フィリピンにおける知的財産権

2016年12月更新

 フィリピンは、WTO(世界貿易機構)に1995年に加盟し、知的財産権の保護に関してTRIPs協定を遵守する義務が生じ、それ以降の1997年に知的財産法(IP法)を制定し、知財に関する法律が整備されていった。この知的財産法は、特許、意匠・集積回路の回路配置、実用新案、商標、著作権、不正競争防止を包含する法律である。そして、フィリピンの知的財産庁(IPOPHL)が知財行政全般を所管している。国際条約についても、フィリピンは、WIPO設立条約、パリ条約、ベルヌ条約、特許協力条約 (PCT)、マドリッド協定を批准している。

 知的財産法は頻繁に改正されており、2015年の改正によって、知的財産局の部局として、著作権局が創設された。この著作権局は、著作物の公の実演に対する著者の権利が関係する紛争を裁定し、著作権管理団体の認定申請を決定するための管轄権を行使する。

 このように、フィリピンの知財に関する法整備は、ASEAN諸国の中では比較的進んでいる。

 もっとも、フィリピンでは、従来から、模倣品や海賊版が巷に溢れており、知財産保護が十分でない国として、米国通商代表部(USTR)の監視国リストに長年リストアップされてきた。

 しかし、知財権侵害の罰則強化、映画館でのビデオ撮影禁止法等の法整備や、不十分ではあるが訴訟手続の迅速化等の取り組みが評価され、2014年には、ついに監視国リストから除外された。

 なお、フィリピンにおける知財関連の出願件数を見ると、特許が2992件(内国人219件、外国人2773件)〔2014年〕、商標が35600件(内国人16700件、外国人18900件)〔2013年〕、意匠が1112件〔2011年〕、実用新案が674件〔2011年〕である。

 以下、知的財産権のうち特に重要な商標、特許、意匠、著作権について検討を加える。

  1. 1.商標権
  2. (1) 権利の内容
  3.  商標権については、知的財産法第3部に規定されている。また、フィリピンは、2012年にマドリッド協定議定書に加盟している

     商標権とは、商標登録簿に登録された企業の商品またはサ-ビスを識別することができる可視標識について、その登録者に対して国が与える独占権である。

     フィリピン知的財産法は、商標登録を受けることができない場合を以下の通り詳細に明記している。

     ・反道徳的、欺瞞的、中傷的な事柄を含む標章

     ・特定の個人の名称、肖像、署名からなる標章(ただし、その者の承諾を得ている場合 を除く)

     ・他の権利者に帰属する登録された標章と同一または類似の標章

     ・先の出願日若しくは優先日を有する標章と同一または類似の標章

     ・フィリピンにおいて登録されているか否かを問わず、出願人以外の者の標章として国際的に、又は、フィリピンにおいて広く認識されている標章と同一または類似した標章

     ・商品またはサ-ビスの質や原産地等について公衆を誤認させる虞がある標章

     ・日常の言語や商業上の慣行において商品またはサ-ビスを示すために通例または普通になっている標章または表示のみからなる標章

     ・色のみからなる標章

     ・公の秩序または善良の風俗に反する標章

  4. (2) 出願手続
  5.  商標は、出願に基づいて付与される。商標の出願は、知的財産庁に対して行う。出願人がフィリピンに居住していない場合には、出願に関する通知等の送達を受けるフィリピンに在住する代理人の名称及び住所を指定しなければならない。出願申請書の記載は、フィリピン語か英語で行わなければならない。

     フィリピンは、先願主義を採用しているので、知的財産庁に先に出願した者が優先される。海外において先に商標出願がされている標章については、海外での出願日をフィリピンでの出願日とすることができる。

     商標の登録審査手続については、初めに方式審査が行われる。方式不備がなく、所定の手数料を納付すると、知的財産庁から出願日が付与される。その後、知的財産庁が実体審査を行い、登録が不適であると判断されると、出願人に対して拒絶理由が付された登録拒絶通知がなされる。出願人は、登録拒絶の通知を受けてから4ヶ月の間は補正が可能であり、補正を行うと再審査がなされる。

     それらの審査で登録相当と判断されると、当該出願は公告される。公告開始から30日以内に異議申立てがない限り、所定の登録料の納付によって、商標登録証が発行される。

     上記の手続は、スムーズに進めば、実務上、出願から半年ないし1年以内で完了する。

  6. (3) 保護期間
  7.  登録商標の保護期間は、出願日から10年間で、その後10年毎の延長が可能であり、延長の回数に制限はない。

     商標権者は、当該商標の出願日から3年以内に(124条2項)、及び、当該商標の登録日の5周年に当たる日から1年以内に、当該商標の実際の使用を宣言する書面を提出しなければ、当該商標は登録簿から削除されてしまう。

  8. (4) 侵害行為に対する対抗措置
  9.  商標権者は、第三者が、当該商標に係る商品・サ-ビスと同一又は類似の商品・サ-ビスについて同一又は類似の標識又は容器を使用する結果、混同を生じさせる虞がある場合は、その使用を防止する排他的権利を有する。具体的手段としては、民事訴訟による損害賠償請求、差止請求、侵害品の破棄命令、及び、刑事上の責任追及(2年以上5年以下の懲役及び5万ペソ(約11万8000円)以上20万ペソ(約47万1000円)以下の罰金)が可能である。

  10. 2.特許権
  11. (1) 権利の内容
  12.  特許権については、知的財産法第2部2章に規定されている。また、フィリピンは、2001年に特許協力条約に加盟している。

     フィリピン知的財産法は、特許権について、人間の活動のすべての分野における課題について、新規性、進歩性、産業上の利用可能性を有する技術的解決が特許を受けることができると規定している。

     また、知的財産法は、以下の事項について、特許を受けることができないと規定している。

     ・発見、科学の理論及び数学の方法

     ・薬剤製品に関して、既知物質の新たな形式若しくは性質であって、当該物質の既知の効力の向上をもたらさないもの

     ・精神的な行為の遂行、遊戯又は事業活動に関する計画、規則及び方法

     ・コンピュータ・プログラム

     ・手術又は治療による人体又は動物の体の処置方法及び人体又は動物の体の診断方法

     ・植物の品種、動物の品種

     ・美的創作物

     ・公序良俗に反するもの

  13. (2) 出願手続
  14.  特許は、出願に基づいて付与される。特許権の出願申請書の記載は、フィリピン語か英語で行わなければならない。出願の際には、発明者を特定しなければならず、出願人が発明者ではない場合には、出願をする権利を有することを示す文書を提出する必要がある。

     出願人がフィリピンに居住していない場合には、出願に関する通知等の送達を受けるフィリピンに在住する代理人の名称及び住所を指定しなければならない。

     フィリピンは、先願主義を採用しているので、知的財産庁に先に出願した者が優先される。海外において先に特許出願がされている場合については、同じ出願者が、海外での出願日から12ヶ月以内にフィリピンで出願した場合、フィリピンでの出願日から6ヶ月以内に海外での出願の認証謄本を英語での翻訳文とともに提出することを条件として、海外での出願日をフィリピンでの出願日とすることができる。

     必要書類を知的財産庁に提出すると出願日が付与され、所定の手数料を納付すると、知的財産庁が方式審査を行う。方式不備がない場合、出願日から18ヶ月後に出願が公開される。出願人は、この公開日から6ヶ月以内に、所定の手数料の納付とともに実体審査の請求を行う必要がある。実体要件を満たさないと判断された場合には、原則として出願の補正の機会を与えられたうえで、出願拒絶の通知がなされる。この出願拒絶に対しては、不服申立の機会が出願人に与えられている。実体要件を満たすと判断された場合には、知的財産庁から出願人に対して、特許が付与される。

  15. (3) 保護期間
  16.  特許権の保護期間は出願日から20年である。

  17. (4) 権利の制限
  18.  特許権の付与により、特許権者には、許諾を得ていない者による特許の対象物の生産、使用、販売の申出、販売、及び輸入を禁止又は防止する排他的権利が与えられる。特許の対象が方法である場合には、製造等のための直接的又は間接的な方法の利用について同様の排他的権利が与えられる。また、特許権者は、当該特許を譲渡等する権利やライセンス許諾契約を締結する権利を有する。

     ただし、上記排他的権利にも制限があり以下の場合には、特許権者は、第三者による行為を制限できない。

     ・特許製品の所有者により又はその者の明示の承諾を得てフィリピン市場に出された製品等を使用すること

     ・私的かつ非商業的規模又は非商業的目的のためになされる場合(ただし、特許権者の経済的利益に重大な損害を与えない場合に限る)

     ・専ら科学及び教育に直接関連する実験的使用を目的とする場合

     その他、特許権の排他的権利が制限される場面としては、先使用者との関係、政府による使用、及び強制ライセンス許諾が挙げられる。

     まず、先使用者とは、出願日の前に善意で当該発明を使用していたか又は当該発明を使用する真摯な準備をしていた企業等であり、先使用者は、当該特許がその効力を生じる領域内において当該発明の使用を継続する権利が認められる。

     また、政府機関又は政府の許可を得た第三者は、特許権者の同意がなくても以下の場合にはその発明を実施することができる。

     ・公共の利益、特に国家の安全や発展のために必要な場合

     ・特許権者又は実施権者による実施の態様が反競争的であると司法機関又は行政機関が決定した場合

     次に、強制ライセンス許諾とは、知的財産庁の長官が、以下の何れかの状況下において、特許権者の合意なく、特許発明を実施する能力を有する者に当該発明を実施する許可を与える制度である。

     ・国家非常事態その他の極度の緊急事態

     ・公共の利益、特に国家の安全や発展のために必要な場合

    ・特許権者又は実施権者による実施の態様が反競争的であると司法機関又は行政機関が決定した場合

    ・正当な理由のない、特許権者による特許の公的な非商業的使用の場合

     ・特許を受けた医薬品の需要が、保健省の定める基準を満たしていない場合

     なお、強制ライセンス許諾が実施された場合、そのライセンスの譲渡は禁止され、上記の状況が収まった場合にはそのライセンスは終了し、特許権者に対しては、適切な報酬が支払われる。

  19. (5) 侵害行為に対する対抗措置
  20.  特許権者の許諾を得ていないで、特許対象物や特許を受けた方法により直接的・間接的に得られた物の生産、使用、販売の申出、販売、輸入をすること、又は特許を受けた方法を使用することは、特許の侵害となる。

     特許が侵害された場合、特許権者は、民事訴訟において、損害賠償と侵害行為の差止めを請求することができる。提訴期間については、侵害訴訟の提起より4年以上前になされた侵害行為に対して損害賠償を求めることはできない。また、侵害者が当該特許について知る前になされた侵害行為については、損害賠償を求めることはできないものの、特許を受けた物や容器、広告等に「フィリピン特許」の文字を特許番号とともに表示した場合には、侵害者は当該特許について知っていたものと推定される。

     侵害者に対しては、刑事上の責任追及(6ヶ月以上3年以下の懲役若しくは10万ペソ(約23万5000円)以上30万ペソ(約70万6000円)以下の罰金又はその両方)も可能である。

  21. 3.意匠権
  22. (1) 権利の内容
  23.  意匠とは、線若しくは色からなる構図又は三次元の形状である。ただし、それら構図又は形状は、工業上の物品又は手工芸品に特別の外観を与え、それらのための模様として機能することができるものでなければならない。意匠に関する規定については、特許についての規定を多く準用している。

     意匠の実体要件は、新規性を備えていることであり、公序良俗に反する意匠は保護されない。

  24. (2) 出願手続
  25.  意匠は、出願に基づいて付与される。出願人がフィリピンに居住していない場合には、出願に関する通知等の送達を受けるフィリピンに在住する代理人の名称及び住所を指定しなければならない。

     意匠においても、先願主義が採用され、知的財産庁に先に出願した者が優先される。海外において先に意匠出願がされている場合については、同じ出願者が、海外での出願日から12ヶ月以内にフィリピンで出願した場合、フィリピンでの出願日から6ヶ月以内に海外での出願の認証謄本を英語での翻訳文とともに提出することを条件として、海外での出願日をフィリピンでの出願日とすることができる。

     必要書類を知的財産庁に提出し、方式不備がない場合には、出願日が付与される。その後所定の手数料を納付すると実体審査が行われる。実体要件を満たすと判断されると、意匠登録簿への登録が命じられ、意匠登録証が発行される。実体要件を満たさないと判断されると、出願人に対し、出願拒否の通知がなされる。この出願拒絶に対しては、不服申立の機会が出願人に与えられている。

  26. (3) 保護期間
  27.  意匠権の保護期間は出願日から5年である。更新料を納付することにより、最大で2回(10年間)更新することができる。

  28. (4) 権利の制限
  29.  意匠権の制限については、特許の規定が全面的に準用されており、以下の場合には、意匠権者は、第三者による行為を制限できない。

     ・意匠の所有者により又はその者の明示の承諾を得てフィリピン市場に出された製品等を使用すること

     ・私的かつ非商業的規模又は非商業的目的のためになされる場合(ただし、意匠権者の経済的利益に重大な損害を与えない場合に限る)

     ・専ら科学及び教育に直接関連する実験的使用を目的とする場合

     その他、先使用者との関係、政府による使用による意匠権の制約がある点は、特許の場合と同様である

  30. (5) 侵害行為に対する対抗措置
  31.  また、意匠が侵害された場合の救済についても、特許の規定が全面的に準用されており、意匠権者は、民事訴訟において、損害賠償と侵害行為の差止めを請求することができる。提訴期間については、侵害訴訟の提起より4年以上前になされた侵害行為に対して損害賠償を求めることはできない。また、侵害者が当該意匠について知る前になされた侵害行為については、損害賠償を求めることはできないものの、意匠を受けた物や容器、広告等に「フィリピン意匠」の文字を意匠番号とともに表示した場合には、侵害者は当該意匠について知っていたものと推定される。

     侵害者に対しては、刑事上の責任追及(6ヶ月以上3年以下の懲役若しくは10万ペソ(約23万5000円)以上30万ペソ(約70万6000円)以下の罰金又はその両方)も可能である。

  32. 4.著作権
  33. (1) 権利の内容
  34.  著作権については、知的財産法第4部に規定されている。また、フィリピンは、ベルヌ条約、WIPO著作権条約、WIPO実演・レコード条約に加盟している。

     著作物とは、文学及び美術の領域において創作の時から保護される独創的な知的創作物のことであり、書籍、講演、演劇、楽曲、絵画、建築、地図、図面、模型、写真、コンピュータ・プログラム等を含む。

     また、著作物の脚色、翻訳、翻案、要約、編曲等の改作物や編集物も、二次的著作物として著作権による保護を受ける。ただし、二次的著作物は、原著作物とは別の新しい著作物として保護される。そのため、二次的著作物の著作権は、原著作物の著作権にいかなる制約も影響も及ぼさない。

     他方で、思想、手続、手順、方法、運用、概念、法則、発見、単なるデ-タ、単なる報道記事、及び、公文やその翻訳については、著作権の保護は及ばない。

     著作権によって保護される経済的権利は、以下の行為を実行し、許諾し又は防止する排他的権利からなる。

     ・著作物の複製

     ・著作物の脚色、翻訳、翻案、要約、編曲等

     ・販売等による著作物の最初の公衆への頒布

     ・著作物の貸与

     ・著作物の公衆への展示

     ・著作物の公演

     ・著作物のその他の公衆への伝達

     また、著作物の著作者は、上記の経済的権利の譲渡や利用許諾の有無にかかわらず、以下の人格的権利を有する。

     ・著作物の著作者が自己であることを可能な限り目立つ方法で表示するよう要求する権利

     ・公表に先立って、自己の著作物に変更を加え又は公表を許可しない権利

     ・自己の名誉を侵害する虞がある著作物の改変等の行為に対して異議を唱える権利

     ・自己の創作したものでない著作物について自己の名称を使用することを止めさせる権利

  35. (2) 保護のための手続
  36.  著作物は、その様式、表現形式、内容、質及び目的の如何を問わず、その創作の事実のみにより保護され、登録手続等を要しない。

  37. (3) 保護期間
  38.  一般的な著作権の保護期間は、著作者の死後50年間である。共同著作による著作物の場合には、最後に亡くなった著作者の死後50年間である。匿名の著作物については、公表物については公表日から、未公表物については作成日から50年間である。応用美術の著作物は、作成日から25年間である。写真の著作物は、公表物については公表日から、未公表物については作成日から50年間である。 

  39. (4) 権利の制限
  40.  著作権には、排他的な権利が認められるものの、以下の行為は、著作権侵害にはならないとされている。

     ・公衆にとって既に利用可能な著作物を、個人的に無償で又は専ら慈善目的で、口述又は実演すること

     ・公正な使用目的で、かつ、正当と認められる程度で、公表された著作物の引用物を作成すること(ただし、原典及び著作者の名称が著作物に表示されている場合はその名称について言及することを条件とする)

     ・公に頒布される公共的な話題に関する記事等の著作物を、情報の提供の目的で大量伝達媒体によって伝達すること(ただし、使用が明示的に留保されていない場合に限られる)

     ・学校、大学その他の教育機関が、その使用のために、放送に含まれる著作物を記録すること(ただし、その記録は、最初に放送された後適切な期間内に消去しなければならない)

     ・公共の利益に一致し、かつ、公正な使用に反しない限りにおいて、国立図書館や教育、科学又は専門の機関により、著作物の使用が行われること

     ・営利を目的としない団体若しくは組織が、慈善又は教育のためにのみ、入場料を徴集しない場所で、著作物について公演又は公衆への伝達を行うこと

     ・司法手続のために又は法律の実務家による専門的助言の提供のために著作物を使用すること

  41. (5) 侵害行為に対する対抗措置
  42.  著作権侵害に対しては、著作権者は、民事訴訟において、損害賠償、侵害行為の差止め、侵害品の没収及び破棄を請求することができる。また、刑事上の責任追及(初犯は1年以上3年以下の懲役に加えて5万ペソ(約11万8000円)以上15万ペソ(約35万3000円)以下の罰金、再犯は、3年以上6年以下の懲役に加えて15万ペソ(約35万3000円)以上50万ペソ(約117万7000円)以下の罰金、3回目以上の犯行は、6年以上9年以下の懲役に加えて50万ペソ(約117万7000円)以上150万ペソ(約353万0000円)以下の罰金)も可能である。また、自己の所有する物品が著作物を侵害する複製物であることを知りながら、又は当然知るべきであるのに、当該物品を、販売等した者も同様の刑事罰を受ける。

以上