フィリピンにおけるM&Aと組織再編

2016年12月更新

 組織再編の手法として、フィリピン法では、株式譲渡、新株発行、吸収合併(merger:会社法9章)、新設合併(consolidation:会社法9章)、資産譲渡(=全資産の売却等)が認められている。これらの手法は、いずれも、会社全体を対象とする手続である。もっとも、会社法上の規定はないものの、会社の事業の一部の譲渡等を資産譲渡の手続を準用して行うことは可能である。本稿では、日本企業がM&Aを行う際に用いる可能性のある上記各手続について解説した上で、2015年7月に制定されたフィリピン競争法のM&A規制についても検討を加える。

  1. 1.株式譲渡
  2.  株式譲渡の方法としては、一般的には、直接株式の売買契約を締結するケースが多いが、上場会社を買収する際には、公開買付の方法を利用することがフィリピンにおいても可能である(証券規制法:The Securities Regulation Code)。

     公開買付とは、株式市場外において、不特定多数の株主から一定の価格で特定の期間に株式を買い集める制度である。以下、公開買付制度の概要について解説する。

  3. (1) 公開買付の際の手続
  4.  ① 公開買付意思の公表

     まず、公開買付を行う者は、フィリピンの全国新聞紙面での公開買付の意思表明と、当該紙面の写しの証券取引委員会への提出を同日に行わなければならない。

     ② 公開買付届出書及び附属資料の提出

     公開買付を行う者は、公開買付開始の2営業日前までに、証券取引委員会及び買付対象会社に対し、公開買付届出書及び附属資料を提出しなければならない。公開買付届出書には、買付価格、買付期間、買付目的などを記載する。

     ③ 公開買付開始日における公告

     公開買付を行う者は、公開買付開始日から3日間連続で、公開買付届出書に記載した内容をフィリピンの全国新聞紙2紙に掲載しなければならない(公開買付届出書の入手方法を掲載する略式公告の方法も認められる。)。

     ④ 結果の報告

     公開買付を行う者は、公開買付終了日から10日後までに、公開買付の結果を証券取引委員会に報告しなければならない。

  5. (2) 公開買付の制度内容
  6.  ① 公開買付によることが強制される場合

     ・ 対象公開会社の35%以上の株式を1回の取引又は1年間以内の複数回の取引によって取得する場合

     ・ 株式を取得すると、対象公開会社の発行済株式総数の51%を超えて保有することになる場合

     ただし、市場での株式取得、合併や担保権実行による株式取得などの場合には、公開買付によることは強制されない。

     ② 公開買付期間

     公開買付期間は、公開買付開始日から20営業日以上で、かつ、公開買付意思の公表から60日以内でなければならない。

     ③ 公開買付の撤回

     公開買付開始日以降の公開買付の撤回の可否について、フィリピン法には、明確な規定はなく、ガイドライン等も存在しない。撤回が可能であることが前提の規定(証券規制法施行規則19条9項等)が存在することから、運用上は、撤回は基本的には認められていると解される。

     ④ 公開買付価格

     公開買付の際の買付価格は、全ての株主に対して均一でなければならず、適正な価格でなければならない。

  7. 2.新株発行
  8.  新株発行は、授権資本の範囲内であれば、取締役会の決議で行うことができ、他方で、授権資本の増加を伴う場合であれば、取締役会の決議に加えて株主総会の特別決議が必要である。

     また、フィリピン会社法においては、定款に別段の定めがないかぎり、全ての既存株主に新株引受権が与えられており、株主の同意なく、いわゆる第三者割当を行うことはできない。

  9. 3.合併
  10.  フィリピンの会社法においては、①吸収合併(1つ以上の会社が他の会社と統合し、吸収会社が被吸収会社の資産と負債を法的に承継し、被吸収会社が消滅する行為)と、新設分割(2社以上の会社が新会社を設立し、それらの資産及び負債を新設会社に法的に承継させた上で消滅する行為)の2種類が定められている。

     合併手続を行うには、まず、取締役会決議によって合併計画の承認を得ることが必要である。そして、その合併計画について、株主総会での特別決議による賛成が必要である。

     合併計画に反対の株主は、株式買取請求権を行使し、会社に正当な価格で株式を買い取ってもらうことができる。

     また、合併については、証券取引委員会の承認(証明書の取得)が必要であり、この取得に2カ月以上要することもあるので注意が必要である。

  11. 4.資産譲渡
  12.  資産譲渡とは、会社の全て又は実質的に全ての資産について売却、賃貸、交換、担保権設定などを行うことをいう。

     資産譲渡を行うには、取締役会決議及び株主総会の特別決議による賛成が必要である。

     資産譲渡に反対の株主は、株式買取請求権を行使し、会社に正当な価格で株式を買い取ってもらうことができる。

     この資産譲渡において注意すべき点は、会社法の他にバルクセール法の適用を受ける点である。具体的には、資産譲渡の決済前に、フィリピン商務局に対して、債権届出書(全債権者の氏名・名称、債権額を記載した書面)を提出しなければならず、これを怠ると、当該資産譲渡は無効となる。

  13. 5.フィリピンにおけるM&A全般の注意点
  14. (1) 浮動株式比率基準
  15.  上場会社のM&Aで特に注意すべき点は、浮動株式比率基準である。浮動株式比率基準とは、フィリピン証券取引所による規制で、上場会社の発行株式のうち10%以上は浮動株式(市場に流通する株式)でなければならないというものである。フィリピンにおいては、この基準が厳格に運用されており、注意が必要である。

  16. (2) アンチ・ダミー法の遵守
  17.  フィリピンには、外資規制の潜脱等を厳しく罰するアンチ・ダミー法があり、M&Aの際にも、この規制に反しないことの確認は必ず必要である。アンチ・ダミー法については、「外資規制」を参照されたい。

  18. 6.フィリピン競争法のM&A規制
  19.  これまで、フィリピンには、日本の独占禁止法に相当する法律が存在しなかったが、2015年7月にフィリピン競争法が制定された。

     フィリピン競争法は、入札談合などの競争を阻害する行為、拘束条件付取引などの支配的地位濫用行為、及び、競争の阻害を招く企業結合を禁止している。

     このうち、「競争の阻害を招く企業結合」の禁止規制について、以下解説する。

  20. (1) 規制対象取引
  21.   競争法が規制対象とする取引は、買収及び合併であり、この合併には、ジョイント・ベンチャーも含まれる。

  22. (2) 適用対象地域
  23.  競争法が規制対象とする取引は、必ずしもフィリピン国内の取引に限られず、フィリピン産業に影響を及ぼし得る国外の取引を含む。

  24. (3) 規制内容
  25.  ① 届出義務

     M&Aの取引の価値が10億ペソ(2016年12月1日のレートで約22億7589万0000円)を超える場合には、その取引の実行前に競争委員会に届出をしなければならない。この義務に反すると、当該取引は無効とされ、さらに制裁金が課される。なお、どのような取引をもって、「価値が10億ペソを超える」と判断されるかの判断基準についてもフィリピン競争法施行規則に定められているが、ここでは割愛する。

     ② 待機義務

     ①の届出後、最短でも30日間(最長で90日間)は、取引を実行することができない。

     ③ 競争委員会の審査

     競争委員会が取引を承認した場合(又は何らの判断も示さなかった場合)には、当事者は当該取引を実行できる。

     他方で、競争委員会が取引の禁止の決定を行った場合には、現状では何らの異議申立手段も法定されていないことから、取引の実行を差し控えなければならない。なお、競争委員会が、条件付きでの禁止決定を行う場合もあり、その場合には、その条件を満たしたと競争委員会が認めた場合には、取引の実行が可能となる。

以上