シンガポールにおける投資優遇制度

2016年2月1日更新

 シンガポールにおける投資優遇制度の特徴の1つは、ASEAN各国において多くみられる一定の事業活動に対して認められる優遇措置に加えて、事業内容・活動地域とは無関係に広く一定の会社であれば利用できる税務上の制度が存在している点である。これにより、シンガポールにおいて事業を営む者は、ASEANの中では最も有利と思われるシンガポール法人税率(17%)に加えて、これらの制度を活用することによりさらなる税務上のメリットを享受することができる。以下では、1. 一般的な税務上の制度、2. 特定の事業に対する主な優遇制度の順に記載する。

  1. 1. 一般的な税務上の制度
  2.  以下では、シンガポールおける法人が一般的に法人所得税の減免を受けうる制度として、(1)新会社向け免税制度、(2)部分免税制度、(3)割戻減税制度を紹介した後、シンガポールの税制の特色の1つである(4)キャピタルゲイン非課税について記載する。

    1. (1) 新会社向け免税制度(Tax Exemption Scheme for New Start-Up Companies)
    2.  シンガポールで新設された法人で一定の要件をみたすものは、設立から3年間、通常の課税所得のうち最初の10万シンガポールドル(約850万円)の100%及び次の20万シンガポールドル(約1700万円)の50%に対する法人税が免税となる。かかる制度を利用するための要件の概要は以下のとおりである。

      1. ①シンガポールで設立された会社であること。
      2. ②シンガポールの税法上の居住法人であること。
      3. ③株主が20名以下であり、かつ全ての株主が自然人であるか又は1名以上の自然人株主が少なくとも10%の株式を保有していること。
      4.  ただし、当該会社の主たる活動が投資資産の保有である場合等には、本制度は利用できないため注意が必要である。

    3. (2) 部分免税制度( Partial Tax Exemption for Companies )
    4.  通常の課税所得のうち最初の1万シンガポールドル(約85万円)の100%及び次の29万シンガポールドル(約2465万円)の50%に対する法人税が免税となる。かかる制度は、新会社向け免税制度を利用している会社を除くシンガポール国内のすべての会社及び外国会社の支店が利用することができる。

    5. (3) 割戻制度(賦課年度2013年~2017年)
    6.  シンガポールにおいては、賦課年度2017年までは、会社は法人税額の30%に相当する額については割戻減税を受けることができる。ただし減税額の上限が定められており、賦課年度2013年~2015年においては各年上限3万シンガポールドル(約240万円)、同2016年及び2017年は各年上限2万シンガポールドル(約160万円)である。

    7. (4) キャピタルゲイン非課税
    8.  シンガポールにおいては、資産・証券等の保有資産の売却により得た値上り益等のキャピタルゲインは一般に課税対象とされておらず、それがインカムゲインの性質を有する場合にのみ課税対象とされる。取得した値上がり益がいずれの性格かの判断は、①売却の意図、②資産の保有期間、③類似取引の頻度、④取得の際の資金調達の方法等の事情を考慮して判断される。

       シンガポールの租税当局のガイドラインによると、以下の要件を満たす普通株式の処分が2012年4月から2017年3月31日の間に行われた場合、かかる処分から生じた値上り益は非課税とされている。

       ・株式を売却する会社が、投資対象会社の20%以上の普通株式を、連続して24ヶ月以上保有したこと。

       この投資対象会社は、シンガポール国外で設立された会社であってもよく、また、当該会社が上場しているか否かを問わないとされている。

  3. 2. 特定の事業に対する主な優遇制度
  4.  シンガポール政府は、事業戦略の拠点としてシンガポールを活用し、又は相当規模の資本投資、高度な技術・製造技術に関連したプロジェクト、特殊技術や専門的サービスの提供を行う企業等に対して様々な優遇措置を用意している。以下では、進出企業により検討されることが比較的多いと思われる制度の概要を紹介する。

    1. (1) 地域統括本部(RHQ: Regional Headquarters Award)優遇制度
    2.  シンガポールにおいて国外のグループ企業に対して統括本部サービスを提供している企業は、政府の認定を受けることにより、海外からの適格所得の増加分について、3年間にわたって15%の軽減税率が適用され、要件をすべて満たす場合にかぎり更に2年間にわたって15%の軽減税率が適用される。

      認定を受けるための要件には以下が含まれる。

      1. (a) 資本金
      2.  ・払込資本金の額が適用開始から1年以内に20万シンガポールドル(約1720万円)以上、3年以内に50万シンガポールドル(約4300万円)以上になること。

      3. (b) 本部サービスの提供
      4.  ・3種類以上の本部サービスを3カ国以上の国外のグループ会社に提供すること。

      5. (c) 人員
      6.  ・従業員の75%以上が一定以上の資格を有すること。

         ・適用開始から3年以内に10人以上の専門職を追加雇用すること。

         ・適用開始から3年以内に上位5名の職員の平均年収が10万シンガポールドル(約860万円)以上になること

      7. (d) 事業支出
      8.  ・適用開始から3年以内に、シンガポールにおける年間事業支出が200万シンガポールドル(約1億7200万円)以上増加すること。

         ・適用開始から3年間の事業支出の累計金額が300万シンガポールドル(約2億5800万円)以上増加すること。

    3. (2) 国際統括本部(IHQ:International Headquarters Award)優遇制度
    4.  国際統括本部優遇措置は、上記の地域統括本部の要件を超える企業を対象とする優遇措置であり、その税率・適用期間等の具体的な優遇措置の内容は政府との協議により定められる。

    5. (3) パイオニア企業優遇制度
    6.  パイオニアとして政府から認定を受けた場合、要件を満たした事業活動から得た増分適格所得について、最長15年間にわたり法人所得税の免除を受けることができる。認定の具体的な基準は定められておらず、シンガポールでの設備投資額、製品の種類、投資規模、技術レベル等を考慮して、原則として政府との協議を通じて判断される。

    7. (4) 合併・買収スキーム(M&A Scheme)優遇制度
    8. 一定の要件を満たすM&Aについては、取得価格の25%(上限500万シンガポールドル(約4億2500万円))の損金算入、印紙税の免除(上限4万シンガポールドル(約320万円))及び弁護士費用を含む買収関連費用(上限10万シンガポールドル(約800万円))の200%相当額の損金算入が認められる。

      2015年4月1日から2020年3月31日までの期間のM&Aに適用される優遇制度の要件の概要は以下のとおりである。

      1.  (a) 株式取得割合の要件(買収会社による直接取得又は株式取得のための子会社による間接的な取得でも充足可。)
      2.  ・対象会社の50%を超える普通株式を取得すること、又は

         ・対象会社の普通株式の20%以上を取得し、かつ対象会社の取締役1名を有する等の一定の要件を満たすこと。

      3. (b) 対象会社の要件
      4.  ・対象会社が株式取得時に事業を行っており(シンガポールで事業を行っていることは要件とされていない。)、かつ株式取得前12ヶ月を通じて少なくとも3名の従業員を有すること。

      5. (c) 買収会社の要件
      6.  ・シンガポールで設立されかつ税法上の居住法人であること。(ただし、上記のRHQ、IHQその他一定の優遇制度を利用している取得会社は、担当省庁に当該要件の放棄を求めることが可能。)

         ・株式取得の日にシンガポールで事業を行っていること。

         ・株式取得前12ヶ月の間に少なくとも3名のローカル従業員(取締役を除く)を有すること。

         ・株式取得前少なくとも2年間、対象会社と関係を有しないこと。

       以上の他にも、(5)一定の建築物の建設や改築・拡張工事にかかる適格資本支出について一定の控除認める土地集約利用化投資控除、(6) 一定のシンガポール国外での生産設備導入に伴う資本支出の割合に基づく控除を認める総合投資控除、(7) 一定の事業活動から得た増分適格所得に法人税の軽減税率の適用を認める経済拡張支援策や、船舶・金融など個別分野における優遇制度等、様々な優遇措置が存在している。これらシンガポールにおける優遇制度の特徴の1つは、適用の要件や優遇内容について明確な基準が存在せず担当省庁との交渉により決まる制度が多い点である。したがって、まずは予定している事業に該当する可能性のある優遇制度を絞り込んで、担当省庁に連絡を取ってみることも一考に値すると思われる。