 消費者金融
    • 持株会社

     

  13. 3.設立手続の概要
  14.  トルコにおける株式会社・有限責任会社の設立に必要となる主な手続は、以下のとおりです。

  15. (1) MERSISへの登録及び新設会社の定款作成
  16.  MERSIS(Central Trade Registry System)とは、トルコ税関通商省(Ministry of Customs and Trade)が管理する商取引情報の集中管理システムのことを言います。新設会社の定款の作成・登録は同システムを通じてオンラインで行われます。

  17. (2) 設立関係書類の作成及び公証
  18.  商取引登記所へ提出する設立関係書類を準備します。かかる設立関係書類のうち、一般に公証が必要とされている書類の主なものは、以下のとおりです。

     ①新設会社の会社定款
     ②署名に関する宣誓書
     ③発起人による宣誓書
     ④取締役会構成員(非出資者)による義務受入書
     ⑤取締役の身分証明書(パスポート等)
     ⑥出資者が自然人の外国投資家である場合の必要書類
      ・出資者の身分証明書(パスポート等)
     ⑦出資者が法人の外国投資家である場合の必要書類
      ・活動証明書
      ・法人株主から構成される権限ある機関の設立承認決議
     ※新設会社の会社名、活動領域等について、特別な条件が設定されていれば、かかる条件も併せて決議に記載する。

     なお、上記の設立関係書類のうち、トルコ国外で作成・発行された書類は、日本の公証役場での認証、アポスティーユを受けた上で、トルコ語に翻訳し、トルコの公証役場において認証を受ける必要がある場合があり、その費用・日数を予め考慮に入れておく必要がある点には、注意が必要です。

  19. (3) 資本金払込証明書の取得
  20.  銀行口座を開設し、資本金を払い込んだ上で、銀行から資本金払込証明書を取得します。設立時の払い込み金額は、資本金の額の4分の1で足りますが、その残額については設立後24か月以内に払い込まれなければなりません。

  21. (4) 公正取引機構管理口座への入金に係る領収書の取得
  22.  資本金の0.04%を公正取引機構が管理する銀行口座に入金し、領収書原本を取得します。

  23. (5) 商取引登記所への登録申請
  24.  会社設立の登録申請に必要な書類の主なものは、以下のとおりです。これらは、商取引登記所に提出します。

      ①会社設立請願書
      ②会社設立届出書
      ③公証済定款
      ④公正取引機構管理口座への入金に係る領収書
      ⑤会社代表者による署名宣誓書
      ⑥発起人による宣誓書
      ⑦署名に関する宣誓書
      ⑧商工会議所登録書
      ⑨取締役会構成員(非出資者)による義務受入書
      ⑩資本金払込証明書

     上記申請書類の提出後、通常、2~3日で会社設立の登記が完了し、10日以内に会社設立が官報において公示されます。

     

  25. 4.まとめ
  26.  トルコでは、2003年の外国直接投資法の施行により資本自由化が一段と進み(トルコにおける外資規制の現状については「トルコにおける外資規制および投資インセンティブについて」をご参照ください)、外国資本による会社設立手続が承認制から届出制に移行するとともに、会社設立手続のワンストップ化が図られることで、手続期間が大幅に短縮されました。

     他方で、手続の細部においては、相互に矛盾する部分が残されていたり、必要書類のアポスティーユ処理のような手間を要する部分があるため、余裕を持ったスケジュールの策定が肝要と言えます。

    以上