サウジアラビア新破産法の概要について

令和2年11月8日更新

1 はじめに

 新型コロナウイルスの影響による経済危機から、企業や個人の破産手続は今後益々増加することが予想されます。今回は、2018年8月に施行されたサウジアラビアの新破産法(Royal Decree No. M/05, 28/05/1439H。全17章、231条から構成。)について、その概要を説明します。新破産法のポイントは、破産手続に加え、利害関係人との間で債務整理の合意をする手続(以下「予防的債務整理手続」といいます。)、及び、破産管財人の監督下で財政再建を行う合意をする手続(以下「財務再生手続」といいます。)という3つの選択肢が設けられた点にあります。これにより、債務者は状況に応じて臨機応変に適当な手続きを選択することが可能となりました。以下ではこれらの手続を中心に説明し、新破産法におけるその他の留意点を整理します。

2 予防的債務整理手続

 予防的債務整理手続は、債務者が自身の事業を継続しつつ、債権者との間で自身の債務整理の合意をする手続です。この手続は、債務者が自身の財産への管理処分権を失わずに進めることができる点が、他の2つの手続との大きな違いです。

 予防的債務整理手続の申立てを行うことができるのは債務者に限られており、債権者を含めた第三者は申立てを行うことができません。また、債務者が申立てを行うためには、①債務超過、②支払不能、又は③事業活動の継続を妨げる可能性のある支払不能に陥ることを予期していることのいずれかの要件を充たしている必要があります(以下、当該要件を「債務者申立要件」といいます。)

 この予防的債務整理手続の申立てを行っただけでは、債務者に対する破産申立や、債務者の財産に対する執行手続等の法的手続は、当然には停止されません。予防的債務整理手続においては、債務者は、裁判所に対し、これらの法的手続の一時停止を、別途申立てる必要があります。裁判所が一時停止を認めた場合、一時停止される期間は原則として90日間で、30日毎の延長が認められますが、合計で180日間に限られます。

 裁判所が、債務者からの申立てに対し、予防的債務整理手続の開始を命じた場合、合わせて、裁判所は、債権者等の利害関係人が、債務者の債務整理計画の可否について投票を行う日を設定します。かかる投票日において、債権額ベースで3分の2を占める債権者の承認等が得られた場合、債務者は、裁判所に対し、当該承認された債務整理計画の認可を申立てます。裁判所が債務整理計画を認可した場合、債務者は、債権者等に裁判所が認可した旨を通知し、破産を登録するため裁判所の認可書の写しを提出します。

 予防的債務整理手続は、主として以下の場合に終了します。

① 債務者が、裁判所に対し、債務整理計画の完全な実施を申立てた場合

② 裁判所が、債務整理計画の認可を拒絶した場合

③ 債務者が、裁判所に対し、債務者申立要件を充たしていないことを申立てた場合

 以上が手続の概要になります。具体的な手続の流れについては、以下のとおりです。

【予防的債務整理手続の概要】

1.債務者が、裁判所に申立てを行う
2.裁判所は、公聴会の日付を決定し、債務者に通知する
3.裁判所は、公聴会を踏まえ、手続を開始するか否かを決定する
4.裁判所が手続を進めると判断した場合、債務者は手続の開始を利害関係者に通知する
5.債権者は、債務者から提案された債務整理計画について投票を行う
6.債務者は、債権者の承認を得られた債務整理計画を裁判所に提出し、裁判所の認可を申請する
7.裁判所が、債務整理計画を認可する
8.債務者が、債務整理計画を実施する

3 財務再生手続

 財務再生手続は、破産管財人又は財務再生官(financial restructuring officer。以下、破産管財人と合わせて「管財人等」といいます。)の監督下で財政再建を行うことを、債務者と債権者との間で合意をする手続です。予防的債務整理手続とは異なり、債務者の管理処分権には制限が加えられ、管財人等の監督の下で事業を行うことが求められます。

 財務再生手続は、債務者のほか債権者や利害関係を有する第三者においても申立てを行うことができます。債務者が申立てを行うためには、予防的債務整理手続と同様に、債務者申立要件を充たしている必要があります。

 財務再生手続の申立てがなされると、申立時点から裁判所が手続を開始するか又は申立てを却下するまでの間、債務者に対する破産申立や、債務者の財産に対する執行手続等の法的手続は、自動的に一時停止されます。この点は、一時停止の申立てが別途必要な予防的債務整理手続とは異なります。一時停止の期間は、原則として180日間ですが、延長が可能で、また、手続の終了までの期間内の一時停止が認められる場合もあります。

 申立後、債務者は、財務再生計画案を作成し、同一クラスに属する債権者の債権額ベースで3分の2を占める債権者の承認と裁判所の認可を得る必要があります。財務再生計画案における返済計画年数については、承認・認可が得られる限り、特に制限はありません。

 以上が手続の概要になります。具体的な手続の流れについては、以下のとおりです。

【財務再生手続の概要】


1.債務者が裁判所に対して申立てを行う(なお、債務者以外の者が申立てを行った場合は、裁判所は債務者に対し5日以内にその旨を通知しなければならない。債務者の居所が不明の場合は、公示による方法によって通知される。)
2.裁判所は、債務者に対し、公聴会の日付を通知する
3.裁判所は、公聴会を踏まえ、財務再生手続を進めるか否かを決定する
4.裁判所が手続を進めると判断した場合、裁判所は管財人等を任命する
5.管財人等は、手続の開始を公表し、債権者に対し、公表後90日以内に債権を届け出るよう求める
6.管財人等は、債権者リストを裁判所に提出する(これに異議がある債権者は、14日以内に、裁判所に対し異議を述べることができる)
7.債務者は、財務再生計画案を作成し、債権者の承認を得る
8.裁判所が、財務再生計画を認可する(これに異議がある債権者は、14日以内に、裁判所に異議を述べることができる)
9.管財人等の監督下において、財務再生計画が実施される

4 破産手続

 破産手続は、破産管財人を通じてその監督下にある債務者の資産を売却し、その売却益を債権者間で分配する手続です。選任された破産管財人は、債務者の資産・事業を管理する義務を負い、債務者は、自身で事業を行うことを禁止されます。破産手続は、債務者の現在の事業を継続・再建することを原則として予定していないことから、予防的債務整理手続及び財務再生手続と比較すると、新破産法において、最終手段として位置づけられていると言えます。

 破産の申立ては、債務者のみならず債権者及び利害関係を有する第三者においても行うことが可能です。債務者が破産の申立てを行うためには、予防的債務整理手続・財務再生手続とは異なり、債務者が現実に①債務超過又は②支払不能に陥っている必要があります。

 破産手続の申立てがなされると、債務者に対する破産申立や、債務者の財産に対する執行手続等の法的手続は、自動的に停止されることになります。この点は、財務再生手続と同様です。

 裁判所が、債務者からの申立てに対し、破産手続の開始を命じた場合、合わせて、破産管財人を選任します。破産管財人は、債務者の資産を換価し、債権一覧表を作成した上で、債権の優先順位に従い(以下5(2)参照)、債権者間で残余財産の分配を行うことになります。

5 新破産法におけるその他の留意点

(1)破産委員会の設置

 新破産法では、新たに破産委員会が設置されることになりました。

破産委員会とは、商務投資省(MOCI)下の独立した専門機関であり、全ての破産に関する事項を監督することをその任務とし、破産申立の内容を記録した破産登録簿の作成等を主な業務としています。構成員は、商務投資大臣によって指名された者であり(最低人数は5名)、構成員の任期は3年です(更新も可能)。

(2)優先債権

 新破産法のもとでは、債権の内容に優劣が設けられたため、債権者間での残余財産の分配については、以下の債権の順位に従って行う必要があります。

 ①破産管財人及び専門家の報酬又は債務者の資産の売却費用に係る債権

 ②担保付きの金銭債権

 ③担保付きの融資債権

 ④従業員の30日分の給与に相当する賃金債権

 ⑤適用法又は裁判所の命令によって決定された債務者の家族が有する扶養料請求権

 ⑥破産法に定められた手続中に債務者の事業運営の継続性を確保するために必要な費用に係る債権

 ⑦従業員の未払賃金債権

 ⑧無担保債権

 ⑨破産法施行規則の要件に準拠した政府の手数料、会費、税金(無担保のものに限る)

(3)破産申立に許可が必要な事業体

 以下の事業体については、破産法に基づいた手続の申立てをするためには、権限ある機関による特別の許可が必要になります。

 ①銀行、金融機関、保険会社

 ②証券業務を行うことを許可された事業体

 ③金融市場、決済会社

 ④信用格付け会社

 ⑤情報会社等

 ⑥電気通信、水道、電気、ガス会社

 ⑦エネルギー源と鉱物の探査を行う企業

 ⑧空港、鉄道サービス、港湾、その他破産法施行規則に規定されているその他の会社

 ⑨特別目的施設

 ⑩破産法施行規則に規定されるその他の事業体

以上