シンガポールにおける知的財産権

2016年12月26日更新

 シンガポールは、1990年にWIPO(世界知的所有権機関)条約、1995年に知的所有権の貿易に関連する側面に関する協定(TRIPS)の締約国となった。また、1995年には、パリ条約及び特許協力条約(PCT)、2000年には商標の国際登録に関するマドリッド議定書、2004年には植物新品種保護条約(UPOV)に加盟するなど、主要な知的財産に関する条約の多くの加盟国となっている。

 また、知的財産権に関する国内法整備については、主要な法律として、1987年に著作権法(Copyright Act、以下「著作権法」という。)、1994年に特許法(Patents Act)、1998年には商標法(Trade Marks Act、以下「商標法」という。)及び地理的表示法(Geographical Indications Act)、1999年に集積回路配置設計法(Layout-Design of Integrated Circuits Act)、2000年に登録意匠法(Registered Designs Act)、2004年には植物品種保護法が制定されている。

 本稿では、シンガポールに進出する日系企業の業務に関係することが比較的多いと思われる商標権及び著作権について、商標法及び著作権法に基づいて概説する。

  1. 1. 商標権
  2.  商標権の基礎となる商標とは、写実的に表現でき、かつ、ある者が業として取り扱い又は提供する商品又はサービスと、その他の者が取り扱い又は提供する商品又はサービスとを区別することができる一切の標章をいう。シンガポールにおいて商標について権利を取得するためには、原則として、商標法に従って商標登録をする必要がある。ただし、シンガポールにおいて周知である一定の標章については、未登録であっても、第三者による同一又は類似の商標の一定の使用に対して、商標法に基づく保護を受けることができる。

     商標出願は、シンガポール知的財産庁商標登録局に対して行う。出願は、英語で行う。シンガポールに居住していない出願人は、資格を有する登録された代理人を選任する必要がある。

     商標出願については、①出願書類・添付書類が揃っているかどうか、出願手数料が納付されたかどうかといった方式審査、及び、②出願商標が商標の定義を満たしているかどうか、登録拒絶事由に該当しないかどうかといった実体審査が行われる。登録拒絶事由には、以下が含まれる。

     (i) 公序良俗又は道徳に反する商標

     (ii) 商品・サービスの性質・品質・原産地等に関して公衆に誤解を招く性質の商標

     審査の結果、実体要件を満たさないと判断された場合、拒絶理由通知が送付され、出願人は、通知の日から4ヶ月以内に、自身の出願を補正することができる。かかる期間内に、出願人から補正に関する応答がなされない場合又は拒絶理由を解消できなかった場合、当該出願は拒絶される。

     審査の結果、要件を満たしていると判断された場合、①出願人に対して出願が許容された旨の通知がされ、②出願が公告される。出願公告日から2ヶ月の間、上記の要件を満たしていないことを理由として、異議を申立てることができる。かかる異議申立期間内に異議申立がない場合、又は、異議申立に理由がない場合には、当該商標は登録され商標権が発生し、出願人に対して登録証が発行される。

     登録された商標に係る商標権の有効期間は、出願日から10年間である。また、かかる有効期間は、更新出願をすることにより、10年間更新することができ、更新の回数に制限は定められていない。また、更新の遅滞には、6ヶ月の猶予期間が認められている。

     登録された商標は、商標権者の許諾なく、当該登録に係る商品又はサービスにつき使用することはできない。商標権者は、登録された商標又はこれに類似する商標を自身の許諾なく使用して商標権を侵害する者に対して、その損害の賠償・不当利得の返還若しくは法定賠償、権利侵害行為の差止命令、違反商標を削除・除去・廃棄命令、違反商標を付した物品の引渡・廃棄・没収命令等を求めて、裁判所に訴訟を提起することができる。また、保全的な救済として、裁判所に対して、仮差止命令・アントンピラー命令・マレーバ差止命令・情報開示命令を求めうる。加えて、刑事罰として、登録された商標を商品又はサービスに不正に使用した者に対しては、10万シンガポールドル(約810万2000円)以下の罰金若しくは 5 年以下の禁固又はこれらが併科されうる。(47条)

  3. 2. 著作権
  4.  著作権法上、原作品(original works)に著作権が認められうる類型は、以下の4つである。

     (i) 文芸作品(literary works)

     (ii) 演劇作品(dramatic works)

     (iii) 音楽作品(musical works)

     (iv) 美術作品(artistic works)

     また、著作権法上、上記以外で著作権が認められうる類型は、以下の5つである。上記各作品の出版された版(published editions of works)

     (i) 録音(sound recordings)

     (ii) 映写フィルム(cinematograph films)

     (iii) テレビ放送(television broadcasts)及びラジオ放送(sound broadcasts)

     (iv) ケーブルプログラム(cable programmes)

     上記の類型に該当する著作物について、シンガポールの著作権法上の保護が認められうるのは、①上記の類型に該当する著作物を創作した者が、創作時・発行時・死亡時のいずれかにおいて、シンガポール若しくはベルヌ条約等の締約国の国民・居住者である場合、又は、②上記の類型に該当する著作物がシンガポール若しくはベルヌ条約等の締約国において発行された場合である。

     著作権は、上記の要件を満たす著作物が創作された時点で発生し、原則としてその著作者に帰属する。ただし、雇用契約の条項に従って著作者が創作した著作物の著作権は、雇用者に帰属することになるが、当事者間の雇用契約において、かかる著作権法の規定の適用を排除することが可能である。

    著作権の及ぶ範囲は、上記の各類型により異なるが、例えば、文芸作品・演劇作品・音楽作品について認められる排他的権利には、以下が含まれる。

     (i) 有形的に作品を複製すること

     (ii) 未発表の作品を発表すること

     (iii) 公衆に作品を上演すること

     (iv) 公衆に作品を伝達すること

     (v) 作品を翻案すること

     (vi) 翻案した作品について上記(i)~(v)を行うこと

     シンガポールの著作権法の特徴的な点の1つは、氏名表示権・同一性保持権等のいわゆる著作者人格権が定められていない点である。したがって、著作権者は、ライセンス契約等において、著作物に著作者名を表示させる等の義務を規定しておく必要がある点には、注意が必要である。

     著作権の存続期間の概要は、その類型毎に、以下のとおりである。

    著作物の類型 存続期間
    文芸作品・演劇作品・音楽作品・美術作品 著作者の生存期間内及び著作者の死亡後70年間
    ただし、写真及び著作者の死亡後に初めて公表された作品は、初公表から70年間
    上記各作品の出版された版 当該版が出版されてから25年間
    録音・映写フィルム 初公表から75年間
    放送・ケーブルプログラム 制作から50年間
    演劇 公演から70年間

     著作権者は、無断でその排他的権利を実施して著作権を侵害する者、侵害行為を指揮する者、侵害を知りながら一定の目的で輸入・販売・その他の行為を行う者を相手方として、その損害の賠償・不当利得の返還若しくは法定賠償、権利侵害行為の差止命令、権利侵害品・これを製造する物品の引渡命令・没収・廃棄命令を求めて、裁判所に訴訟を提起することができる。また、保全的な救済として、裁判所に対して、仮差止命令・アントンピラー命令・マレーバ差止命令・情報開示命令を求めうる。加えて、刑事罰として、著作権を侵害する作品の製造・販売・販売の申出・展示等の行為については、最大で5年以下の禁固、10万シンガポールドル(約810万2000円)若しくは作品毎に1万シンガポールドル(約81万0000円)の罰金又はこれらが併科されうる。

以上