労務管理

2022年1月24日更新

1. 労働法制

⑴ 労働法制総説

 シンガポールの労働法制においては、雇用法(Employment Act – Cap.91)が中心的地位を占めるが、他にも多くの関連法があり、また、コモン・ローも様々な状況において適用される。

 加えて、雇用関連の問題に関するガイドラインと勧告が、 公正で進歩的な雇用慣行のための三者同盟 (Tripartite Alliance for Fair and Progressive Employment Practices – TAFEP)によって定期的に出されるが、これらには直接的な法的拘束力はないものの、仮に使用者がこれに従わない場合、この三者同盟の一当事者である労働省(MOM)によって調査され、ビザ関連の特権を削減される可能性があるため、注意が必要である。

⑵ 雇用法の適用対象

 労働法は、原則としてすべての従業員を適用対象としているが、①船員、② 家事労働者、③法定機関又は政府によって雇用された者は、適用対象から除外されている。

 また、休憩日、労働時間、及びその他のサービス条件を規定する労働法の第4章は、①基本月給がSGD4,500を超えないWorkman(肉体労働者)、②Workmanではないが、基本月給がSGD2,600を超えない労働法の対象となる従業員、③すべての管理職及び上級職には適用されない。

  TAFEPのガイドラインと勧告は、基本的にすべての従業員と雇用主に適用されるが、直接的な法的拘束力がない点については、前述のとおりである。

⑶ 雇用法の強行法規性とコモン・ローの雇用契約内容への影響

 雇用法は、雇用法によって規定された条件よりも従業員にとって不利な雇用契約のすべての条項は違法であり、無効であると規定している(強行法規)。ゆえに、雇用契約書の作成においては、その内容がEAに抵触していないかという点について、細心の注意を払う必要がある。

 加えて、前述のとおり、コモン・ローの適用にも留意しなければならない。シンガポールの裁判所は、雇用契約当事者間における相互の信頼と信用に基づく義務を認めており、雇用契約書や雇用法に直接明示されていなくとも、使用者は労働者に対して様々な義務を負うものと考えられている(例えば、一方的にかつ不当に雇用契約の条件を変更しない義務、セクシャルハラスメントの苦情を調査する義務、礼儀正しさと敬意を持って行動する義務が含まれるが、これらに限られない)。

2. 解雇

⑴ 解雇総説

 シンガポールの労働法制の特徴の1つは、使用者が解雇を行うための要件が他のASEAN各国と比べて緩やかで、会社側が比較的容易に雇用契約を終了することができる点が挙げられる。以下では、シンガポールにおける(1)一般的な解雇の要件と、(2)解雇に必要な手続を紹介する。

⑵ 解雇の要件

 シンガポールにおいては、使用者が雇用契約を終了する場合、雇用契約に定められた事前通知等の手続を履践すれば解雇は有効であり、解雇の正当事由は要件とはされていない。また、使用者が自己都合により雇用契約を終了する場合であっても、労働組合・裁判所・所轄官庁の許可の取得等の手続を経ることは要件とされていない。さらに、解雇に際して退職金等の金銭の支払は法令上雇用契約を終了するための要件として定められていない。

 したがって、使用者は、以下の⑶に記載した手続を経ることによって、原則として雇用契約を終了することができる。ただし、産前産後の休業期間中の解雇等、一定の場合には解雇が制限される場合があるため、注意が必要である。

⑶ 解雇手続

a)  事前通知のある解雇

 会社が従業員との間の雇用契約を終了する場合、雇用契約に予告通知期間に関する定めがあるときは、定められた予告通知期間に従って書面による事前通知(書面によることが必須)を行う必要がある。ただし、雇用法が適用される従業員との間の雇用契約を終了する場合、法令上定められた以下の予告通知期間を下回ることはできない。

 なお、この予告期間のカウントに際しては、当事者間において別段の合意や契約条項等がない限り、通知日や公休日を含んで計算して良い(MOMのWEBサイトにおいても、様々な日数計算のシミュレーションが提示されている)。

  • ・雇用期間が26週間未満の場合:    1日以上
  • ・雇用期間が26週間以上2年未満の場合:1週間以上
  • ・雇用期間が2年以上5年未満の場合:   2週間以上
  • ・雇用期間が5年以上の場合:     4週間以上

b) 事前通知のない解雇

  • ア) ただ、予告期間に相当する期間につき発生し得る賃金を支払うことにより、事前通知をすることなく雇用契約を終了させることも可能である。
  • イ) 従業員が、故意に雇用契約上の条件に違反した場合にも、事前通知をすることなく雇用契約を終了させることが可能である。
  • ウ) また、従業員が、①使用者の事前承認なく、又は正当な理由なく2日を超えて連続して欠勤した場合、②使用者に対して欠勤の理由を連絡せず、又は連絡しようともせず2日を超えて連続して欠勤した場合にも、事前通知をすることなく雇用契約を終了させることが可能である。
  • エ) 労働者が雇用条件に反する違法行為を行った場合、使用者は、十分な調査の後、これを理由として通知をすることなく当該労働者を解雇することができる。但し、従業員が当該解雇を不公正と考える場合には、MOM大臣に対して不服申立をすることができる。

以上