カタールにおける知的財産権について

令和元年5月20日更新

  1. 1.  はじめに
  2.  カタールは、2017年9月、実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(通称ローマ条約)に加盟し、知的財産権に関する主要な国際条約への加盟を完了しました。

     また、同国では、同年11月以降、商標登録に関するオンライン出願サービスの運用が部分的に開始されており、国際的なベストプラクティスに沿う形で、商標登録手続の効率化が図られるようになっています。

     このように、同国においては、近時、国内産業の保護と外国からの投資促進を主たる目的として、知的財産権保護体制の強化・促進が試みられています。

     そこで、本稿では、カタールにおける知的財産権制度をテーマとして、その主要な知的財産法である特許法、商標法、著作権法の内容を概説することに致します。

     

  3. 2.  特許法(Law No. 30 of the year 2006 issuing Patents Law)
  4. (1) 保護対象

      ア.  特許とは、生み出された発明に法的な保護を与えるため、特許法及び同法施行規則に基づき、特許局から付与される権利であると定義されています。

      イ.  特許は、新規性、進歩性及び産業上の利用可能性(新しい工業製品、現代的産業技術・装置に関するものか、一般的な工業的製法に関するものかを問いません。)を有する発明について認められます。ただし、イスラム法の規定と抵触する発明、公序良俗、倫理又は国家安全保障に反する発明については、保護の対象となりません。

      ウ.  また、特許の対象は、材料製品、工業プロセス又は製造 技術の形態であっても良いとされていますが、以下の形態は除かれます。

       ① 科学的理論、数学的方法、コンピュータプログラム、純粋な知的活動又は特定の遊戯の実践

       ② 植物又は動物の研究、並びに、微生物学的プロセス及びその産出以外の植物又は動物の産出に関する本質的に生物学的なプロセス

       ③ ヒト又は動物及びその産出の取扱いに係る診断方法、治療方法又は外科的手法

    (2) 存続期間

     特許権の保護期間は、出願日から20年とされています。

    (3) 権利の効力

      ア.  特許権者は、製造、使用、売買、輸出等を通じて、正規に特許発明を実施することができます。いかなる者も、特許権者の明示的な書面による許可がなければ、その特許を実施することはできません。

      イ.  特許権者又は特許権の全部又は一部の譲渡を受けた者は、同法に違反又は同法の規定に基づき付与されたライセンスに違反する侵害又は不正な行為が認められる場合には、その発明又は同発明を利用・実施する企業若しくはその企業の部門に対し、差し止めを求めることができます。

    (4) 出願の流れ

      ア.  特許の審査手続きは、経済通商省(Ministry of Economy and Commerce)の特許局(Patents Office)において行われますが、同手続きは、大まかには、①特許出願、②方式審査、③実体審査、④特許付与の公表、⑤特許登録の順に進められます。

      イ.  カタール国籍を有するか否かを問わず、何人も出願することができますが、出願言語にはアラビア語が用いられます。

      ウ.  方式審査では、出願者の表示に係る記載、必要書類の有無、手数料納付等の形式的な要件充足性について判断がなされます。

      エ.  実体審査においては、新規性、進歩性、産業上の利用可能性といったの実体的な要件充足性について判断がなされます。

    (5) 不服申立て制度

      ア.  拒絶査定不服審判

      特許局から拒絶査定を受けた出願者は、書留郵便による通知を受けた日から15日以内に、特許局の拒絶査定に対する不服を申し立てることができると定められています。

      イ.  異議申立て

       審査の結果、出願が受理される場合には、その旨が公表されることになりますが、これに対し、不服のある者は、何人も、公表から60日以内に不服申立書を特許局に対し提出することができます。この場合、特許局は、30日以内に当該申立ての可否を判断しなければならないと定められています。

     

  5. 3.  商標法(Law No. 9 of 2002 on Trade Marks, Trade Names, Geographical Indications and Industrial Design regulates the protection of trade and industrial marks)
  6. (1) 保護対象

      ア.  商標とは、視覚的に認識することができるもののうち、商人、製造業者又はサービス提供者の製品を明確に区別することができるマーク(標章)をいいます。

      イ.  標章は、次のいずれかの特徴的な形態を採る場合、登録に値するものとみなされます。

      すなわち、工業、手工芸若しくは農業上の製品、林業若しくは鉱業の分野の事業上の製品、又は、取引において販売される製品若しくは提供されるサービスを区別するために使用されるか、使用が意図される、名前、署名、単語、文字、文字、数字、図画、写真、シンボル、スタンプ、画像、レリーフ、その他の記号又は色彩、非機能単色、音、香り、記号の組み合わせの形態を採る場合です。

    (2) 存続期間

     商標権の存続期間は、出願日から10年間とされています。

     ただし、商標権者は、更新手数料を支払うことで、同期間を10年ごとに更新することが可能です。

    (3) 権利の効力

     商標権者は、他人が自己の商標を使用することを禁ずる権利、及び、自己の商標として登録された商品若しくは役務又はこれと類似する商品若しくは役務について、公衆を誤認させる可能性のある類似商標の使用を禁ずる権利を有します。

    (4) 出願の流れ

      ア.  商標の出願手続きは、経済通商省の産業財産保護局(Industrial Property Protection Office)において行われます。同手続きは、大まかには、①商標登録出願、②方式審査、③実体審査、④出願公告、⑤登録の順に進行します。

      イ.  カタール国籍を有するか否かを問わず、出願することができますが、出願言語にはアラビア語を用いる必要があります。

    (5) 不服申立て制度

      ア.  拒絶査定不服審判等

       審査の結果、法律の規定に定められた要件を充たしていないと判断された場合、当該出願は拒絶されるか、制限又は補正を課す旨の決定がなされます。なお、産業財産保護局は、出願の日から30日以内に、上記決定を、出願者に通知しなければなりません。

       拒絶査定に対しては、出願者は、同通知の日から60日以内に、不服審判を申し立てることができます。

       また、出願者が、同通知の日から60日以内に当該制限又は補正を遵守しなかった場合、当該出願は無効とみなされます。

      イ.  異議申立て

       商標の出願が受理された場合、産業財産保護局は、その標章を官報に公告します。

       これに対し、不服のある者は、何人も、産業財産保護局に対し、官報に掲載されてから4か月以内に不服申立書を提出することができます。

       産業財産保護局は、同不服申立書が提出された場合、2か月以内に、その写しを出願者に送付しなければならず、出願者が指定された期限までに何らの回答をしなかった場合、当該出願を放棄したものとみなされます。

       なお、異議申立てにかかる決定に対しては、関係者に対する当該決定の通知の日から60日以内に、管轄裁判所に対し、不服を申し立てることができます。

     

  7. 4.  著作権法(Law No. 7 of 2002 on the Protection of Copyright and Related Rights)
  8. (1) 保護対象

      著作権は、作品の価値、品質、目的又は表現方法を問わず、オリジナルの文学、芸術作品の著者に対して与えられます。

     保護対象となる主な著作物は、下記のとおりとされています。

     ① 本、パンフレット、その他の文章

     ② 口頭で行われる講義、演説、説教等又は詩、賛美歌等

     ③ 演劇、楽劇

     ④ 音楽作品(言葉を伴うか否かを問いません)

     ⑤ 振付、パントマイム

     ⑥ 視聴覚作品

     ⑦ 写真及びこれに類する作品

     ⑧ 応用美術作品(手工芸品か工業生産かを問いません)

     ⑨ 線描、建築、彫刻、装飾芸術、スケッチ、デザイン等

     ⑩ コンピュータプログラム

    (2) 存続期間

     著作権の存続期間は、原則として、著者の生存中及び死後50年間です。

    (3) 権利の効力

     著作権者は、複製、翻訳、頒布、貸与、上演、公衆送信等の行為を独占的排他的に行う権利を有します。

    (4) 登録等の手続の必要性

     著作権については、特許権や商標権と異なり、登録等の手続きを経る必要はありません。

以上