シンガポールにおけるM&A・組織再編

2016年2月12日更新

 シンガポールにおけるM&Aの手法としては、1.対象会社の株式の取得、2.対象会社の合併、3.対象会社・既存株主との間でのスキーム・オブ・アレンジメント、及び4.対象会社の事業・資産を譲り受ける事業譲渡の方法が考えられる。以下では、シンガポール進出の際に用いられることが多いと思われる非公開有限責任株式会社に関する規制を中心として、1.株式取得、2.合併、3.スキーム・オブ・アレンジメント、4.事業譲渡の順に、それぞれの手法の概要を紹介する。

  1. 1. 株式取得
  2.  株式取得は、(1)既存の株主から既発行株式を取得する方法、(2)会社が新たに発行する株式を取得する方法に分けることができる。以下、順に記載し、その後、シンガポールにおける特徴的な制度である(3)株式売渡請求権、及び(4)株式取得に関する資金援助規制を紹介する。

    1. (1) 既発行株式の取得
    2.  非公開会社の株式の譲渡は、譲渡人と譲受人が株式譲渡証書を作成し、これを会社に交付する方法により行われるのが原則である。この提出を受けた会社は、当該株式の譲渡を企業の登記を所轄する会計企業規制庁(Accounting and Corporate Regulatory、以下「 ACRA」という。)に対して届出を行う。2014年会社法改正により、非公開会社の株式の譲渡は、ACRAがその電子的記録に株主の情報を反映するまでは効力を生じないとされている。

    3. (2) 新株の取得
    4.  シンガポールの会社が株式を発行する場合、株主総会決議が必要である。かかる決議は、原則として普通決議であるが、定款の定めにより決議要件が加重されうる。かかる決議は、将来における株式発行を包括的に承認する形式も可能であり、かかる包括的承認の効力はその後最初に開催される定時株主総会の終了時まで続く。実務上は、かかる包括承認の手法が用いられる場合が多いように思われる。

    5. (3) 株式売渡請求権
    6.  株式売渡請求権とは、一定の要件を満たした買収者が、反対株主から強制的に株式を取得することができる権利である。かかる権利は、買収者による買収の提案から4ヶ月以内に対象会社の株式(自己株式及び買収開始時に買収者が保有していた株式を除く)を90%以上保有する者が買収者による株式取得を承認し、承認から2ヶ月以内に反対株主に通知することにより原則として取得することができる。

    7. (4) 資金援助規制
    8.  近時の会社法改正により、自己株式又は親会社株式の取得(将来の取得を含む)を目的とした会社による直接又は間接の経済的支援(担保・保証の提供を含む)を行うことを原則として禁止するいわゆる資金援助規制は、公開会社の子会社等である場合を除き、非公開会社には適用されないものとされた。

  3. 2. 合併
  4.  シンガポールにおいては、2又はそれ以上の会社を合併して1つの会社とする方法として、①吸収合併(合併当事会社の1つに消滅会社の権利義務の全部が承継される合併)、②新設合併(新設会社に消滅会社の権利義務の全部が承継される合併)が可能であり、加えて③略式合併(親会社が完全子会社を吸収合併する場合等における簡易な手続による合併)の手続が定められている。これらの制度を用いることにより、各合併当事会社は、スキーム・オブ・アレンジメント(本稿3.)で要求されている裁判所の許可なくして、対象会社の権利義務を包括的に承継させることができる。

     略式合併を除く上記の合併の手続の概要は以下のとおりである。

    1. (i) 合併提案書の作成。 
    2. (ii) 各合併当事会社の取締役会による、①当該合併が当該会社の最善の利益になる旨の決議、及び当該会社及び存続会社の支払能力証明書の作成。
    3.  ・各取締役は上記の支払能力に関して宣誓書に署名をする必要がある。

    4. (iii) 合併決議の少なくとも21日前までに、①合併当事会社の株主に合併提案書の写し等を送付、②合併当事会社の一定の債権者に合併提案書の写しを送付、及び③合併提案書の写し等の公告。
    5. (iv) 各合併当事会社の株主総会の特別決議による合併提案書の承認。
    6. (v) 合併に関する書類をACRAへ提出。
    7. (vi) ACRAが合併通知を発行。
    8. かかる合併は、合併通知に記載された日に効力を生ずる。

     実務上合併により会社を買収する場合に障害となりうるのは、買収者の取締役会による存続会社の支払能力に関する宣誓書である。一般に買収会社の取締役は対象会社の財務状態に関する情報を十分に有していないため、宣誓書の作成に消極的な態度を示す可能性がある。従って、シンガポールにおける合併は、グループ内の組織再編の手法として用いられうるが、M&Aの手法としての利用は難しい場合が少なくない。

  5. 3. スキーム・オブ・アレンジメント(Scheme of Arrangement)
  6.  スキーム・オブ・アレンジメント(以下「SOA」という。)とは、シンガポールの会社法上認められた和解(compromise)又は和議(arrangement)の手続で、対象会社が裁判所の許可を得て行う会社と株主又は債権者との合意をいう。SOAを用いたM&Aにおいては、買収者が対象会社の既存株主に対して①現金を支払い又は②買収者の新株を発行し、対象会社が既存株式を償却し対象会社の新株を買収者に発行することにより、対象会社を買収者の子会社とすることが可能である。SOAは対象会社を中心として行われる手続であるため、買収者が友好的に対象会社の全株式を取得しようとする場合に利用される場合が多いと思われる。

     SOAをM&Aに用いる場合の一般的な手続の概要は以下のとおりである。

    1. (i) 当事者間でSOA実施契約を締結。
    2. (ii) SOAに関する株主総会招集につき裁判所へ申立て、裁判所命令の取得。
    3. (iii) 命令に従い招集された株主総会において、議決に加わった出席株主の頭数の過半数かつ出席株主の総議決権の株式価値の75%以上の賛成。
    4. (iv) 裁判所の許可の取得。
    5. (v) 裁判所の許可の写しをACRAへ提出。
  7. 4. 事業譲渡
  8.  事業譲渡の手法を用いる場合には、前記1.(株式取得)とは異なり、譲り受ける事業・資産・債務を個別に選択することが可能であるが、これらに関する権利・義務については個別に移転手続を行うことが必要である。シンガポールにおいては、会社が事業又は資産の全て又は実質的に全ての譲渡を行う場合、譲渡会社における株主総会の承認が必要とされている。