フィリピンにおける事業拠点の設置

2016年8月更新

 外国企業がフィリピン国内に事業拠点を設置するには、フィリピン会社法及び1991年外国投資法、さらにはアンチ・ダミー法に準拠する必要がある(これらの外資規制については、外資規制の箇所にて詳説)。

 進出形態としては、現地法人、支店、駐在員事務所のいずれかから選択することになるが、それぞれにメリット・デメリットがあることから、各形態の特徴を十分に把握した上で進出形態を確定することが重要である。

  1. 1.現地法人(株式会社)形態
  2. (1) 概要
  3.  外国企業は100%子会社をフィリピン国内に設立することにより、フィリピンで事業を行なうことができる。法人の形態としては、進出外国企業のほとんどが株式会社を選択する。

     また、非公開会社か公開会社かの選択については、フィリピン市場での上場を目指している会社以外には公開会社を選択するメリットは少ないため、多くの会社は非公開会社を選択している。もっとも、資源関連会社、金融機関、教育機関等の公共性を有する会社については、非公開会社としての設立は認められておらず、公開会社を選択しなければならない。

  4. (2) メリット
  5.  設立された子会社はあくまでフィリピンの国内企業て?あり、外国にある親会社とは別個の法人格である。そのため、親会社はフィリピンの子会社に株式投資を行なった範囲においてのみ責任を負う。つまり、フィリピンにおける事業投資による負債・倒産のリスクから本国の親会社を守りたいという場合には、最適な選択肢といえる。

  6. (3) 資本要件
  7.  フィリピン国内の法人は、一般的には、5000フィリピンペソ(H28.8.31現在のレートで約107USドル)という少額の資本の払込で設立できる。

     例外として、外資の出資比率が40%を超える企業で、フィリピン国内市場向けに事業を行う場合には、20万USドル(約2048万4000円)以上の払込資本が必要である(先端技術を有する、または直接50名以上を雇用する場合は、10万USドル(約1024万2000円)で足りる)。他方、同じく外資の出資比率が40%を超える企業であっても、生産高の60%以上を輸出しようとする企業の場合には、原則通り5000フィリピンペソ(約11,000円)の払込資本で設立できる。

  8. (4) その他の設立要件
  9.  ① 設立発起人

     5名以上15名人以下の成年の自然人が設立発起人となる必要がある。

     その過半数はフィリピンの居住者であることが必要がある(フィリピン国民である必要はない。)。

     発起人各人が最低1株以上引き受けなければならない。

     ② 会社の存続期間

     会社の存続期間は、設立日から50年を超えることはできない。ただし、 定款変更により存続期間の延長は可能である。

     ③ 本社

      現地法人の本社はフィリピン国内に置かなければならない。

  10. (5) 設立手続の流れ
  11.  ① 会社名(商号)の登録

     証券取引委員会に既に登録されている商号または類似の商号は使用することができないため、候補となる商号を3つほど用意し、事前に証券取引委員会に商号の予約を行う(オンラインで登録商号の確認が可能だが、類似性の判断基準が実際の基準よりも厳格である点には注意が必要である。)。この商号の予約の有効期限は30日間であるため、その期間内に設立の登記手続を完了させる必要がある。

     ② 銀行口座の開設及び資本金の払込

     銀行口座の開設に必要な書類については、銀行ごとに異なるため、事前に銀行に問い合わせておくことが必要である。資本金の払込については、その送金を証明する送金証明書及び預金証明書を銀行から発行してもらい、公証を受ける必要がある。

     ③ 証券取引委員会(SEC)への登録

     この登録手続は、現地法人だけではなく、支店や駐在員事務所の設立に際しても必要である。

     提出書類は、社名確認書、基本定款(附属定款があれば附属定款も)、送金証明書、預金証明書、年次報告書(会社の基本情報を記載した書類で登録情報シートとも呼ばれる)、財務役宣誓書(最低払込資本金の払込の証明等を公証した書類)である。

     登録手数料は、授権資本額の1%の1/10にその20%を加えた金額となる。登録手数料の1%に相当する調査手数料も納付しなければならない。

     ④ 地方自治体の手続

     a. バランガイ・クリアランス

     バランガイ(Barangay)とは、フィリピンにおける最小単位の地方自治体のことを指す。子会社の所在地を管轄するバランガイから許可証を取得することが必要である。その際には、一般的には、証券取引委員会(SEC)の登録証書及び賃貸契約書の写しの提出が求められる。

     b. 事業許可証(Mayor’s permit)

     子会社の所在地を管轄する地方自治体から事業許可証を取得する必要がある。事業許可証の取得の際には、一般的に、以下の書類等が必要である。

     ・バランガイ・クリアランス

     ・賃貸契約書

     ・許可申請書

     ・SEC登録証書

     ・基本定款(あれば附属定款も)

     ・申請手数料

     ・地方事業税

     c. 住民税納付証明書(Community Tax Certificate)

     子会社の所在地を管轄する地方自治体にて納付し、納付証明書を取得する必要がある。毎年の更新が必要であり、納付証明書は、バランガイ・クリアランス取得の際にも必要である。

  12. (6) 設立後の手続
  13.  ① フィリピン中央銀行への登録

     この手続は、任意であるが、海外送金には必要な手続であるため、設立と同時に登録するのが一般的である。

     資本金として送金した資金は、フィリピン中央銀行に外国投資として登録することができ、外貨建投資はフィリピンペソに転換される。中央銀行への登録により、配当時や投資資金の本国引揚時に、外貨での送金が可能になる。

     ② 内国歳入局の手続

     通常は、SEC登録の際に同時に納税者識別番号(Taxpayer Identification Number)が付与される。

     印紙税(資本金払込時に200ペソ(約442円)につき1ペソ(約2.21円)賦課)を納付する必要がある。印紙税の納付期限は株式を発行した月の翌月5日である。

     その上で、納税者登録の申請を子会社の所在地を管轄する税務署に行う必要がある。申請時には登録申請書に必要書類等(事業許可証、賃貸契約書、SEC登録証書、会計帳簿、定款(附属定款あればそれも)、登録手数料)を提出する必要がある。この税務署登録は毎年更新する必要がある。

     ③ 社会保険関連の手続

     従業員を1名でも雇用した時点で、社会保障制度(Social SECurity System)、健康保険公社 (Philippine Health Insurance Corporation)、持家促進相互基金(Home Development Mutual Fund)への登録を行なう必要が生じる。

     以上が、株式会社形態でフィリピンへ進出する場合に必要となる手続の概略である。実務的には、これらのすべての手続の完了に要する時間としては、事業の類や規模により大きく異なりうるが、目安として4ヶ月~6ヶ月程度かかる場合が多いと思われる。

  14. 2.支店形態
  15. (1) 概要
  16.  支店はフィリピンで営業活動を含めた幅広い事業活動に従事することができるが、外国投資法等の規制は、現地法人形態と同様に及ぶ。

     支店は、本社とは別の法人格を有するものではなく、本社の一部に過ぎない。したがって、支店か?負う責任はすべて本社が負うこととなる。さらに、本社の資産はすべて、フィリピン支店の債権者の権利行使の対象となりうる。これは、支店形態の特徴であり、デメリットの一つである。

  17. (2) メリット
  18.  支店形態では、支店の活動から得られる収入や、活動経費を本社の所得計算に算入することになる。したがって、支店での経費が本社の損金としてみなされるため、本社の本国での法人税を軽減できるという点は、支店形態の一つのメリットである。

  19. (3) 資本要件
  20.  フィリピン国内市場向けに事業を行う場合には、20万USドル(約2048万4000円)以上の払込資本が必要である(先端技術を有する、または直接50名以上を雇用する場合は、10万USドル(約1024万2000円)で足りる)。他方、生産高の60%以上を輸出しようとする企業の場合には、5000フィリピンペソ(約11,000円)の払込資本で足りる。

  21. (4) 設立手続の流れ
  22.  ① SECへの社名の使用許可申請

     ② SECへの登録

     SECへの支店設立の登録が必要である。その際、居住代理人を指名して手続を行う必要がある。この居住代理人が外国人の場合、代理人が保有しているビザが申請時点において有効であること、及び代理人が1年以上フィリピンに居住していることが必要である。

     ③ 地方自治体の手続

     a. バランカイ・クリアランスの取得

     b. 事業許可証(Mayor’s permit)の取得

     c. 住民税納付証明書(Community Tax Certificate)の取得

  23. 3.駐在員事務所形態
  24. (1) 概要
  25.  駐在員事務所形態では、現地法人形態や支店形態とは異なり、活動内容が極めて限定される。具体的には、本店との連絡業務、市場調査の実施、現地の情報収集、製品の品質管理業務程度の範囲に限定され、営業活動や販売活動は認められない(ただし、経費の計上は可能)。

  26. (2) メリット
  27.  上記の業務範囲に限定される場合には、費用面、機動性から、駐在員事務所形態が適している。また、支店形態と同じく経費の損金処理による本社の法人税軽減が可能である。

  28. (3) 資本要件(設立準備金)
  29.  最低3万USドル(約307万3000円)を準備金として、現地通貨に換金する必要がある。

    (4) 設立の手続の流れ

     ① SECへの登録

     SECに対し、駐在員事務所設立を申請する。

     SECに必要書類を提出後、不備がなければ15日以内に認可が下りる。

     申請時の提出書類等は、以下のとおりである。

     ・申請書

     ・社名使用許可申請

     ・駐在員事務所開設に関する本店取締役会決議書の写し

     ・本店監査済財務諸表(英訳添付)

     ・親会社の定款(英訳添付)

     ・設立準備金入金の銀行証明書

     ・居住代理人の指名受諾書

     ・申請会社が財務的に健全である旨の居住代理人による宣誓書

     ・登録手数料(設立準備金の初期送金額の0.1%または1000フィリピンペソ(約2000円)のいずれか大きい方)

以上