タイにおける倒産処理

2016年12月13日更新

 タイにおける倒産処理は、破産法によって規律されている。同法は4回の改正を経てその近代化が図られており、現行法は倒産処理の仕組みとして、①破産手続と、②再生手続の2種類を設けている。以下では、破産的清算手続について、説明を加える。

1 破産手続の開始

     破産手続は、原則として、債権者の申立てに基づいて、債務者において破産手続を開始すべき破産原因が存在すると認められる場合に、裁判所が債務者に対して財産管理命令を発することによって開始される。

  1. (1) 破産原因
  2.  タイ破産法は、債務者の債務超過を一般的な破産原因としている。債務超過とは「債務が財産を上回っていること」をいう。

     もっとも、同法は、債権者による濫用的な破産申立てを防止する観点から、法人が債務者である場合は原則として200万バーツ(約647万3000円)以上の債務が存在することを要件として定めている。

  3. (2) 破産訴訟棄却事由
  4.  同法は、裁判所において、たとえ破産原因たる債務超過が認められる場合であっても、債務者を破産させるべきではない事由(破産訴訟棄却事由)が存するときは、申立てを棄却する旨を定めている。

     破産訴訟棄却事由の例としては債務者において全債務を完済する能力が認められる場合などが挙げられ、証拠としては決算報告書や貸借対照表が用いられる。

     債務者による破産訴訟棄却の申立ては、裁判所による財産管理命令よりも前に行われる必要がある。

2 財産管理命令

 裁判所は、破産手続開始に係る要件を充足していると判断した場合、財産管理命令を発出する。破産管財人は、財産管理命令を官報及び新聞で公告する。また、債務者は、財産管理命令を知った日から7日以内に、管財人に対して宣誓するとともに、債務者の事業及び事業財産に係る説明を行う。

  1. (1) 財産管理
  2.  ア 破産管財人の権限

     財産管理命令は、破産管財人による債務者の社印・会計帳簿、債務者その他の第三者の占有する財産等に対する差押令状と同一とみなされ、これによって破産管財人は債務者の財産等に対する差押権限及び差押えに必要な処分を行う権限を有することになる。

     もっとも、債務者は、この段階では未だ破産宣告を受けたわけでないことに留意が必要である。破産管財人が差押えた財産も、原則として、破産宣告がなされるまでは売却されない。

     イ 債務者の義務

     債務者は、債務者の財産、社印、会計帳簿、財産、事業に係る書類を全て破産管財人に引渡す義務を負う。また、債務者は原則として自己の財産や事業を管理することが禁じられる。

  3. (2) 債務者の権利制限
  4.  ア 生活費の額の決定

    債務者は、破産管財人が決定した生活費用の金額の範囲で生計を立てなければならない。

     イ 破産管財人に対する報告

    債務者は、何らかの財産を受け取る場合、破産管財人に対して書面で報告しなければならない。また、債務者は、6カ月ごとに、破産管財人に対して収支を報告しなければならない。

     ウ タイからの出国禁止

     債務者は、原則、タイから出国することができない。

    3 債権者集会

     破産管財人は、速やかに第1回債権者集会を招集する。第1回債権者集会では、債権者において債務者の破産宣告をすべきか否か、債務者の和議(債務者が債権者との間で行う債務の一部弁済又はその他の方法による債務弁済の合意)の提案を容認すべきか否か等が決定される。債務者は、債権者集会に出席した上、集会において管財人や債権者からの質問に回答しなければならない。債権者にとっては、以降の手続の分水嶺となるため、極めて重要な意義を有する手続であると言える。

     第2回以降の債権者集会は、裁判所の命令があった場合や一定数の債権者からの求めがあった場合など必要に応じて招集される。

     破産管財人は、全債権者集会で議長を務め、議事録を作成する。

    4 公開債務者調査

     裁判所は、第1回債権者集会開催後、直ちに債務者の公開調査を行い、債務者の事業及び財産、超過債務の事由、並びに本法令または破産に係る他の法令に対する違反行為の有無等を確認する。

    5 破産前の和議手続

     債務者は、破産前の和議手続を希望する場合、破産管財人に対して事業及び財産に係る説明をした日から7日以内に、破産管財人が定めた期間内に、破産管財人に対して書面で和議の申立てを行う。

     債権者が債務者の和議提案を容認すべきか否かは債権者集会で検討されるが、容認決定には特別決議(当該債権者集会に出席し、当該決議に賛成票を投じた債権者の債権額が、総債権額の4分の3以上)が必要である。

     債権者集会において債権者が債務者による和議提案を容認すべき決定がされた場合、債務者または破産管財人は、裁判所に対して和議の承認請求をすることができる。但し、公開債務者調査が行われない限り、裁判所は原則として債務者が提案する和議案を承認することができない。

     裁判所が和議の承認を命じた場合、当該命令日から7日以内に、破産管財人は官報及び新聞にて公示を行う。また、債権者集会において容認され、裁判所が承認を命じた和議の内容は全債権者を拘束する。但し、和議によっても保証人等の責任は免除されない。

    6 破産宣告

     債権者集会で債務者の破産宣告を行うべき旨の決定がされたとき、債権者集会において何らの決議も行われなかったとき、和議が承認されなかったとき等の場合において、裁判所は債務者の破産を宣告し、破産管財人は破産者の財産を管理する。

     裁判所が破産宣告を行った場合、債務者は財産管理命令を受けた日から破産していたものとみなされる。  

    7 分配されるべき財産

     破産手続で債権者に配当される財産は以下のとおりである。

     ①破産宣告を受けた時点で債務者に帰属する全財産、及び第三者の財産上の請求権。但し、以下を除く。

      (a)債務者及びその扶養家族の生計維持のために必要な身の回り品

      (b)家畜、農作物または債務者が生計を立てるために使用している仕事道具で、その価値の合計が10万バーツ(約32万3000円)を超えないもの

     ②破産宣告から復権までの間に債務者が取得した財産

     ③債務者が業務や取引において真の所有者の承諾を得たうえで所持し、または債務者の管理下にあるもののうち、状況から見て破産申立時点で債務者が所有者であったと認められるもの。

    8 財産管理の終了

     以上の破産手続は、①破産後の和議、②裁判所による裁量的免責、③自動的免責の3通りが存する。如何なる場合でも、破産者は、3年間の期間が経過した後は、自動的な破産手続から解放される。

    以上