カタールにおける外国投資法について

平成30年7年7日更新

  1. 1.はじめに
  2.  カタールでは、2018年1月、カタール国内の全ての経済活動・商業分野に対して、外国資本100%での投資を許容する新法案が、閣僚会議により承認されました。

     この新法案は、原則としてカタール資本の最低51%の出資を要求していた従前の外国投資法(2000年法第13号。以下「外資法」といいます。)に代わるもので、100%外国資本によるカタールへの投資を許容するだけでなく、外資の投資プロジェクトに対する土地の割り当て、所得税や関税の減免などの様々な投資優遇措置も規定されています。同法案は、カタールに外国投資を呼び込み、カタールの国際的地位を高めることを目的としていますが、カタールが2022年にFIFAワールドカップの開催を控えていることもあり、この新法案が施行され規定どおりに運用されることになれば、外資規制が比較的厳しい中東諸国で、カタールは、外国資本の有力な投資先の1つとして注目を集める可能性を秘めているといえます。

     ただ、残念なことに、承認された新法案は、2018年5月末時点においても、その具体的な施行日は未確定のままとなっていますので、本稿では、現行の外資法について、その内容を整理・概説することにいたします。

  3. 2. 現行の外資法の概要
  4. (1) 規制対象
  5.  外資法は、カタールにおける外国投資を規制する主要な法律です。

     外資法の主な規制対象である外国投資家とは、自然人であるか法人であるかを問わず、カタール国籍を有しない者で、国が同法の規定に基づき認可した投資プロジェクトに対して、資金を直接投資する者をいいます。

  6. (2) 出資資本規制
  7. ア.  原則

     外国投資家は、原則として、カタール国籍のパートナーと共同出資することにより、カタールの大部分の業種に対し投資をすることができますが、カタール国籍のパートナーが51%以上の資本を保有しなければならないという出資比率規制が課せられています。この規制が、カタールにおいて外国資本が投資をする上で、現状、大きな制約となっています。

    イ.  100%の外国資本による出資が認められる場合

     例外的に、下記に掲げる業種については、外国投資家が100%まで資本保有が認められる場合があります。

    1. ● 農業
    2. ● 工業
    3. ● 医療
    4. ● 教育
    5. ● 観光
    6. ● 天然資源開発
    7. ● エネルギー
    8. ● 鉱業
    9. ● コンサルタント・サービス
    10. ● 技術及び情報技術
    11. ● 文化、スポーツ、エンターテイメント・サービス
    12. ● 物流サービス

     もっとも、外国投資家が、49%を超える資本を保有するためには、上記の業種に該当することのほか、商業・貿易省大臣の許可を得ることが必要です。かかる商業・貿易省大臣の許可は、個別事情を考慮する同省大臣の裁量権に委ねられているため、許可を取得することは容易ではありません。

    ウ.  投資の禁止又は制限

     外国投資家は、商業・貿易省の評議会による承認がないかぎり、銀行業又は保険業に対して投資をすることはできないと定められています。

     さらに、外国投資家による商業代理店又は不動産の購入を含む不動産業に対する投資は、認められておりません。

    エ.  QFC内で設立された法人に関する例外

     以上が外資法による外資に対する出資規制の概要ですが、カタール金融センター(QFC)では、独自の法律制度が設けられており、例えば、QFC内で設立された法人は、外資法の制約を受けることなく、100%外国資本とすることが認められます(なお、本稿では詳細は省略いたしますが、QFC内で設立された法人に対しては、上記以外にも、各種手続・税制面等で緩和措置が認められています。)。

     

  8. (3) 投資インセンティブ
  9.  現行の外資法では、以下のような投資を誘引するための優遇制度が定められています。

    ア.  土地

     外国投資家に対しては、期間を50年以下とする更新可能な賃貸借により、投資プロジェクトを行うために必要な土地の割り当てを受けることができると定められています。

    イ.  輸入

     外国投資家は、施行法令の定めに基づき、投資プロジェクトの活動を行い又はその事業を拡大する投資をする上で必要なものを輸入することができると定められています。

    ウ.  税制

     商業・貿易省大臣の許可により、下記の優遇措置が認められる場合があります。

     ①  投資プロジェクトの開始日から10年を超えない期間において、外資法2条の100%出資が認められうる業種に対する外国投資にかかる所得税を免除すること

     ②  投資プロジェクトの開始のために必要な機械機器にかかる輸入関税を免除すること

     ③  現地市場で入手できない原材料及び半製品生産材料に関する輸入関税を免除すること

    エ.  土地収用

     外国投資に対しては、公共の利益に適うものでないかぎり、直接又は間接を問わず、土地の収用又はこれに準ずる行為をしてはならないものと定められています。

     また、土地を収用する場合であっても、無差別かつ適切に行う必要があります。また、土地の収用にかかる補償は、収用前の経済状況に基づき、収用の時点又は収用の公表の時点における市場価値と等しいものとして評価されます。補償は、遅滞なく、実勢為替レートに従い支払われ、金利についても、支払日における現行の利率に従い計算されます。

    オ.  送金

     外国投資家は、外国からカタールに対し、投資に係る資金の送金を行うことができると定められています。これらの送金は、以下の形式をとります。

     ① 投資収益にかかるリターン

     ② 投資の全部又は一部の売却又は清算による収入

     ③ 投資を巡る紛争の解決による収入

     ④ 外資法に基づく土地収用による所得

    カ.  投資財産の所有権移転又は放棄による事業の継続

     外国投資家は、施行されている法令に従って、投資財産の所有権を、他の外国投資家若しくはカタール国内の投資家に対して移転し、又はパートナーシップによる場合にはカタール国内のパートナーに対してこれを放棄することができます。

     この場合において、新規投資家が、当該プロジェクトに引き続き取り組み、前の投資家と同様の権利義務を負うかぎり、当該投資プロジェクトは継続しているものとみなされます。

  10. (4)  適用除外
  11.  以下に該当する外国投資家については、外資法は適用されません。

     ①  免許又は特約に基づき、採掘契約の規定に従うことを条件として、天然資源の採掘権又は管理権を与えられた個人又は会社

     ②  商業会社法(Commercial Companies Law、2002 年法第 5 号)の規定に基づき、政府、公的機関、又は公的機関の出資する会社と、外国投資家との間で設立された会社

  12. (5) 罰則
  13. ア. 外資法のいずれかの規定に違反した外国投資家は、商業・貿易省大臣による通知を受けます。通知を受けた外国投資家は、当該通知の日から3か月を超えない期間内に、是正しなければなりません。

    イ. 外資法の規定に違反して経済活動を行う外国投資家は、5万カタール・リヤル(約150万円)以上10万カタール・リヤル(約300万円)の罰金に処せられます。

  14. 3. 結語
  15.  以上、カタールにおける外資法の内容について簡単に概観しました。

     QFCによれば、日本企業による2003年以降2016年9月までのカタールに対する直接投資額は、約55億ドルに達したことが明らかとなっており、冒頭にご紹介した外資法の新法案施行などの今後の規制緩和の動きと合わせ、日本企業を含む外国投資家によるカタールに対する投資が、更に増加することが期待されます。

以上