シンガポールにおける事業拠点の設置

2016年2月12日更新

 外国資本がシンガポールに新たに事業組織を組成する場合の形態としては、①現地法人、支店、③駐在員事務所、④パートナーシップ、⑤ビジネストラスト、⑥個人事業等が考えられるが、実務上は比較的手続が簡易な非公開有限責任株式会社(①の一形態)が用いられる場合が多いように思われる。以下では、非公開有限責任株式会社の特徴とその設立手続の概要を紹介する。

  1. 1. 非公開有限責任株式会社の特徴
  2.  非公開有限責任株式会社とは、その構成員が株式により限定された責任を負う会社のうち、定款において①株式譲渡を制限する旨及び②株主数を50名以下とする旨の定めを有するものをいう。非公開有限責任会社の商号には、「Private Limited」又は「Sendirian Berhad」又はその略号である「Pte. Ltd.」若しくは「Sdn. Bhd.」をその末尾に付す必要がある。

     非公開有限責任会社の必要的機関は、原則として、①株主総会、②取締役・取締役会、③会計監査人、及び④会社秘書役である。ただし、2016年1月3日から全面的に施行されたシンガポールの改正会社法により、以下の要件のうちいずれか2つを満たす小会社(small company)は、監査義務が免除され会計監査人の設置が不要とされている。

    1. (i) 年間売上高が1,000万シンガポールドル(約8億6000万円)以下
    2. (ii) 純資産額が1,000万シンガポールドル(約8億6000万円)以下
    3. (iii) 従業員数が50人以下
  3. 2. 非公開有限責任株式会社の設立手続
  4.  非公開有限株式会社の設立に必要となる主な手続は以下のとおりである。会社の必要事項が確定してから会社設立が完了して法的に業務開始が可能になるまでの一般的な目安期間は2~3週間程度である。

    1. (1) 会社の必要事項の確定
    2.  設立に際して確定しておくべき必要事項には以下が含まれる。

      1.  (a) 機関構成
      2.  非公開有限責任株式会社の場合、株主数及び取締役は最低1名必要であり、取締役のうち少なくとも1名はシンガポールに通常居住している必要がある。なお、必要的機関のうち会計監査人については会社設立後3カ月以内に、会社秘書役については会社設立後6ヶ月以内にそれぞれ選任すれば足りる。

      3.  (b) 資本金
      4.  シンガポールには一般的な最低資本金の規制は存在していないため、資本金は1シンガポールドルでも会社を設立することが原則として可能である。ただし、銀行業・保険業等、特定の事業を会社が行う場合には、一定額の払込資本が法令上求められる場合があるため注意が必要である。また、会社の日本人駐在員のために就労パスを取得する場合には、実務上一定額以上の資本金が必要と解されており、これに合わせて資本金の額を設定する必要がある。

      5.  (c) 会社名
      6.  (d) 会社所在地
      7.  (e) 会社の事業内容
    3. (2) 社名の予約
    4. 新設する会社の名称については、企業の登記を所轄する会計企業規制庁(Accounting and Corporate Regulatory、以下「 ACRA」という。)に対して、会社名の予約申請をする必要がある。社名の予約は通常1日程度で完了する。ただし、一定の教育事業・金融事業等、関係省庁の承認又は確認が必要となる場合には、14日から2ヶ月程度の期間が必要となる場合があるため、注意が必要である。かかる関係省庁の手続は、会社名・事業内容に「ASEAN」「Finance」「LLC」「School」等の一定の文言が含まれる場合に行われるものもあるため、設立を急ぐ場合には、社名・事業内容の文言にも注意を払う必要がある。予約された社名は、申請日から60日間確保され、必要であれば60日間の期間の延長を申請することができる。

    5. (3) 書類の準備
    6.  非公開有限責任会社の設立に必要な書類には、以下が含まれる。

      1. (a) 定款
      2. 非公開有限責任株式会社の場合は、①株式譲渡を制限する旨及び②株主数を50名以下とする旨の定めが必要である。

      3. (b) 取締役の宣誓書(Form 45)
      4. (c) 株主代理人の選任書
    7. (4) 書類の提出、登記料の支払、設立登記の完了
    8.  会社の定款その他所定の書類を提出し、法定費用(300シンガポールドル(約2万5000円))をACRAに対して支払う。会社は、ACRAへの登記完了後、原則として業務を開始することができる。ただし、各種のライセンス又は許認可が必要な事業活動を行う場合には、これらの取得が業務開始の条件となるため、事前に必要なライセンス・許認可を調査しておくことをお勧めする。