サウジアラビアにおけるM&A

平成31年2月23日更新

 サウジアラビアにおけるM&Aの主な手法は、①株式取得(Share Purchase)、②事業譲受(Asset Purchase)及び③合併(Merger)です。以下では、各手法について具体的な規制内容を確認します。

 本稿は、非公開会社(Private Company)を対象会社としたM&Aを念頭に置いて作成しています。対象会社が上場会社等である場合には、Capital Market Authority (CMA)が所轄するCapital Market LawやMerger and Acquisition Regulations等に定められた開示規制等が適用されますが、本稿では紙幅の関係上、割愛しています。

 

  1. 1 株式譲渡
  2.  サウジアラビアにおけるM&Aの最も一般的な形態は、対象会社の株式を譲受ける方法です。既存の契約関係・取引先・従業員等を原則としてそのまま承継することができる点が主なメリットです。

    (1) 外国人に対する株式譲渡

     サウジアラビア総合投資院(Saudi Arabian General Investment Authority:SAGIA)から外国投資ライセンスを取得することを条件として、外国人/外国会社によるサウジアラビア国内会社の株式保有が認められます。ただし、SAGIAが定める規制業種・禁止業種や、最低資本金、最低持分比率等の制限が存在していますので留意が必要です。詳細は、拙稿「サウジアラビアの外資規制について」を御覧ください。

    (2) 既存株主の先買権

     サウジアラビアにおける中心的な会社形態であるLLC(Limited Liability Company)又はJSC(Joint Stock Company)については、株式譲渡の条件・制限は、対象会社の会社の定款に記載されていますので、まずは、定款の記載を確認する必要があります。加えて、対象会社がLLCの場合には、以下のとおり、既存株主は先買権を有することになりますので、特に留意が必要です。

     すなわち、既存の株主が株主でない者に対して対象会社たるLLCの株式を譲渡することを希望する場合、対象会社の取締役を通じて、他の株主に対し、①譲受人の氏名及び②譲渡の条件を通知しなければなりません。通知を受領した他の株主は、通知を受領した日から原則として30日以内に限り、譲渡を希望する株主に対して、通知された条件と原則として同じ条件で、株式を譲り渡すように請求することができます(いわゆる先買権)。先買権を行使する株主が多数に及ぶ場合、買取株式数は各株主の持株数に比例して割り当てられます。上記の期間内に先買権の行使がない場合、譲渡を希望する株主は、当初希望していた譲受人に対して株式を譲渡することができます。

     以上のとおり、対象会社がLLCの場合、他の株主から先買権を行使される可能性がありますので、株主構成や持株比率、他の株主が先買権を行使する可能性、先買権が行使された場合の買取価格に関する定款の定めの有無内容等について、ディールの初期段階から慎重に検討をする必要があります。

    (3) 雇用関係

     株式譲渡によって対象会社の所有関係に変更が生じても、対象会社の雇用関係には影響せず、雇用契約はそのままの内容で継続します。

    (4) 債権者保護手続

     株式の譲渡人の倒産手続が開始する前12カ月(譲受人が関連当事者である場合は24カ月)以内に株式譲渡がされた場合、債権者は、当該倒産手続において、当該株式譲渡について、調査を求めることができます。

     

  3. 2 事業(資産)譲渡
  4.  売主の個別の事業(資産)を切り出して、買主に譲渡するものです。

     我が国同様、簿外債務の承継を回避することができることに大きなメリットがあります。

     事業(資産)譲渡においても、SAGIAや事業関連の監督省庁からのライセンス取得が必要となることが少なくないため、留意が必要です。

     事業を譲渡する場合で譲渡対象に雇用関係が含まれる場合、買主は原則として、従前と同じ条件で労働契約を承継することになります。

     また、売主の倒産手続が開始する前12カ月(買主が関連当事者である場合は24カ月)以内に事業(資産)譲渡がされた場合、債権者は、債権者は、当該倒産手続において、当該事業(資産)、調査を求めることができます。

     

  5. 3 合併
  6.  合併には、我が国のように新設分割と吸収分割の手続が存在します。

     合併に際しては、合併契約書が締結されます。合併契約書においては、合併の条件に加えて、少なくとも、合併により消滅する会社(以下「消滅会社」といいます。)の負債の評価方法、及び、吸収合併存続会社(以下「存続会社」といいます。)または新設合併設立会社(以下「新設会社」といいます。)の株式等の数を定める必要があります。

     消滅会社の株式の全部又は一部の対価として存続会社の株式等が用いられる場合には、合併の効力は、消滅会社と存続会社の純資産の評価が行われた後でなければ生じません。

     合併の当事会社は、各々、定款の定めに従い、合併を承認する旨の決議をしなければなりません。なお、存続会社及び消滅会社の両会社の株式等を保有する者は、いずれか一方の会社の決議においてのみ議決権を行使することができます。

     合併の手続が完了し、存続会社又は新設会社の登記がされた後、消滅会社の全ての権利義務は、存続会社又は新設会社に移転します。存続会社又は新設会社は、消滅会社から移転した資産の範囲内において、消滅会社を一般承継したものとみなされます。ただし、合併契約において別段の定めがある場合はこの限りではありません。

     合併の効力は、公告の日から30日が経過した時点で発生します。合併に異議のある消滅会社の債権者は、上記期間内に、書面により、合併に対して異議を述べることができます。債権者から異議が提出された場合、債権者がかかる異議を取り下げるか、異議を述べた債権者の債務が弁済され又は弁済に足る担保が提供されるまでの間、合併手続は中断されます。

     

  7. 4.M&A手続の流れ
  8.  ここでは株式譲渡を例にとって、具体的な手続を時系列に沿って説明します。

    (1) アドバイザーの選任

     サウジアラビアにおいても、買手、売手ともに、ファイナンシャル・アドバイザー(FA)を起用することが一般的です。また、大型の案件では、ディールの初期段階から、法務、会計、税務のアドバイザーが起用されることもあります。

    (2) 基本合意(LOI、MOU)

     基本合意においては一般的な秘密保持義務が設定されるほか、独占交渉権が設定されることもあります。これらの条項については法的な拘束力を有する旨を定めることがありますが、その他の条項については法的拘束力がないとすることが一般的です。また、独占交渉義務に法的拘束力を認めた場合であっても、サウジアラビアの裁判所がかかる義務の特定履行を命ずる可能性は少なく、かつ、かかる独占交渉義務の違反によって生じた損害の額を算定することは容易ではないため、固定額での損害賠償の予定が定められることが少なくありません。

    (3) デュー・ディリジェンス

     サウジアラビアの非公開会社に関して、事前に入手可能な情報は、サウジアラビア商工業省(Ministry of Commerce and Industry)における、資本金額、本店所在地、役員の氏名等の会社登記上の情報、すなわち我が国における履歴事項全部証明書記載の情報と類似程度のものに限られることが少なくありません。そのため、我が国同様、非公開会社のデュー・ディリジェンスはきわめて重要です。

    (4) 最終契約

     売主及び買主は、サウジアラビア商工業省に対して、公証人の認証を受けた最終契約と共に、対象会社の株主が当該株式譲渡を承認し、かつ、前記の法定先買権の手続が遵守されている旨の対象会社の株主による決議を提出しなければなりません。この公証人によって認証される最終契約は、通常、きわめて簡潔な内容のみが規定され、実際の取引の詳細事項については、上記の最終契約とは別途の契約書で定められることが多く、かかる別途の最終契約についてのみ準拠法を外国法とすることも見受けられます。

以上