サウジアラビアの会社法全面改正について

2017年3月15日更新

  1. 概要
  2.  サウジアラビアの会社法が約50年ぶりに全面改正され、2016年5月2日に施行されました。本稿では旧会社法との相違点を中心にして、改正法の内容を概説します。

  3. 1 改正の経緯
  4.  旧会社法は1965年に制定されており、その後部分的な改訂はあったものの、全面的な改正はありませんでした。しかし2005年のWTO加盟、国内上場市場への海外投資家の参入、スクーク(イスラム債)取引の活発化などを受けて、会社法を現代化する必要が生じました。

     また、旧会社法は現代のビジネス形態と乖離した使い勝手の悪い規定が存在していたため、今般これらを全面的に刷新することとなりました。

  5. 2 会社の形態
  6.  旧法では8種類の設立形態が規定されていましたが、例えば、自然人2名によるパートナーシップ等現代的なビジネスにはなじまない形態が含まれていたため、新法では5種類に絞られています。旧法で特に活用されていたのは有限会社(Limited Liability Company: LLC)、株式会社(Joint Stock Company: JSC)であり、新法下でもこれは変わらないものと予測されますので、以下では有限会社、株式会社に絞って解説します。

  7. 3 監督官庁の整理
  8.  新法では、上場株式会社については資本市場庁(Capital Market Authority: CMA)が、それ以外の会社については商工業省(Ministry of Commerce and Industry: MOCI)が監督官庁になるものと整理されました。

  9. 4 一人会社の設立解禁
  10.  旧会社法では有限会社の設立には2名以上の出資者が必要でしたが、新法では一定の要件の下で一人会社の設立が認められました。

     また、株式会社については、サウジアラビア政府や国営企業が株主である場合や資本金が5,000,000サウジアラビア・リヤル(SAR)(約1億5317万5000円)以上の会社については一人会社として設立できることとなりました。その余の株式会社については、旧法では最低5名の株主が必要でしたが、新法では2名以上の株主で足りることとなります。

  11. 5 定款等の開示方法
  12.  旧法では、会社の定款等の書面は設立時及びその変更時には、本店の所在地において配布される日刊紙に掲載することが要求されていました。新法では、MOCIのウェブサイトに掲載すれば足りることとなりました。

  13. 6 強制的な法定準備金積立の減額
  14.  有限会社、株式会社ともに、旧法では、会社の利益の10%を、強制的に法定準備金に算入しなければならず、その総額が資本金の50%に達するまで、準備金の積み立てをする必要がありました。

     新法でも、毎年10%の留保強制制度は据え置きですが、積立総額は資本金の額の30%に達するまででよいことになりました。

  15. 7 持株会社制度の導入
  16.  旧法下ではいわゆる持株会社という概念は存在しませんでしたが、新法では持株会社制度を新設しました。有限会社、株式会社ともに持株会社となることができ、その主な要件は商号中に「holding」という名称を含んでいること、子会社の株式の過半数以上を保有すること又は取締役会の構成を支配すること等です。なお、子会社が持株会社の株式を保有することはできません。

  17. 8 罰則の明確化
  18.  新法では、違反があった場合の罰則の内容及び手続(刑事手続となるのか、所轄官庁での行政手続となるのか等)が明確化されました。

     以下では株式会社・有限会社のそれぞれに特有の改正について、項目を分けて解説します。

  19. 9 株式会社(JSC)特有のルール
    1. (1) 最低資本金
    2.  株式会社の最低資本金は、2,000,000SAR(約6127万0000円)から500,000SAR(約1531万7000円)に減額されました。資本金のうち25%については設立時に払込をする必要がありますが、残余については設立後5年以内に払い込むことで足ります。

    3. (2) 役員の持株強制ルール撤廃
    4.  株式会社について、旧法では、全取締役が一定数の株式を保有しなければならないというルールがあり、社外取締役にも適用されていました。新法ではこのルールが撤廃されました。

    5. (3) 取締役報酬の上限
    6.  旧法では株式会社の全取締役の報酬の合計額の上限は200,000SAR(約612万7000円)でした。新法ではこれが500,000SAR(約1531万7000円)に引き上げられました。

    7. (4) 取締役会
    8.  最大人数は11名、最少人数は3名となります。新法では、年間少なくとも2回の開催が義務付けられました。

       議事録について、旧法では議長及び書記の署名があれば足りましたが、新法ではこれに加えて全出席取締役の署名が必要となりました。

    9. (5) 利益相反規制
    10.  株式会社の取締役が利益相反取引を行うことはできないことは我が国の会社法と同様です。株式会社の取締役が利益相反であることを事前に取締役会で開示せず、のちにこれが判明した場合、役員任用契約は無効とみなされ、同取締役は過去に受領した一切の役員報酬を株式会社に返還すべき義務を負います。

    11. (6) 株主総会
    12.  旧法では、株主総会は、原則として総会開催日の25日前には招集通知を行う必要がありましたが、新法では10日前の通知で足りることとなりました。

       定足数について、旧法では、付属定款によってこれを無制限に引き上げることができたため、極端な事例では超少数株主であっても出席しなければ定足数を満たさないという現象が発生し得ました。新法では、付属定款による定足数の引き上げ幅に上限を課しています。

    13. (7) スクーク(イスラム債)、転換型社債
    14.  新法では、会社が社債又はスクーク(イスラム債)を発行する際には、シャリーア(イスラム法)に従う必要がある旨が明記されました。

       また、新法では、転換型社債を発行する際に臨時株主総会決議を取得すれば、その後の株式への転換は原則として取締役会の判断により行うことができる旨が定められました。

    15. (8) 自社株式の買取及び質入れ解禁
    16.  旧法では株式会社が自社株式を買い取ることや質入れすることは禁止されていましたが、新法ではこれが解禁されました。

    17. (9) 債務超過の場合の処置
    18.  旧法下では、損失が資本金の75%を超えた株式会社は、マネージャーが会社の存続又は解散を検討するための臨時株主総会を招集する必要がありましたが、旧法下では、債務超過会社をより厳格な規制下に置く必要があるのではないかとの議論がありました。

       そこで新法では、損失が資本金の50%を超えた株式会社については、45日以内に臨時株主総会が開催されない場合、法律により強制的に会社が解散させられることとなりました。

       臨時株主総会では、増資又は減資により損失が資本金の50%を超える状態を是正して会社を存続するか、または会社を解散するかについて、決議が行われます。

  20. 10 有限会社(LLC)に関する規制
    1. (1) 株主の有限責任
    2.  旧法下では、有限会社の株主は有限会社の債務に対して責任を負っていました。これは下記の債務超過の場合の強制解散制度とも相まって、有限会社への出資を萎縮させる大きな要因となっていました。

       そこで新法では、原則として、有限会社の株主は会社の債務につき出資額を超えて責任を負わないことが明確になりました。

    3. (2) 有限会社から株式会社への組織変更
    4.  新法では議決権の50%以上の株主が賛同した場合、この組織変更が認められることになりました。

    5. (3) 債務超過の場合の処置
    6.  損失が資本金の額の50%を超えた有限会社では、マネージャーが同損失を認識した日から90日以内に、商工業省にその旨の登記を行い、また、臨時株主総会を招集する必要があります。招集を怠った場合、会社は法律上解散を強制されます。

       同臨時株主総会では、会社を存続するにせよ、解散するにせよ、原則として出席株主の議決権の75%以上の賛同が必要となります。決議ができない場合、会社は法律上解散を強制されます。

       ここで臨時株主総会が有限会社を存続させる決議をする場合、前記の株式会社のように、資本金の変動によって資本金の50%超の損失状況を是正しなければならないという規定はありません。

以上