フィリピンにおける現地法人の運営

2016年12月更新

 外国資本がフィリピンで事業を行う場合、進出の際の形態としては、株式会社が選択されることがほとんどである。

 また、非公開会社か公開会社かの選択については、フィリピン市場での上場を目指している会社以外には公開会社を選択するメリットは少ないため、多くの会社は非公開会社を選択している。もっとも、現地法人の議決権の3分の2以上を公開会社が保有する場合や、資源・金融・教育等公益に関わる事業分野を扱う会社については、公開会社とみなされ、公開会社として規律される。そこで、本項では、株式会社形態のフィリピン現地法人を運営する上で重要と思われる規律について、非公開会社と公開会社で異なる点に触れながら検討する。なお、非公開会社の定義については、本稿の「2.定款とその変更」に後述しているとおりである。

  1. 1.機関及びその構成員
  2.  フィリピンの株式会社の必要的機関(設置が義務付けられている機関)は、①株主総会、②取締役会、③財務役(Treasurer)、及び④秘書役(Secretary)である。以下では、これらの機関とその構成員に関する規律を検討する。

  3. 1-1.株主
  4. (1) 最低株主数
  5.  フィリピンの会社法においては、株主数について直接定める規定はないが、5名以上の取締役の選任が必須条件とされ、その各取締役は、最低1株以上を保有することが義務付けられていることから、結果的に、5名以上の株主が必要である。

  6. (2) 株主の権利
  7.  株主の基本的な権利としては、①株主総会に出席し議決権を行使する権利、及び、②配当及び清算時の残余財産の分配を受ける権利が与えられている。

  8. (3) 種類株式
  9.  フィリピンの株式会社は、定款に定めることで、種類株式を発行することができ、議決権のない優先株の発行も可能であるが、以下の事項については、議決権を制限することはできない。

     ・定款変更

     ・附属定款の採択及び変更

     ・会社の全資産または実質的全資産の売却、賃貸、交換、担保権設定

     ・社債受入、発行

     ・資本金の増減

     ・合併

     ・他社や他事業への資本投資

     ・解散

  10. 1-2.株主総会
  11. (1) 株主総会の種類
  12.  株主総会とは、株主によって構成される会社の最高意思決定機関である。フィリピンの会社法には、定時株主総会及び臨時株主総会の定めがある。

  13. (2) 定時株主総会
  14.  定時株主総会は、毎年1回、附属定款に定められた日に開催しなければならない。附属定款に開催日の定めが無い場合は、取締役会で定める4月中のいずれかの日に開催しなければならない。

     定時株式会社の招集通知は、附属定款に別段の定めがない限り、開催日の2週間前までに取締役によって行われなければならない。ただし、招集通知の送付を明示又は黙示に放棄した株主への送付は不要である。

  15. (3) 臨時株主総会 
  16.  臨時株主総会は、必要なときにいつでも開催することができる。

     臨時株主総会の招集通知は、附属定款に別段の定めがない限り、開催日の1週間前までに取締役によって行われなければならない。定時株主総会同様、招集通知の送付を明示又は黙示に放棄した株主への送付は不要である。

  17. (4) 株主の招集権 
  18.  株主総会を招集する権限を有する者が不在の際に、証券取引委員会に対して、株主から合理的な理由を示した招集通知が行われた場合には、証券取引委員会は、その株主に株主総会を招集する権限を付与することができる。

  19. (5) 開催場所
  20.  株主総会の開催場所は、本店所在地のある都市または地方自治体の域内でなければならない。

  21. (6) 株主総会の議長
  22.  株主総会の議長は、附属定款に別段の定めがない限り、社長が務めなければならない。

  23. (7) 議決権の行使
  24.  株主総会における議決権の行使は、委任状を有する代理人によっても行うことができる。委任状は、株主が署名した上で、総会開催日までに秘書役に提出しなければならない。

     また、フィリピンには、議決権信託(Voting Trusts)という制度があり、最長で5年間、第三者に議決権やその他の株主としての権利を委託することができる。この制度を利用するためには、書面での契約締結、公証人の認証、契約書謄本の会社または証券取引委員会への提出が必要である。

  25. (8) 株主総会の決議要件
  26.  株主総会においては、原則として、出席した株主の過半数の賛成によって決議される。もっとも、以下の事項の決議については、発行済株式総数の3分の2以上の賛成が必要である。

     ・取締役の解任

     ・取締役と会社間の契約の承認

     ・利益相反取引の追認

     ・株式配当の公表

     ・附属定款の変更、廃止、新規採択、または、それらの権限の取締役会への委任

     また、さらに以下の事項の決議については、発行済株式総数の3分の2以上の賛成に加えて、取締役の過半数の賛成が必要である。

     ・定款変更

     ・会社の存続期間の変更

     ・増資、減資、社債発行

     ・会社の全資産または実質的全資産の売却、賃貸、交換、担保権設定

     ・他社や他事業への資本投資〔非公開会社のみ適用〕

     ・重要事項の決定について親会社等の承認を要する旨の契約の締結

     ・合併

     ・解散

  27. 1-3.取締役
  28. (1) 定数要件
  29.  取締役は、取締役会の構成員であり、かつ、必ずその会社の1株以上を保有する株主でもある。取締役の人数は、5名以上15名以下であることが必要で、その人数を定款に記載する必要がある。

  30. (2) 選任要件
  31. 取締役の要件としては、その過半数がフィリピン居住者であること、選任日以前の5年間に禁固6年以上の刑を言い渡されていないこと、会社法に違反したことがないことが必要であり、外資規制がかかる業種の場合には、国籍要件が課される(アンチ・ダミー法)。

  32. (3) 選任方法
  33.  取締役は、株主総会の普通決議によって選任される。任期は1年間である。取締役の解任には、株主総会において、発行済株式総数の3分の2を超える賛成が必要である。この取締役の解任を目的とする臨時株主総会は、秘書役が招集する。秘書役がこの招集を怠った場合には、株主による直接招集が可能となる。

     取締役の選任から30日以内に、選任された取締役の氏名、国籍及び住所を証券取引委員会に報告しなければならない。取締役が死亡、辞職、退任した場合も同様である。

  34. (4) 会社代表者の選任
  35.  取締役は、選任後直ちに取締役会を開催し、会社代表者(president)を選任しなければならない。会社代表者は、秘書役、財務役を兼務することができない。

  36. (5) 役員報酬の制限
  37.  フィリピンの会社法には、取締役全員の年間報酬額は、会社の前年度税引前純利益の10%を超えてはならないという規定がある。

  38. (6) 損害賠償責任
  39.  取締役が、明らかに違法な行為について故意に賛成し、または、これに同意した場合には、その行為によって会社、株主、その他の第三者が被った全ての損害について、個別に、または連帯して責任を負う。会社の運営上、重過失または背任行為を行った取締役についても同様である。

     また、取締役がその地位を利用して、本来会社に帰属すべき事業の機会を取得し、それによって利益を得て、会社に損害を与えた場合には、当該取締役は、その利益の全てを返還しなければならない。ただし、株主総会において発行済株式総数の3分の2の賛成があれば、この返還義務を免除することができる。

  40. 1-4.取締役会
  41.  取締役会は、会社の事業を遂行し、会社の資産を管理・保有する権限を有する。フィリピンにおいては、取締役会は、義務的設置機関である。

  42. (1) 決議事項
  43.  取締役会は以下の事項を決議する。

     ・役員の選任

     ・配当の決定

     ・会社代表者(President)又は経営委員会(Executive committee)への権限委譲 

     ※附属定款に定めがある場合は、取締役3名以上で構成される経営委員会を設置することができ、この委員会に取締役会の権限を委譲することができる。

  44. (2) 取締役会の決議要件 
  45.  取締役会の決議要件は、全取締役の過半数の賛成が要求される役員の選任を除き、出席した取締役の過半数の賛成である。

     なお、非公開会社においては、取締役会の決議を経ずに行った取締役の行為も、他の取締役又は株主の異議がない限り、有効である。

  46. (3) 開催場所
  47.  取締役会は、定款に別段の定めがない限り、毎月必ず開催しなければならない。開催場所は、フィリピン国外でも構わない。

  48. (4) 招集通知
  49.  取締役会の招集通知は、取締役会開催日の1日前までに送付すれば足りる。株主総会同様、招集通知の送付を明示又は黙示に放棄した取締役への送付は不要である。

  50. 1-5.財務役(Treasurer)
  51.  財務役は、会計分野についての管理責任役員である。

     フィリピンの株式会社においては、1名以上の財務役の選任が義務付けられている。

     財務役は、会社代表者(President)を兼務できないが、それ以外の役員を兼務することは可能である。

  52. 1-6.秘書役(Secretary)
  53.  秘書役は、会社の様々な事務手続を所管し、取締役の氏名等の証券取引委員会への報告、取締役の解任を目的とする臨時株主総会の招集手続、株主総会の委任状の管理などを行う義務を負う。

     フィリピンの株式会社においては、1名以上の秘書役の選任が義務付けられている。

     秘書役は、会社代表者(President)を兼務できないが、それ以外の役員を兼務することは可能である。

  54. 2.非公開会社の特則
  55.  非公開会社の閉鎖的性質に照らし、一定の事項を定款に定めることが非公開会社の場合のみ認められている。

     ここで、非公開会社の定義を整理する。

     非公開会社とは、定款において以下の事項が定められた株式会社である。

     ・自己株式を除き、株主が20名以下であること

     ・株式譲渡制限の定めがあること

     ・株式上場または公募していないこと

     ただし、現地法人の議決権の3分の2以上を公開会社が保有する場合や、資源・金融・教育等公益に関わる事業分野を扱う会社については、公開会社とされる。

     そして、この非公開会社にのみ認められている定款記載事項は以下のとおりである。

     ・株式の保有資格及び譲渡制限

     ・特定の種類株式ごとに取締役を選任できること

     ・株主総会及び取締役会の定足数または決議要件の厳格化

     ・取締役会の会社経営権限を株主総会に委譲すること

  56. 3.資本金
  57.  フィリピンの株式会社においても日本と同様の授権資本制度が採用されている。つまり、定款に記載された授権資本の額を上限として、取締役会決議によって、新株を発行することが可能である。

     もっとも、会社設立時及び新株発行時のいずれにおいても、授権資本の上限の25%以上の額が現実に引受けされていることが必要である。なお、フィリピンにおいては、日本とは異なり引受金額の一部の払込が完了していれば、引受全体が有効とされる。

  58. 4.株式
  59.  フィリピンにおいては、定款に定めることにより、以下のような種類株式の発行が可能である。

  60. (1) 優先株式(Preferred shares)
  61.  優先株式とは、配当時や清算時に、優先的にその分配を受けることができる種類株式である。

     優先株式にも様々な種類があり、無議決権優先株式、額面保証優先株式などの発行が可能である。優先株式については、証券取引委員会への証明書の提出が必要である。

  62. (2) 償還株式(Redeemable shares)
  63.  償還株式とは、あらかじめ定められた期限が到来すると、定款及び株券に定められた条件に基づいて、会社が買い戻すことができる種類株式である。

     無議決権の償還株式の発行も可能である。

  64. (3) 創業者株式(Founders’ shares)
  65.  創業者株式とは、創業者が保有する株式のうち、定款において、取締役の選任において独占的議決権が付与された種類株式である。ただし、独占的議決権は、最長で5年間のみ認められる。この種類株式の発行には、証券取引委員会の承認が必要である。

  66. 5.利益処分
  67.  フィリピンの株式会社は、取締役会の決議によって、未処分利益額を限度として、株主に配当を行うことができる。

     また、以下の場合を除き、払込済資本金に相当する額以上の利益剰余金を留保することは認められず、配当等を行う必要がある。

     ・取締役会において承認済みの明確な事業拡張計画がある場合

     ・会社の債権者との契約上、合意なしに株主への配当を行えない旨の制限がある場合

     ・特殊な状況にあり留保が必要であることが明確である場合

以上