カタールにおける破産手続について

令和3年3月更新

1.はじめに

 カタールにおける破産手続は、大別して、2種類の手続が存在します。

 カタール国内については、カタール商法(2006年法律第27号)が、破産手続に関する規定を定めています。

 これに対し、2005年に設立されたカタール金融センター(QFC)は、別の法域を構成しており、破産手続に関しても独自の制度を設けています。QFCの法制度は、コモンローの原則に基づいているため、英国をはじめとするコモンローを採用する法域の破産法に類似しています。

 カタールでは、これまで、歴史的に、破産はほとんど見受けられませんでしたが、地方裁判所での破産の件数は、近年、増加傾向にあります。また、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、今後も、この増加傾向が続く可能性があります。

 そこで本記事では、前者である、カタール国内における破産手続について、その制度目的、手続開始、破産宣告及び罰則の概要をご紹介します。

2.破産制度の目的

 カタール国内の破産制度には2つの主要な目的があります。 

 第一の目的は、債務者から処分権を奪うことにより、資産が債権額を満たすのに十分でない債務者から、債権者を保護することです。

 第二に、破産の場面では、各債権者が債務者からの弁済を最大化するために、各債権を別々に迅速に回収しようとして、債権者間で競争が起こる可能性があります。このような紛争を回避するために、破産制度は、全ての債権者が含まれる集団的な手続によって、債務者の資産を公平に分配し、債権者自身を互いに保護することを目的としています。

3.破産手続の開始

(1) 破産手続開始の基本的な要件

 債務者である商人(trader)のうち、困難な経済状態にあり、かつ、商業債務(commercial debts)の支払を停止した者は、破産宣告を受ける可能性があります。

 また、破産状態は、原則として、裁判所による破産を宣告する判決によってのみ生じます。

 すなわち、破産宣告を受けるためには、カタール商法の規定に従い、原則として以下の3つの条件を満たす必要があります。

  • ① 債務者が商人であること(なお、全ての商業会社は商人とみなされます。)
  • ② 債務の支払いを停止すること
  • ③ その後、裁判所が破産を宣告する判決を下すこと。

(2) 債務者による破産申立て

 商人自身による破産宣告を受けるための申立ては、支払を怠った事由を示す報告書を、裁判所書記官に対して提出する方法によります。報告書には、以下の書類を添付する必要があります。

  • ① 主要な商業帳簿
  • ② 最新の貸借対照表及び損益計算書の写し
  • ③ 申立て前2年間の個人費用明細書等
  • ④ 商人が所有する不動産及び動産並びに支払いを懈怠した日におけるこれらのおおよその価値を記載した申告書
  • ⑤ 債権者及び債務者の氏名及び常居所、債権又は債務の金額並びにそれらを保証する担保を記載した申告書
  • ⑥ 申立て前2年間で商人の不払いに対する抗議を記載した申告書

 以上の添付書類には、商人自身が日付を記載し、かつ、署名をしなければなりません。

 一部の書類を提出できない場合や、内容に不備がある場合には、報告書にその理由を記載する必要があります。

(3) 債権者による破産申立て

 破産手続は、債権者が申し立てることもできます。

 すなわち、現に支払期限にあり争いのない商業債務の債権者は、商人である債務者が弁済期に支払いを怠った場合には、たとえ担保が付されている場合でも、当該債務者の破産宣告を求めることができます。

 また、未払の商業債務の債権者は、以下のいずれかの場合には、商人である債務者が支払を怠ったことを証する証拠を提出することにより、当該債務者の破産宣告を求めることができます。

  • 債務者のカタールにおける所在が不明な場合
  • 債務者が逃亡した場合
  • 債務者の建物が閉鎖された場合
  • 債務者が自ら清算手続に進んだ場合
  • 債務者が債権者を害する行為に及んだ場合

 支払期限の到来した民事上の債務を有する債権者は、商人である債務者が現在の商業債務の支払を怠ったことを証する証拠を提出した場合、当該債務者の破産宣告を求めることができます。

 ただし、罰金、税金、又は手数料を支払わなかったことを理由として、破産宣告を求めることはできません。

 債権者が破産宣告を求める手続は、原則として、通常の訴訟手続になります。ただし、緊急を要する場合には、支払を怠ったこと及び緊急性を示す証拠を含む請願書を、裁判長に提出する方法によることができます。

 (4) 特殊な破産申立て

 商業債務の支払を怠った商人は、以下の場合であっても、破産宣告を受ける可能性があります。

  • 死亡した後
  • 商業取引を停止した後
  • 行為無能力者(incompetent)になった後

 ただし、破産宣告の申立てがなされ得るのは、商人の死後ないし商業登記から氏名が削除された後2年間に限られます。

 また、商人の相続人は、商人の死亡後2年間、当該商人の破産宣告を求めることができます。

4.破産宣告

(1) 裁判所による調査

 破産の申立てに係る調査をする裁判所は、破産を決定するまでの間、債務者の資産を維持管理するために必要な措置を命ずることができます。

 また、裁判所は、債務者の財産状態や支払を怠った理由を調査し、その報告書を提出させる者を任命できます。

(2) 破産管財人の任命

 裁判所は、破産を宣告する判決にあたり、破産管財人を任命し、商人の取引施設、金庫及び倉庫を封鎖するよう命じます。

(3) 支払停止の日付の指定

 裁判所は、破産を宣告する判決において、支払停止の日付を暫定的に指定します。この日付が指定されない場合は、判決が下された日付が、暫定的な支払停止の日付となります。

 この支払停止の日から、破産の判決が出される前までの間に、債務者によって行われた特定の種類の取引行為は、無効とされるか、取り消される可能性があります。

(4) 公示

 破産宣告の判決、又は、支払停止の日付を変更する決定は、商業登記簿に登記されます。

 また、その要約は、裁判所の掲示板にも掲示されます。

 破産管財人は、判決又は決定の日から2週間以内に、日刊紙2紙と官報にて、当該判決又は決定の概要を公表します。

 さらに、破産管財人は、破産宣告の判決要約の写しを、国内で営業している全ての銀行と債務者の事業の所轄官庁宛てに送付しなければなりません。

(5) 判決に対する異議申立て

 利害関係を有する第三者は、破産を宣告する判決に対し、官報で判決の要約が公表された日から10日以内に、異議を申し立てることができます。

(6) 破産者に対する効果

  • ア 破産者は、破産の判決が下されると、自らの財産を処分し、又は、管理することができなくなります。
     それゆえ、破産者は、自ら債務を返済し、債権を回収することができません。
  • イ また、破産者は、破産管財人の書面による許可なく住所地から離れることはできません。
  • ウ さらに、破産宣告を受けた個人は、投票したり、中央市議会(the Central Municipal Council)や、カタールの商工会議所(the Chamber of Commerce and Industry of Qater or associations)に所属したり、経営者、取締役又は取締役会のメンバーになることはできません。
     また、破産宣告を受けた個人は、輸出入事業、仲介に関与する有価証券の売買又はオークションによる売買事業等、一定の商業活動に従事することも禁止されます。

5.罰則

 終局的な判決により破産宣告を受けた商人が、以下に該当する場合、詐欺破産とみなされ、1年以上5年以下の懲役刑に処せられます。

  • ① 帳簿、書類その他の記録を隠匿し、破壊し、変更した場合
  • ② 債権者を欺くことを意図して財産を隠匿し、又は処分した場合
  • ③ 帳簿や貸借対照表に虚偽を作出し、帳簿を提出せず、又は説明をしないなどにより、故意に債務超過を悪化させた場合

 カタール商法は、以上のほかにも、破産手続制度の実行性及び公正を保つため、様々な罰則規定を定めています。

    以上