シンガポールにおける不動産規制

2022年1月24日更新

 シンガポールにおいては、終局的には土地は国に帰属するとされ、国は個人・企業に対して不動産権(Estate)を付与しており、大別すると、Freehold(国が付与した土地に対する無期限かつ無制限の絶対的権利であり、日本における土地所有権に類似)と、Leasehold(国が付与した土地に対する有期の排他的支配権/使用権であり、日本における土地賃借権に類似)の2種類がある。このうちLeasehold Estateと呼ばれる不動産権が、主として不動産取引の対象となっている(Freeholdも一部の高級住宅地等、極めて限定的ながら存在し取引対象とはなるが、近年国は新規付与を行っていない)。

 ただし、外国人・外国企業は、全ての不動産の取得が自由に許されているわけではなく、一定の種類の不動産の取得については、法律上制限が設けられている。また、シンガポールの不動産登記制度については、その設定の経緯から、現在でも2種類の異なる制度が並存している状態にある。本稿では、まず、1. シンガポールの不動産の外国人・外国企業による取得の制限について紹介し、次に、2. シンガポールの不動産登記制度について検討し、3. 実際上、日本企業がシンガポールに進出する場合に締結することになるであろう賃貸借契約についても若干述べることとする。

1. 外国人・外国企業による不動産取得の制限

 シンガポールにおいては、外国人・外国企業であっても、非居住用の不動産については、自由に取得・保有・処分することができる。具体的には、オフィス・店舗・ショッピングモール等の商業用不動産、工場等の工業用不動産、多層階住宅のユニット、計画法に従って建設され認可を受けたコンドミニアムのユニットやコンドミニアム内の土地付き住宅、ホテル法(Hotels Act)の規定に基づいて登記されたホテル等があげられる。

 これに対し、居住用不動産については、主として1973年に施行された居住用不動産法(Residential Property Act)により、外国人・外国企業による取得に制限が課せられている。同法に基づき、原則として居住用不動産の取得が制限される者には、以下が含まれる(シンガポール法人であっても、取締役及び株主の全員がシンガポール人でなければ、同法上外国企業とみなされる点については、注意が必要である)。

  • (ⅰ) シンガポール国籍を保有しない者(外国人、シンガポール永住権取得者等)
  • (ⅱ) 外国企業(シンガポール国籍を保有しない者1名以上が取締役又は株主である会社等)

 取得が制限される「居住用不動産(Residential Property)」には、以下の不動産が含まれる。

  • (ⅰ) 更地
  • (ⅱ) 計画法(Planning Act)等に従って住居としての使用が許可された家屋・建物・その他施設及びこれらの一部
  • (ⅲ) 一定の住宅地域内の土地

 そして、これらの居住用不動産を、外国人・外国企業が取得するためには、シンガポール国土庁(Singapore Land Authority: SLA)からの事前承認を取得する必要がある。

 また、シンガポールの住宅の約8割を占める、住宅開発法(Housing and Development Act)に基づきHousing and Development Board(HDB)が開発したHDBフラット(いわゆる公団住宅)については、シンガポールの国籍保有者及び一定のシンガポールの永住権保有者に取得が制限されており、原則として外国人・外国企業による取得は認められていない。

2. 不動産登記制度

 シンガポールにおける不動産の登記制度は、従前は、証書登記法(Registration of Deed Act )等に基づく証書登記制度(Register of Deed)が採用されていた。この制度の下では、一定の不動産上の権利の設定及び譲渡は捺印証書(Deed)を用いて行わなければならず、かかる捺印証書自体を登記する証書登記(Registry of Deed)と呼ばれる方法が採られていた。

 その後、土地権原法(Land Titles Act )及びストラタ土地権原法(Land Titles (Strata) Act)が制定され、2002年には、トーレンス制度(Torrens System)に基づく土地権原登記(Registry of Land Titles)と呼ばれる不動産登記制度 が導入された。その後、現在に至るまで、シンガポール国土庁(Singapore Land Authority: SLA)は、トーレンス制度に基づく土地権原登記への転換を進めている。現在、シンガポールの大部分の土地は、土地権原登記がされているが、なお証書登記の方法が用いられている土地も残存しており、2つの不動産登記制度が併存している状態にあるため、注意が必要である。

 トーレンス制度においては、不動産に関する一定の権利の設定・移転については、不動産登記が効力要件とされており、適式な申請書により権利の設定・移転が登記された場合には、当該申請書が捺印証書とみなされる(実質的に、登記に公信力を認める制度であるということができる)。逆に、不動産売買契約書に正式に署名したとしても、適式な申請書により不動産登記を経ない場合には、当該不動産取引は効力自体が発生せず、譲渡人の不動産に関する権利は、譲受人には移転しないため、注意が必要である。

 なお、シンガポールにおける不動産登記情報は、土地の権利者による情報提供等の協力が必要なく、インターネットによって閲覧が可能であり、この限りにおいては極めて利便性が高く、透明性もあるということができる。

3. 賃貸借契約

 賃貸借契約の内容については、日本における借地借家法のような賃借人保護を目的とする特別法は存在せず、賃貸借契約の更新拒絶等について、日本のように賃貸人側の正当事由が要求されるといったこともない。一般的なバランスオブパワーとしては、賃貸人優位の契約関係となっていると評価することができる。賃料についても、期間満了に伴う再契約交渉において、突然大幅な増額を求められることもあるが、合意できない場合には退去し、移転先を探さねばならなくなるという事態も起きうる。

 なお、法律(Land Title Act)上、7年を超える土地賃貸借については当時義務が定められている。

以上