フィリピンにおける投資規制

2016年8月更新

 フィリピンにおいては、国外投資を歓迎する一方で、国内産業を保護する政策がとられており、外国投資に関する法律として、基本3法と呼ばれる3つの法律が存在する。1つ目は、1987年オムニバス投資法(The Omnibus Investment Code of 1987)で、投資に対する優遇措置を定めた法律である。2つ目は、1991年外国投資法(The Foreign Investment Act of 1991)で、優遇措置を伴わない外国投資に関する基本法であり、投資の規制及び禁止についてのネガティブリストが定められている。3つ目は、1995年特別経済区法(The Special Economic Zone Act of 1995)で、特別区に進出する企業に対して優遇措置を付与する法律である。本稿では、1.外国投資規制の根拠法令を紹介した後、フィリピンにおける投資規制の2.規制対象事業((1)禁止事業、(2)出資比率規制、(3)資本金規制)について検討する。

 フィリピンでは、外国投資への規制を定めた前述のネガティブリストが定期的に更新され、また、それらの規制法令の解釈についても統一されていないことが多いため、法令の規定のみを参照するだけでは、実際の規制の状況を把握するためには十分でない場合がありうる。実際にフィリピンへ進出したり、フィリピンの会社を対象としてM&Aを行うにあたっては、本稿で検討した投資規制に加えて、予定している業務を所轄する監督省庁の法令において個別の規制が定められていないかを確認し、必要に応じて当該規制当局と事前の折衝を行い、必要な許認可・ライセンスの種類・取得手続・必要書類を事前に把握しておくことが重要であると思われる。

 また、フィリピンにおいては、本稿で検討した投資規制に加えて、外資の土地所有や為替取引等に関して規制が存在しているため留意が必要である。

  1. 1. 根拠法令
  2.  外国投資への一般的な規制は、前述の1991年外国投資法に基づいて制定されるネガティブリスト(Foreign Investment Negative List)に基づいて行われる。このネガティブリストは、AとBに分類されており、リストAは、憲法および特定の法律で規制されている業種であり、リストBは、それ以外で規制が設けられた業種である。現在のところ、2015年5月に改訂された第10次ネガティブリストが最新版となっている。なお、このネガティブリスト以外の業種に対しては、外資100%の投資が認められている。ただし建設業など免許の取得が別途必要な業種の場合は、外資規制が課されるケースもあるため、別途確認を要する。

  3. 2. 規制対象事業
  4.  上記ネガティブリストは、(1)外国投資家による投資・所有、及び外国人の就業が禁止されている事業分野、(2)外資出資比率が制限されている事業分野、 (3)最低資本金の規制が定められている事業分野の3つに分類することができる。以下、該当する事業の概要を順に紹介する。

     なお、上記の(1)~(3)の各事業については、それぞれ省令等においてリストが定められており、以下の内容はこれに依拠して記載している。ただし、個別の法令や所轄官庁により別途規制が課せられている可能性があるため、実際に進出を検討するにあたっては、リストの原本の内容の検討に加えて、所轄官庁に対して事前確認を行うことが重要であると思われる。

  5. (1) 外国投資家による投資・所有、及び外国人の就業が禁止されている事業分野
  6.  以下の各事業は、リストAによって外国資本の参入や外国人の就業が禁止されている。第10次ネガティブリストでは、多くの職業(エンジニア、医師、建築士、他)がリストから削除された。なお、貸付会社、ファイナンス会社、投資会社も削除されたが、これらについては、新たに出資比率規制(貸付会社が外資比率が49%以下、後二者が外資比率が60%以下)が設けられた(第10次ネガティブリスト脚注4)。

    レコーディングを除くマスメディア
    専門職 a. 薬剤師
    b. 放射線・レントゲン技師
    c. 犯罪捜査
    d. 山林管理
    e. 弁護士
    払込資本金額が250 万ドル(約2億5529万5000円)未満の小売業
    協同組合
    民間警備保障会社
    小規模鉱業
    群島内・領海内・排他的経済海域内の海洋資源の利用、河川・湖・湾・潟での天然資源の小規模利用
    闘鶏場の所有、運営、経営
    核兵器の製造、修理、貯蔵、流通
    生物・化学・放射線兵器の製造、修理、貯蔵、流通(投資も禁止されている)
    爆竹その他花火製品の製造
  7. (2) 外資出資比率が制限されている事業分野
  8.  以下の各事業は、リストAによって、外資出資比率の上限が各欄左の割合に制限されている。

    出資比率上限 事業分野
    20%以下 ラジオ通信網
    25%以下 雇用斡旋(国内・国外のいずれかで雇用されるかを問わない)
    国内で資金供与される公共事業の建設、修理契約。ただし、BOT 法(共和国法第7718 号)に基づくインフラ開発プロジェクト及び外国の資金供与・援助を受け、国際競争入札を条件とするプロジェクトを除く
    防衛関連施設の建設契約
    30%以下 広告業
    40%以下 天然資源の探査、開発、利用(大統領が承認する資金・技術援助契約に基づく場合、外国資本100%参入可)
    私有地の所有
    公益事業の管理、運営
    教育機関の所有、設立、運営
    米、とうもろこし産業(操業開始から30 年以内に、資本の60%以上をフィリピン国民に放棄あるいは譲渡する場合、外国資本100%参入可)
    国有・公営・市営企業への材料、商品供給契約
    公益事業免許を必要とするBOT プロジェクトの提案、施設運営
    深海漁船の運営
    損害査定会社
    コンドミニアム・ユニットの所有

     以下の各事業は、リストBによって、安全保障、防衛、公衆衛生、公序良俗の脅威、中小企業保護の観点から外資出資比率の上限が40%の割合に制限されている。

    出資比率上限 事業分野
    40%以下 フィリピン国家警察(PNP: Philippine National Police)の許可を要する品目の製造、修理、保管、流通
    a. 火器(拳銃、散弾銃など)、火器の部品及び弾薬、火器の使用もしくは製造に必要な器具もしくは道具
    b. 火薬
    c. ダイナマイト
    d. 起爆剤
    e. 爆薬製造時に使用する材料(i. 塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム ii. 硝酸アルミニウム、硝酸カリウム、硝酸バリウム、硝酸銅、硝酸塩、硝酸カルシウム、赤銅鉱 iii. 硝酸 iv. ニトロセルローズv. 塩素酸アンモニウム、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム vi. 硝酸エステル vii.グリセリン viii. 無定形リン ix. 過酸化水素 x. 硝酸ストロンチウム xi. トルエン)
    f. 望遠鏡、赤外線照準器など(ただし、相当量が輸出向けの場合、またPNP が定める外資参入比率に準じる場合、PNP の承認の下、非フィリピン人にこれら品目の製造、修理が認められる。)
    国家防衛省(DND: Department of National Defense)の許可を要する品目の製造、修理、保管、流通
    a. 戦闘用の銃、弾薬
    b. 軍用兵器及び部品(魚雷、地雷、水中爆雷、爆弾、手榴弾、ミサイルなど)
    c. 砲撃・爆撃・射撃統制システム及び部品
    d. 誘導ミサイル、ミサイルシステム及び部品
    e. 戦闘機及び部品
    f. 宇宙ロケット及び部品
    g. 軍艦及び補助艦艇
    h. 兵器修理・メンテナンス機材
    i. 軍用通信機器
    j. 暗視装置・機器 
    k. 放射線装置及び部品
    l. 軍事訓練装置
    m. その他DND が定める品目(ただし、相当量が輸出向けの場合、またDND が定める外資参入比率に準じる場合、DND の承認の下、非フィリピン人にこれら品目の製造、修理が認められる。)
    危険薬物の製造、流通
    サウナ、スチーム風呂、マッサージクリニックなど、公共の保健及び道徳に影響を及ぼす危険性があるため、法により規制されているもの
    レース場の運営など、全ての賭博行為。ただし、フィリピン娯楽賭博公社と投資契約が結ばれており、かつ、フィリピン経済区庁の認定を受けている事業は除く
    払込資本金額20 万米ドル未満の国内市場向け企業
    先端技術を有するか、50 名以上を直接雇用し、払込資本金額10 万米ドル(約1021万2000円)未満の国内市場向け企業
  9. *アンチ・ダミー法による規制
  10.  なお、上記のようにネガティブリストによって外資比率の上限が規定されている場合、さらに、役員の外国人占有比率についても、その外資比率の上限割合以下にする必要がある(1936年共和国法(C.A108:Commonwealth Act No.108)による規制)。

  11. **フィリピン証券取引委員会(SEC)発行のガイドラインによる規制
  12.  上記の出資比率規制について、この外国資本の比率を計算する際、従前までは、総発行株式数をベースにした外国資本比率の算出が認められてきたが、2013年5月、フィリピン証券取引委員会(SEC)はガイドライン(SEC Memorandum Circular No. 8)を規定し、議決権の有無にかかわらずすべての発行済み株式総数に対してフィリピン人保有比率を満たすことを求めた。つまり、フィリピン人向けに議決権のない優先株を発行することにより、議決権を与えずに保有比率のみを満たすことを認めない取扱いとした。

  13. (3) 最低資本金の規制が定められている事業分野
  14.  まず、国内外の資本を問わず、フィリピン国内の株式会社に課せられる資本要件は、授権資本(authorized capital)の最低25%相当の株式を引き受け(subscribed capital)、引受株式の最低25%を払い込む(paid-up capital)こと、及び、払込資本金額が5,000ペソ(2016年8月1日時点の為替相場で約1,1000円)以上であることである。

     外国資本の比率が40%を越える会社については、国内市場向けの場合、最低払込資本要件は20万ドル(約2042万4000円。以下、特別な断りがない限りUSドルを意味する。)である。この会社が先端技術を有するか、または、50名以上を直接雇用する場合には最低払込資本要件が10万ドル(約1021万2000円)となる。

     さらに、銀行など特定事業に従事する株式会社には、高額の最低払込資本要件が適用される。主な業種とその最低払込資本金は以下のとおりである。

    業種等 細目 最低資本金額
    全ての株式会社 5000ペソ(約1,1000円)
    外資比率が40%超え 原則 20万ドル(約2042万4000円)
    現地人を50名以上直接雇用する場合 10万ドル(約1021万2000円)
    先端技術者を有する場合
    銀行 ユニバーサルバンク 54億ペソ(約117億1030万0000円
    商業銀行 28億ペソ(約60億7200万0000円)
    貯蓄銀行で本店がマニラ首都圏内 4億ペソ(約8億6742万8000円)
    貯蓄銀行で本店がマニラ首都圏外 6400万ペソ(約1億3878万9000円)
    地方銀行(本店所在地によって) 320万~3200万ペソ(約693万9000円~6939万4000円)
    小売業 外資含む場合 250万ドル(約2億5529万5000円)
    1店舗当たり83万ドル(約8475万8000円)以上
    高級品または贅沢品に特化した企業 1店舗当たり25万ドル(約2553万0000円)以上

     なお、小売業については上記の最低資本金規制のほかに、以下a.~d. の外国資本に対する要件をすべて満たした上で、100%の外資資本の参入が認められている。

    1. a. 親会社の純資産が2億ドル(約204億2360万0000円)以上(外資を含む場合)、5,000万ドル(約51億0590万0000円)以上(高級品または贅沢品に特化した企業の場合)
    2. b. 世界で5件以上の小売店舗もしくはフランチャイズを展開し、少なくともその1店の資本金は2500万ドル(約25億5295万0000円)以上
    3. c. 小売業で5年以上の実績を有する
    4. d. フィリピンの小売企業の参入を認めている国の国民若しくは同国で設立された法人
    5.  また、主に輸出向けに事業を行う企業の場合(以下の条件をいずれも満たす場合)、上記最低資本金規制は適用されない。

       ① 製造業で、生産量の60%以上を輸出する場合

       ② 貿易業で、フィリピン国内での購入量の60%以上を輸出する場合

以上