タイにおけるM&A・組織再編

2016年4月29日更新

 タイにおけるM&Aの手法としては、主として、1.対象会社の株式を対象とする既存の株式の譲受及び新株の引受、2. 新設会社が合併当事会社の資産及び権利義務を承継する合併、及び3.対象会社の事業・資産を譲り受ける事業譲渡の方法が考えられる。以下では、タイ進出の際に用いられることが多いと思われる非公開非公開株式会社に関する規制を中心として、1.株式取得、2.合併、3.事業譲渡の順に、それぞれの手法の概要を紹介する。

  1. 1. 株式取得
  2.  株式取得は、(1)既存の株主から既発行株式を取得する方法、(2)会社が新たに発行する株式を取得する方法に分けることができる。以下、順に記載する。

     なお、対象会社が外国人事業法上の規制事業を行っており、当該株式取得により外資出資比率の制限に抵触することになる場合には、外国人事業許可やタイ投資委員会(Thailand Board of Investment: BOI)の投資奨励を取得する等の対応策を合わせて講じる必要が生ずる点には注意が必要である。対応策については、本ホームページ内の「タイにおける外資規制」における4.事業内容が外国人事業法の規制対象事業である場合の対応を参照されたい。

    1. (1) 既発行株式の取得
    2.  非公開会社の株式譲渡は譲渡人・譲受人が署名しこれを証人が証明した書面により行うことが必要であることから、株式譲渡契約に加えて譲渡証書が作成される場合が少なくない。

       また、株式譲渡を会社に対して対抗するためには、譲受人の氏名・住所が株主名簿に記載されることが必要である。加えて、付属定款において株式譲渡に株主総会・取締役会の承認を要する等の譲渡制限が定められている場合、これに従う必要が生ずることから、付属定款の記載には注意すべきである。

    3. (2) 新株の取得
    4.  非公開会社が新株を発行するには、株主総会の特別決議が必要である。また、非公開会社の新株発行は、既存株主が新株引受権を有しているため、これらの者の出資比率に応じて行う必要がある。このため、第三者割当増資を行う必要がある場合には、実務上、以下の方法が用いられることが多いように思われる。

       (i) 増資を引受ける新株主が、既存の株主から1株以上の株式を譲受け、既存株主となる。

       (ii) 新株主を除く全ての既存株主が、取締役会に対して、当該新株発行を引受けない旨を通知して、当該新株発行に関する引受権を放棄する。

       (iii) 新株主が、当該新株発行を引受ける。

  3. 2. 合併
  4.  タイにおける合併は、合併当事会社は全て消滅し、新設会社が合併当事会社の資産及び権利義務を承継するという制度のみが存在している。

     非公開会社の合併には、各合併当事会社の25%以上の株式を有する株主が出席する株主総会における特別決議が必要である。当該特別決議には、定款に別段の定めがない限り75%の株主の賛成が必要である。

     株主総会で合併決議が承認された場合、新聞公告及び60日間の債権者保護手続を経る必要がある。ここで異議を述べる債権者が存在する場合には、合併当事会社が当該債権者に対して弁済又は担保提供を行わない限り、合併を実施することはできない。

  5. 3. 事業譲渡
  6.  事業譲渡の手法を用いる場合には、前記1.(株式取得)とは異なり、譲り受ける事業・資産・債務を個別に選択することが可能であるが、これらに関する権利・義務については個別に移転手続を行うことが必要である。対象事業が外国人事業法上の規制事業である場合には、取得している外国人事業許可やBOIの投資奨励等についても手続を行う必要がある点には注意が必要である。

     非公開会社の場合、事業譲渡について株主総会の決議は法令上は規定されていない。しかし、全部事業譲渡又は重要な事業譲渡については、株主の利害に影響を及ぼすことから、株主総会の決議を取得することが実務上行われる場合が少なくない。

以上