シンガポールにおける知的財産権

2022年11月更新

1.はじめに

シンガポールは、世界知的所有権機関(WIPO:World Intellectual Property Organization)条約、知的所有権の貿易に関連する側面に関する協定(TRIPS:Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)、工業所有権の保護に関するパリ条約、国際特許出願に関する特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約、商標の国際登録に関するマドリッド協定議定書、意匠の国際登録に関するハーグ協定、植物新品種保護条約(UPOV)等、主要な知的財産に関する条約の加盟国となっています。

また、シンガポールは、知的財産(以下、「IP」といいます。なお、「IP」は知的財産を表す「Intellectual Property」の略称です。)の積極的活用を政策として打ち出しており、2013年には「IPハブマスタープラン」を発表し、同国をIP取引及び管理のハブ、IP出願のハブ、並びにIP紛争解決のハブとする3つの戦略を掲げて、アジアのIP取引のハブを目指しています。

以下、シンガポールにおけるIP関連の制度等を紹介し、その後、同国の知的財産権に関する主な法律である⑴特許法、⑵著作権法、⑶商標法、及び⑷意匠登録法の4つの法律の概要を説明します。

2.制度概要

所轄官庁に関して、シンガポールでは、「IPOS」の通称で呼ばれる知的財産庁(Intellectual Property Office of Singapore)が、IPの登録その他の行政管理を所轄しています。
また、紛争解決機関としては、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)が有名ですが、IP関連の機関として、シンガポールには、2010年に開設された国際連合の専門機関である世界知的所有権機関の仲裁調停センター(WIPO-AMS)などがあります。
加えて、シンガポールでは、IP関連事項を処理する能力を有した弁護士及び専門家を育成するための機関であるIPアカデミーが開設され、実務家の養成を図っています。

3.特許法(Patent Act, 1998)

(1) 登録要件

発明に対して特許権が認められるためには、①新規性(New)、②進歩性(Inventive Step)、及び③産業上の利用可能性(Industrial Application)という3つの要件を充たすことが必要です。
但し、上記3要件を満たす場合でも、侮辱的、非道徳的、又は反社会的な行動を助長すると一般的に想定される発明は、特許性のある発明とはされません。

(2) 存続期間

特許権が認められた場合、特許権所有者が毎年の更新手数料を支払う限り、特許権の存続期間は、特許出願日から20年間となります。

(3) 救済手段

特許権に対する侵害があったと認められた場合には、救済手段として、損害賠償金の支払い及び侵害行為の差止めが規定されています。
但し、当該行為が、非商業目的で私的になされたものである場合や実験目的でなされたものである場合などには、特許権に対する侵害行為とは認められません。

4.著作権法(Copyright Act, 2021)

(1) 成立要件

著作権が発生する要件は、①シンガポールの著作権法が規定する4つの作品類型(言語作品(literary works)、演劇作品(dramatic works)、音楽作品(musical works)及び美術作品(artistic works))に該当すること、②著作物を創作した人物が、創作時等においてシンガポール国民である等シンガポールとの関係を有する者であること、③創作性が認められること、及び④著作物が書面その他の有形媒体に固定されていることとされています。
また、シンガポールでは、日本と同様、「無方式主義」を採用しており、著作権は、著作物を創作したときから自動的に発生するものとされているため、特許権などとは異なり、権利として保護されるために出願や登録は必要ありません。
シンガポールでは、ある作品の著作権の帰属が争われた場合には、著作権を主張する者は自らがその作品を最初に創作したことを示す必要があります。
そのため、作品の作者は、作品の複製を自ら又は弁護士宛てに郵送し、それを消印付きの封筒に入れたまま開封せずにとっておくなどの手段により、紛争に備えることがあるでしょう。

(2) 存続期間

著作権の存続期間は、著作物の類型ごとに異なるものとされています。

  • (a) 言語作品、演劇作品、音楽作品、及び美術作品

言語作品、演劇作品、音楽作品及び美術作品の著作権については、著作者の死亡後70年間とされています。
但し、著作者が特定されていない場合は、以下のとおりとなります。

  • 著作物が制作されてから50年以内に初めて公表された場合、その著作物の著作権は最初に出版されてから70年間存続します(その70年の間に著作者が特定された場合を除く)。
  • 著作物が制作されてから50年以上経過した後に公表されたが、その50年以内に公表以外の何らかの手段で公衆に利用可能となった場合、その著作物の著作権は、その著作物が最初に公衆に利用可能となった後70年間存続します(その70年の間に著作者が特定された場合を除く)。
  • その他の場合は、著作物が制作された年の年末から70年間存続します(その70年の間に著作者が特定された場合を除く)。

なお、上記のすべてのケースで、70年の期間内に著作者が特定された場合、原則どおり著作者の死後70年で著作権が消滅するルールが適用されます。
また、2022年12月31日以前に最初に公表された特定の作品には、上記と異なる旧著作権法の規定が適用されることに注意してください。

  • (b) 録音物及び映画の著作権

録音物や映画が未発表の場合、一般的に作品の制作から70年間存続します。
但し、以下のような場合、著作権は最初に公開された日から70年間存続します。

  • 作品が制作された日から50年以内に最初に公開された場合、又は
  • 2022年12月31日以前に最初に公開されたもの。

なお、映画制作から50年以上経過した後に初めて公開された映画で、その50年以内に公開以外の方法で利用可能となった場合、その著作権は映画が最初に公開されてから70年後に失効します。

  • (c) 放送の著作権

放送の場合、著作権は放送された日から50年間存続します。再放送の著作権は、最初の放送と同時期に失効します。すなわち、50年の期間を過ぎてから再放送が行われた場合、その再放送に著作権は認められません。

  • (d) ケーブル番組の著作権

ケーブル番組の著作権は、そのケーブル番組が最初にケーブル番組サービスに含まれてから50年間存続します。

  • (e) 保護された実演

保護された実演の著作権は、実演が行われた後70年間存続します。

(3) 救済手段

著作権に対する侵害類型には、著作物の複製など著作者の許諾がなければ行えない行為を著作者の許諾なく行うことで生じる「一次侵害(primary infringement)」、及び著作権侵害行為により作成された複製物だと知りながらその複製物を取引することで生じる「二次侵害(secondary infringement)」があります。これらのいずれに対しても、救済手段として、損害賠償金の支払い及び侵害行為の差止めが規定されています。
また、著作権侵害に対しては、罰金又は禁錮といった刑罰が科せられます。

5.商標法(Trade Marks Act, 1998)

(1) 登録要件

商標として認められるための要件は、①他のものと区別できること、②写実的に表現できること、③絶対的拒絶理由又は相対的拒絶理由に該当しないこととされています。

(2) 存続期間

商標権の存続期間は、出願日から10年間であり、以後10年ごとに更新する限り、商標権は存続します。
但し、商標登録後5年以内に、商標を使用しない場合、第三者の請求により、商標権は取り消される可能性があります。

(3) 救済手段

商標権侵害に対しては、民事上は損害賠償金の支払い及び侵害行為の差止め、刑事上は罰金及び禁錮という救済手段が規定されています。

6.登録意匠法(Registered Design Act, 2000)

(1) 登録要件

シンガポールでは、意匠として保護されるためには、登録が必要です。また、登録されるためには、新規性が要件とされます。
但し、新規性が認められる場合でもあっても、意匠の公表や使用が公共秩序及び道徳に反する場合には登録が認められません。

(2) 存続期間

意匠権の存続期間は、最初は出願日より5年ですが、その後、5年ごとに合計2回まで更新することができます。つまり、出願日から最長15年存続することになります。

(3) 救済手段

意匠権侵害に対しては、救済手段として、損害賠償金の支払い及び侵害行為の差止めが規定されています。

以上