サウジアラビアにおける汚職防止関連法

平成30年9月10日更新

  1. 概要
  2.  2017年11月初旬、サウジアラビアで有力王族や現職閣僚ら200名以上が汚職容疑で拘束されたという事件が全世界を駆け巡りました。サウジ司法当局の発表によると、賄賂等の疑いのある金額は11兆円を超えるといわれています。本稿では、ホットトピックである、サウジアラビアにおける汚職防止関連法について概観します。

     

  3. 1.根拠法
  4.  サウジアラビアには、公務員が関与する贈収賄を包括的に規制する法律として、ヒジュラ歴1412年12月29日発効の勅令第36号(以下「汚職防止法」と略称します。)が存在します。本稿では、主にこの汚職防止法の規定の内容をご紹介します。

     

  5. 2.贈収賄罪の類型と法定刑
  6. (1) 以下の公務員は10年以下の懲役若しくは100万リヤル以下の罰金に処し、またはこれを併科するものとされています。

    1. ア 職務を遂行することまたは遂行しないことの対価として、自ら又は第三者をして賄賂を収受等しまたはその約束をした公務員。なお、約束した職務を遂行する意思がなかったとしても、賄賂の収受又はその約束をすれば、犯罪が成立します。また、当該遂行しまたは遂行されなかった職務の内容が合法か違法かを問いません。
    2. イ 職務上の義務に違反することの対価または報酬として、自ら又は第三者をして賄賂を収受等しまたはその約束をした公務員。なお、贈賄者との間で事前に合意がない場合であっても、本罪は成立します。
    3. ウ 自身の影響力を行使して、公的機関から契約、命令、決定、約束、許認可、役務の供与、役職、その他の特権を取り付けることまたはかかる取り付けを試みることの対価として、自ら又は第三者をして賄賂を収受等しまたはその約束をした公務員。

    (2) 何らかの嘆願、要望等の結果として、職務を遂行しまたは職務を懈怠することによって職務上の義務に違反した公務員は、賄賂を勧誘・収受・約束する行為がなくとも、3年以下の懲役若しくは100万リヤル以下の罰金に処し、またはこれを併科されます。

    (3) 以下の者は10年以下の懲役若しくは100万リヤル以下の罰金に処し、またはこれを併科するものとされています。

    1. ア 公務員に対して、職務上違法な行為を行うように、または職務上の義務を行わないように、何らかの強制力、暴力、強迫を加えた者。
    2. イ 公務員に対して賄賂を提供しようとしたが公務員から受け取りを拒絶された者。

    (4) 上記の各犯罪行為に関して、贈賄者、賄賂を仲介した者その他の共犯者は、正犯と同様の刑罰に処されます。上記の各犯罪行為に関与した際に、知りながら合意・支援等をした者は、当該合意・支援等の結果として当該犯罪行為が実行された場合には、共犯とみなされます。

    (5) 上記に加えて、贈賄者または収賄者からの賄賂を提供するための業務の割当てを受け、これを知りながら受け入れた者は、2年以下の懲役若しくは5万リヤル以下の罰金に処し、またはこれを併科されます。

     

  7. 3.賄賂とは
  8.  高額にならない贈答品や食事接待、エンターテイメントの観覧券の提供などのいわゆるファシリテーションペイメントを、明示的に贈収賄の対象から除外する規定は汚職防止法には存在せず、あらゆる便益や特権が広く賄賂に含まれ得る文言となっています。そのため、あらゆる公務員に対する利益供与が、その実質を見て、賄賂と評価することができるか否かという観点から、賄賂性の有無が判断されることになると思われます。

     

  9. 4.公務員の定義
  10.  贈収賄の対象となる「公務員」には、以下の者が含まれます。

    ① 一時的か否かを問わず、政府又は公営企業において勤務する者。

    ② 政府または司法権を有する機関によって任命された仲裁人または専門家。

    ③ 特定の業務に従事するために政府機関その他の行政機関から任命された者。

    ④ 公共施設の管理、運営または維持を行う事業者(法人か個人事業主かを問わない。以下本号において同じ。)、公共サービスを提供する事業者、政府機関が持分の一部を保有する法人、及び銀行業を営む事業者において勤務する者。

    ⑤ ④に定める事業者の取締役。

     

  11. 5.没収
  12.  どのような類型の贈収賄罪であっても、上記の刑罰が科されるのとは別途、収受された賄賂は、没収されます。

     没収の対象となるのは、金銭に限られず、職務の遂行又は懈怠の対価と認められるあらゆる利益が含まれます。

     

  13. 6.情報提供による刑の免除
  14.  贈収賄者及び仲介者が、当該贈収賄行為が発覚する前に、当局に対して情報提供をした場合、一定の刑の免除を受けることができます。

     

  15. 7.通報者に対する報酬制度
  16.  贈収賄行為を立証することができる情報を当局に提供した者で、贈賄者・共犯者・仲介者以外の者は、5000レアル以上かつ没収した金額の2分の1を下回る範囲内で、国から報酬を受け取ることができます。報酬の金額は、当該贈収賄行為に対応している当局によって決せられます。重大案件の場合、内務大臣は、首相の承認を得て、これよりもさらに高額の報酬を報告者に支払うこともできます。

     

  17. 8.使用者の責任
  18.  前記の贈収賄行為を犯し有罪判決を受けた役職員が所属する私企業(外国企業を含む。)は、当局から、賄賂の価値の10倍を超えない範囲における罰金を科され、または政府等における入札への参入が禁止され、またはこれらを併科されることがあります。当該決定から5年を経過した場合、入札禁止措置の見直しが行われることがあります。

     

  19. 9.非公務員間での贈収賄
  20.  以上みてきたのは、公務員を一方当事者とする贈収賄ですが、サウジアラビアでは、非公務員間の贈収賄であっても、刑事罰の対象とされることがあります。これは、シャリ―ア(Shari’ ah)(イスラム法)のもとでは、賄賂行為一般が宗教的に非難されるものとされているからです。

     シャリーア法のもとでは、一般的に、賄賂とは、利益を享受しまたは他人が利益を享受することを妨げる目的で、公共の利益を左右し得る力を有する人物に対して、金銭その他の利益を提供することを意味しており、非常に広義のものとなっています。そのため、サウジアラビアにおいては、非公務員間での贈収賄についても、刑事罰(内容は後述)の対象とされる可能性があります。

     この点は、日本とは異なる宗教的理由が背景にあるため、日本人には理解しにくい部分ではありますが、サウジアラビアの汚職防止関連法制を理解するにあたっては、特に注意すべきポイントと言えるでしょう。

     

  21. 10.贈収賄罪の訴追機関、審理機関等
  22.  汚職防止法に定められた公務員を一方当事者とする贈収賄罪については、検察官は、苦情処理庁において訴追を行い、苦情処理庁において審理されます(苦情処理庁については、以前の記事「サウジアラビアの紛争解決について」をご参照ください。)。他方で、非公務員間の贈収賄罪については、シャリーア法廷において、シャリーア法に則って裁判が行われることになります。

     公務員を一方当事者とする贈収賄については、汚職防止法において法定刑が明確に定められていますが、非公務員間の贈収賄については、シャリーア法に規律された領域となり、違反行為があった場合の罰則が明示的に定められてはいませんので、シャリーア法廷の裁量によって、刑罰が定められることとなります。

     また、通常の検察組織とは別に、サウジアラビアでは、ナザハ(Nazaha)と呼ばれる、公務員腐敗防止を目的とする委員会が組織されており、汚職の告発を受けた場合にその内容を調査したり、検察官の訴追に協力をしたり、苦情処理庁の下した判決を執行する役割を担っています。

以上