ミャンマーにおける知的財産

2016年12月20日更新

 ミャンマーは、2001 年に WIPO に加盟したほか、1995 年 1 月に WTO (World Trade Organization)に加盟し、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS協定)の履行義務を負っており、この延長された履行義務の期限は2021 年 7 月 1 日である。本稿執筆時点においては、ミャンマーでは知的財産権に関する国内法がほとんど整備されておらず、1914
年に制定された著作権法が、唯一制定されている成文の知的財産権法であるが、同法も、制定後、時代に応じた改正が行われていないため、ミャンマーはTRIPS 協定に基づく義務については未順守の状態にあるといえる。国内法整備に関しては、ミャンマーでは、2004年以降、特許法・意匠法・商標法・著作権法等の知的財産関連法案の検討が繰り返されてきており、各法案の内容も具体化されて議会に提出され、公表されているが、本稿執筆時点においては、成立には至っていない。

 本稿では、ミャンマーに進出する日系企業の業務に関係することが比較的多いと思われる商標及び著作物の保護について概説する。

  1. 1. 商標
  2. (1) 登録法に基づく商標登録
  3.  ミャンマーにおいては、商標権を定める固有の法律は制定されていないが、土地所有権の権利変動等の登記を主な目的とする1908 年に制定された登録法(Registration Act、以下「登録法」)という。)に定められた登録手続を利用して、商標登録が行われている。かかる商標登録においては、英国判例法を起源とする先使用の原則が採用されており、最初に商標を使用した者が、優先的に商標を登録することができると解釈されている。

     ミャンマーにおける商標登録は、商標の所有権の宣言書を登録するという簡易な方法で行われている。登録申請に必要な書類・情報の概略は、以下のとおりである。

    1. (i) 所有者が署名した商標所有権宣言書
    2. (ii) 以前ミャンマーにおいて商標所有権宣言書を登録している場合は、その写し
    3. (iii) 保護を求める商品・役務の明細
    4. (iv) 登録する標章の見本

     登録申請書類は、英語で作成し、ミャンマー語の翻訳を添付する必要はない。外国人・外国企業であっても申請をすることができるが、ミャンマー国内に居住する代理人を通じて手続を進める必要がある。登録申請書類は、農業灌漑省(Ministry of Agriculture and Irrigation)土地記録局(Settlement and Land Records Department)が管轄する証書登記事務所(Office of Registrar of Deeds and Assurances)に提出する。

     かかる登録手続では、申請された商標について実体審査は行われておらず、申請書類に不備がなければ申請が拒絶されることはなく、一般に4~6週間程度で登録手続は完了し、公印が押された申請登録書類の原本が返送される。

     登録が完了した後、登録を行った者が、当該商標登録について、ミャンマーの新聞に広告を掲載することが実務上行われている。新聞広告には、商標の見本、商標の登録者の氏名・名称、登録者の住所及び商標についての権利侵害に対する警告が掲載されることが一般である。かかる新聞広告は法律上要求されている手続ではないが、これにより登録された商標を広く一般に認知されることにより侵害防止に有益であり、かつ、侵害訴訟においては当該商標の使用の事実を証明する有力な証拠となるため、広く行われている。

     かかる登録法に基づく商標登録は、商標についての権利を発生させるものではなく、第三者による当該商標の先行使用が認められれば、これに劣後することになる点には注意が必要である。ただし、侵害者に対する民事・刑事訴訟においては、登録を行っている者が、当該商標についての権利を有している事実についての一応の証拠として認められる。

     商標登録の存続期間は特に定めがなく、一旦登録がなされれば、登録の取消し等がなされない限り、当該登録は法的には永久に有効で、更新も不要である。ただし、実務的には、1年~5年程度の頻度で、定期的に現地の新聞に当該商標についての広告を掲載し、商標を公衆に認知させることが広く行われている。

  4. (2) 侵害に対する保護
  5.  商標に関する権利を有する者は、自身の商標を不正に使用して権利を侵害する者を相手方として、その権利の確認、損害賠償、権利侵害行為の差止めを求めて、裁判所に民事訴訟を提起することができる。加えて、刑事手続において、商標を不正使用する者に対しては、1年以下の禁固、罰金又はこれらが併科され、自己以外の商標を模倣する者に対しては、2年以下の禁固、罰金又はこれらが併科され得る。また、裁判所は、虚偽の商標が付された侵害品については、これを没収し得る。

  6. 2. 著作権
  7.  著作権についての保護は、1914 年に制定された著作権法(Myanmar Copyright Act、以下「著作権法」という。)において規定されている。著作権法は、ミャンマーにおいて唯一制定されている成文の知的財産権法であるが、制定後、時代に応じた改正が行われていないため、著作権の保護として、以下のとおり、不十分な内容にとどまっている。

     著作権法により保護される著作物は、①地図・図表・図面・表・編集物を含む文学作品、②音楽作品、③朗読・舞踊・無言劇・映画を含む演劇作品、及び、④絵画・彫刻・芸術的工芸品・建築物・版画・写真を含む芸術作品が著作権法上規定されている。

     著作物の著作権は、当該著作物が創作又は公表された時点で自動的に発生し、登録は著作権の成立要件ではない。また、 著作権法上、著作権の登録の制度は規定されていない。

     著作権法による保護の対象となる著作物は、①ミャンマーにおいて最初に公表された著作物、又は、②著作者がミャンマーの国民又は居住者であった時に創作された著作物である。外国の著作物については、著作権法上これを保護する規定は存在しておらず、ミャンマーはベルヌ条約にも加盟していないため、上記2類型に該当しない著作物については、原則として著作権法上の保護を受けることができない。

     著作権の存続期間は、原則として著作者の生存期間及びその死後 50 年間である。 ただし、公表された著作物については、著作者の死後 25 年が経過後において、①事前に著作物を販売目的で複製する意思を権利者に書面により通知し、かつ、②販売価格の10%を著作権使用料として権利者に対して支払うことにより、第三者は、販売を目的として複製を行うことができるという権利制限の規定が存在しているため、注意が必要である。なお、著作者人格権については、著作権法上は規定が存在していない。

     著作権者は、自身の著作権を侵害する者を相手方として、侵害行為の差止・損害賠償・侵害品の引渡を求めて、裁判所に訴訟を提起することができる。ただし、著作権侵害に対するこれらの請求については、侵害行為の時から3年経過すると、訴訟を提起することができなくなるため、注意が必要である。加えて、刑事罰として、故意に一定の著作権侵害行為を行った者に対する罰金刑が規定されている。

以上