サウジアラビアにおける代理店保護法制について

令和2年5月更新

1.はじめに

 サウジアラビアにおいて製品を販売したり、サービスを提供したりする場合、日本企業はじめ多くの外国企業が、現地法人を設立することなく、現地の代理店を利用して、サウジアラビア国内で製品販売又はサービスの提供を行っています。このような形態で事業を進めることにより、①既に現地で販売網等を有する現地代理店を活用して簡易かつ速やかに事業を展開することができ、また、②新たに現地拠点を設置したり、販路を開拓したりするためのコストを軽減することが可能になります。

 本稿では、サウジアラビアにおいて、現地代理店を介して製品販売、サービス提供を展開する場合の法制度を概観します。

2.法源

 サウジアラビアでは、代理店営業に関する基本法として、商業代理店法(ヒジュラ暦1382年2月20日(西暦1962年7月22日)発布、以下「法」といいます。)及び同施行規則(ヒジュラ暦1401年5月24日(西暦1981年3月31日)発布。以下「施行規則」といいます。)が定められ、種々のルールを規定しています。

 法及び施行規則の所轄官庁は、商業省(Ministry of Commerce、2020年2月に商業投資省から名称変更)です。

3.対象事業

 施行規則が定める商業代理店とは、利益・手数料その他を対価として、事業を行うために、本国における製造者等(以下「委託者」といいます。)と契約を締結するすべての者で、エージェント(代理人としてサウジアラビアの顧客との取引を行い、本人が顧客との契約当事者となる形態)、ディストリビュータ(自身が顧客との取引の契約当事者となる形態)を問わず含まれると定義されています。このような広範な定義から、フランチャイジーに対しても適用されると解されています。

 このように、法の適用範囲は広く、サウジアラビア内で代理店またはこれに類する営業を行おうとする場合は、原則として法及び施行規則の適用対象と考えるのが無難でしょう。

 以下では、エージェント、ディストリビュータ、フランチャイジー等を総称して「商業代理店」、エージェント契約、ディストリビュータ契約、フランチャイズ契約等を総称して「代理店契約」といいます。

4.代理店契約の法定記載事項

 後述のとおり、サウジアラビア内で商業代理店として営業するものは、商業代理店登記をする必要がありますが、これに先立ち、委託者(外国投資家)との間で代理店契約を締結する必要があります。

 法及び施行規則は、以下のとおり代理店契約の法定記載事項を定めています。

  • ①     契約当事者の国籍
  • ②     販売対象となる製品又はサービス
  • ③     対象地域、対象とする事業活動
  • ④     契約期間及び契約更新の方法
  • ⑤     エンドユーザーに対する予備部品の供給、保守サービスの提供に関する事項(後述6.)
  • ⑥     契約の解除及び契約期間満了による終了に関する事項

5.商業代理店登記

(1)登記義務

 商業代理店になろうとするものは、法に基づく商業代理店登記をしなければ商業代理店として商行為を行うことはできません。

(2)登記要件

 商業代理店の登記を受けようとするものは、次の要件を満たす必要があります。

  • ① 非サウジアラビア人は商業代理店の登記を受けることはできません。法人の資本構成に一部でも外資が組み込まれている場合は登記を受けることはできません。さらに、法人代表者及び役員全員が、サウジアラビア人でなければなりません。
  • ② 取引を禁止されている者又は取引を行う能力の無い者は商業代理店の登記を受けることができません。
  • ③ 委託者との間で適式に締結された代理店契約が存在しなければなりません
  • ④ 代理店契約の内容が法及び施行規則の定めを満たしている必要があります(その内容は前記4.のとおり)

(3)登記手続

ア 登記を受けようとするものは、代理店契約の効力発生日から 3 か月以内に、下記ウの付属書類を添付して、商工業省次官又は商工業省支局に登記申請をする必要があります。

イ 登記申請書には、次の事項を記載する必要があります。

  • ①  登記申請者の名称
  • ②  法人の商業登記番号
  • ③  住所
  • ④  販売・サービス提供を行う施設の責任者の氏名
  • ⑤  代理店契約に記載された製品又はサービスの種類及び名称
  • ⑥  委託者の名称及び国籍
  • ⑦  委託者の本店住所
  • ⑧  代理店契約に記載された製品を製造する施設の住所
  • ⑨  代理店契約に記載された対象地域及び契約期間

ウ 登記申請書には、以下の書類を添付する必要があります。

  • ①  代理店契約の正本及び副本(正本は、所轄官庁が認証したもの)
  • ②  代理店契約その他の文書が外国語で記載されている場合、これらの文書の認証されたアラビア語翻訳文
  • ③  商業登記簿謄本
  • ④  登記申請者及びその役職員がサウジアラビア人であること、及びサウジアラビア資本で構成されていることを証する書面
  • ⑤  商工会議所の会費支払証明書

エ 登記が承認された場合、申請者は、所定の登記手数料を納付します。登記手数料は500サウジ・リヤルです。登記手数料の納付をもって登記が有効になります。

(4)商業代理店の登記抹消

 商業代理店の登記は、次の各号のいずれかに該当する場合、抹消されます。

  • ①  商業代理店事業を取りやめた場合
  • ②  代理店契約が終了した場合
  • ③  登記名義人が法に規定された要件を充足しなくなった場合

 抹消登記処分を受けたものは、処分通知の日から1か月以内に、商業大臣に対して異議の申立をすることができます。商業大臣の同異議事由に対する審査結果は終局的な判断となります。

6.消費者保護規定

(1)保守体制等構築義務

ア 商業代理店は、代理店契約の対象製品の予備部品、必要となるメンテナンス、並びに、製造者が通常定める製品の諸条件及び品質保証を提供する義務を負います。商業代理店がこれらの義務に違反した場合、後述8.の罰則が適用されます。

 これらの義務の内容は、従前は施行規則に定められていましたが、2018年3月15日の施行規則改正により、商業代理店が負う保守体制等構築義務の具体的内容については、別の施行細則に定められることになりました。

(2)表示規制

 商業代理店は、その広告や請求書等の文書において、商業代理店の名称、住所、販売地域、登記番号等を記載しなければなりません。

7.代理店契約の終了

 代理店契約は、当事者が定めた契約期間の期間満了により終了します。

 隣国のカタール等で見られる、代理店契約の終了時における商業代理店に対する損失補償制度は規定されていません。しかし、サウジアラビアにおいても、代理店契約終了時に、代理店側から損失の補償が求められたり、補償がされるまで商業代理店としての登録を抹消しないとの主張がされたりすることがありますので、留意が必要です。

8.罰則

 無登記で代理店業を営んだものその他法又は施行規則に違反したものは5000サウジ・リヤル以上5万サウジ・リヤル以下の罰金に処されます。

 商業代理店に非サウジアラビア人が含まれていた場合等法又は施行規則が定める外資規制に違反した場合には、上記罰金のほかに、法人の事業清算命令、一定期間の商行為禁止命令、関係者の国外退去命令など、重い行政処分が課されます。

以上