フィリピンにおける知的財産制度

令和2年7月更新

 フィリピンの知的財産制度の特徴としては、知的財産の保護が憲法上明記されており、特許法、商標法、著作権法を、知的財産法(Intellectual Property Code of the Philippines、以下「知的財産法」といいます。)として一つの法律として体系化されていることです。

 そこで本稿では、知的財産法における特許権、商標権及び著作権について、その概要をご紹介します。

1.特許権

⑴ 保護客体

 知的財産法では、特許を受けることができる発明について、「人間の活動のすべての分野における課題についての、新規であり、進歩性を有し、かつ、産業上の利用可能性を有する如何なる技術的解決も特許を受けることができる」という形で規定されています。他方で、特許を受けることができない発明として、発見、科学的理論、数学的方法、精神的行為・ゲームやビジネスを行うための計画・規則・方法、コンピュータ用のプログラム、手術又は治療による人体又は動物の処置方法及び診断方法(ただし、当該方法のいずれかにおいて使用するための物や組成物となっている場合を除きます)、動植物の品種・動植物の生産の本質的に生物学的な方法(ただし、微生物及び非生物工学的かつ微生物工学的な方法を除きます)、美的創作物、公序良俗に反するものが挙げられます。

⑵ 効力

 特許権者は、以下の排他的な権利を有します。

  • ① 特許の対象が物である場合は、許諾を得ていない者による当該物の生産、使用、販売の申出、販売又は輸入を止めさせ、妨げ又は防止する権利
  • ② 特許の対象が方法である場合は、許諾を得ていない者による当該方法の使用並びに当該方法により直接的に又は間接的に得られる物の製造、取扱、使用、販売若しくは販売の申出又は輸入を止めさせ、防止し又は妨げる権利

 権利者以外の者が行う上記の販売や使用行為等が侵害行為と呼ばれるところ、実際に侵害行為をしていない者であっても以下に該当する者は、寄与侵害者として侵害行為者と連帯して後述する責任を負います。

  • ① 積極的に侵害行為を誘引する行為を行った者
  • ② 特に特許発明を侵害するために使われ、かつ、実質的に被侵害用途に適さないことを知りながら、特許製品又は特許方法によって作られる製品の部品を、侵害行為者に提供する者

⑶ 侵害行為に対する救済

  • ① 損害賠償

     特許権を侵害された者は、侵害した者に対し、損害賠償と弁護士費用その他の費用を請求することができます。もっとも、訴訟提起から4年以上前になされた侵害行為により発生した損害につきましては、損害賠償を請求することができません。

     賠償額について適切でない場合や、合理的に確かであるといえるような算定ができない場合に、裁判所は、合理的な実施料相当額を損害賠償額とすることができます。また、裁判所は、事案に応じて、実際に特許権者が受けた損害として認定した額を超える額を損害賠償額とすることもできます。もっとも、かかる金額は、実際に特許権者が受けた損害額の3倍を超えることはできません。
  • ② 差止め

     特許権者は、侵害行為の差止請求をすることができます。また、裁判所は、裁量により、侵害組成物や主として侵害に使用されている材料や装置を、何らの補償なく、商業的流通経路から除外し、又は廃棄することを命ずることができます。
  • ③ 刑事罰

     特許侵害の罪は、反復して侵害する場合に科せられます。刑の重さとしては、6ヶ月以上3年以下の懲役、若しくは10万ペソ以上30万ペソ以下の罰金又はその両方が科せられます。かかる刑事罰は、罪を犯した日から3年で時効となります。後述する商標侵害の罪に比べて、反復する場合にしか処罰されないこと、法定刑が低いこと、懲役刑と罰金刑の両方が科されるかどうかが裁判所の裁量であるという点が異なっており、商標侵害の罪の方が重く扱われています。

2.商標権

⑴ 保護客体

 商標権の対象となる「標章」とは「企業の商品又はサービスを識別することができる可視的な標識をいい、刻印又は押印した商品の容器を含む」とされ、標章にかかる権利を、一般に商標権といいます。

 商標権は、知的財産法の規定に従い、所定の手続を履践した登録手続によって取得されますが、一定の事由に該当するもの(例えば、広く認識された他の商品・サービスの標章と同一又は混同を生じさせるもの、識別する商品・サービスに一般的な性質の標識や表示のみからなるもの、公序良俗に反するもの等)については、登録を拒絶されることになります。

⑵ 効力

 登録された標章の権利者は、その同意を得ない全ての第三者に対し、当該第三者が当該登録された商標に係る商品・サービスと同一又は類似の商品又はサービスについて同一又は類似の標章又は容器を商業上利用することの結果として混同を生じさせるおそれがある場合、その使用を防止する排他的権利を有します。そして、同一の商品又はサービスについて同一の標識を使用する場合は、混同を生じさせるおそれがあるものと推定されます。

 標章に関する侵害行為とは、登録標章の所有者の同意なく行われる、以下の2つのいずれかの行為を指すとされています。

  • ① 使用することによって混同を生じさせ、錯誤を生じさせ又は欺罔するおそれがある商品又はサ-ビスの販売、販売の申出、頒布、宣伝その他販売を行うために必要な準備行為に関連して、登録標章、同一の容器又はその主要な特徴の複製、模造品、模倣品若しくは紛らわしい模倣品を、商業上使用する行為。
  • ② 登録標章又はその主要な特徴を複製し、模造し、模倣し又は紛らわしく模倣し、かつ、使用することによって混同を生じさせ、錯誤を生じさせ又は欺罔するおそれがある商品又はサ-ビスの販売、販売の申出、頒布又は宣伝に関連して、商業上使用するためのラベル、標識、印刷物、包装用容器、包装紙、貯蔵用容器又は広告に、そのような複製、模造、模倣又は紛らわしい模倣を適用する行為。

 侵害する物を使用した商品又はサービスが、実際に販売、提供されたかどうかに関わらず、上記各行為がなされた時に侵害が生じるものとされます。

⑶ 侵害に対する救済

  • ① 損害賠償

     登録標章の権利者は、侵害行為者に対し、損害賠償を請求することができます。損害額は、侵害行為者が権利者の有する当該権利を侵害しなかったならば権利者が得たであろう合理的な利益、又は侵害行為者が侵害によって実際に得た利益のいずれかとすることができます。また、損害額が相当の確からしさをもって算定できない場合、裁判所は、侵害行為者の総売上高、又は、侵害行為において当該標章が使用された営業の価値に基づく適切な割合を損害賠償の額とすることができます。加えて、公衆を誤認させ、又は権利者から詐取する侵害行為者の実際の意思の存在が立証された場合、裁判所は、裁量により、損害賠償額を2倍にすることができます。
  • ② 差止め

     権利者は、適切な立証をすることにより、侵害行為を差し止めることができます。
  • ③ 刑事罰

     刑事罰は、2年以上5年以下の懲役及び5万ペソ以上20万ペソ以下の罰金を科せられます。特許権とは異なり、侵害行為の反復性は必要とされず、懲役刑と罰金刑のいずれを適用するかの選択の余地もなく、必ず両方の刑罰が科せられます。

3.著作権

⑴ 保護客体

 知的財産法上の著作権の保護対象たる著作物とは文学及び美術の領域において創作の時から保護される独創的な知的創作物をいいます。具体的には、以下のものが含まれます。

  • ① 書籍、小冊子、論文その他の文書
  • ② 定期刊行物及び新聞
  • ③ 口頭で行うために準備された講演、説教、演説及び学術論文(書面その他の形式にされるか否かを問わない)
  • ④ 手紙
  • ⑤ 演劇用又は楽劇用の作品、舞踊の作品又は無言劇の演芸
  • ⑥ 楽曲(歌詞を伴うか否かを問わない)
  • ⑦ 素描、絵画、建築、彫刻、版画、石版画その他の美術作品、美術作品のための模型又は下絵
  • ⑧ 製造物品のための独創的な装飾的下絵又は模型(意匠として登録することができるものであるか否かを問わない)及びその他の応用美術
  • ⑨ 地理学、地形学、建築学又は科学に関する図解、地図、図面、略図及び三次元の作品
  • ⑩ 科学的又は技術的性質の素描又は塑性加工品
  • ⑪ 写真の著作物(写真に類似する方法により製作された著作物を含む)、映写機用のスライド
  • ⑫ 視聴覚的な著作物及び映画の著作物(映画に類似する方法又は視聴覚記録物を製作する方法により製作された著作物を含む)
  • ⑬ 絵画入りの図解及び広告
  • ⑭ コンピュータ・プログラム
  • ⑮ その他の文学的、学術的、科学的及び美術的著作物

⑵ 効力

 著作権のうち財産権としての権利は、以下の行為を独占的に実施し、第三者に許諾し、又は第三者に禁止する権利から構成されています。

  • ① 著作物又はその実質的な部分の複製
  • ② 著作物の脚色、翻訳、翻案、要約、編集その他の表現形式の変更
  • ③ 販売その他の形式の所有権の移転による原著作物又はその各複製物の最初の公衆への頒布
  • ④ 視聴覚的な若しくは映画の著作物、録音物に組み込まれた著作物、コンピュータ・プログラム、データその他の素材の編集物又は楽譜等の図式の形式の音楽の著作物の原著作物又はその複製の貸与(貸与の対象である原著作物又は複製物の所有者の如何を問わない)
  • ⑤ 原著作物又はその複製物の公衆への展示
  • ⑥ 著作物の公演
  • ⑦ 著作物のその他の方法による公衆への伝達

 また、著作権を侵害する物品の輸出及び輸入についても、明確に禁止がなされています。

⑶ 侵害に対する救済

  • ① 損害賠償

     損害賠償額は、原則として,法的費用(訴訟費用及び適正な弁護士費用など)も含む侵害行為によって生じた現実の損害です。また、裁判所は、たとえ刑事訴訟にて無罪となった場合であっても、裁判所が適切であり、賢明であり、衡平であるとみなすことができる精神的及び懲罰的損害賠償の支払及び侵害物の廃棄等を命じることができます。
  • ② 差止め

     権利者は、侵害行為の差止めを求めることができ、裁判所は、特に侵害品となる輸入商品が商業的な流通へ置かれることを防止するために、当該商品の税関手続の直後に、侵害者に対し、侵害行為を止めることを命令することもできます。
  • ③ 刑事罰

     初犯については、1年以上3年以下の懲役及び5万ペソ以上15万ペソ以下の罰金、再犯については、3年1日以上6年以下の懲役及び15万ペソ以上50万ペソ以下の罰金、3回目以上の犯行については、6年1日以上9年以下の懲役及び50万ペソ以上150万ペソ以下の罰金を科せられます。また、これらすべての場合で、罰金を支払えない場合、追加での懲役が科されます。

以上