ラオスにおける知的財産権

2016年8月8日更新

 ラオスは、1995年にWIPO(世界知的所有権機関)に加盟し、1998年に工業所有権の保護に関するパリ条約、2006年に特許協力条約、2012年にベルヌ条約、2013年にはTRIPS協定にそれぞれ加盟した。さらに、2016年3月7日には、標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書の加盟国となった。

 また、知的財産権に関する国内法整備については、パリ条約への加入を契機に2002年に特許・小特許及び工業意匠に関する首相令(01/PM、2002年1月17日)を制定し、その後2007年に、特許・意匠・商標・集積回路配置・地理的表示・営業秘密・著作物・植物新品種等、様々な形態の知的財産についての権利を網羅的に規定する知的財産法(08/NA、2007年12月24日)を制定した。現在は、これを2011年に改正した知的財産法(01/NA、2011年12月20日、以下「改正知的財産法」という。)がラオスにおける知的財産権を規定する基本法となっている。

 これら知的財産権の実際の利用に関しては、商標権については、登録件数が2005年に1000件を超え、2008年には3845件の商標登録がなされており(出所:JETRO「ラオス知財レポート」2013年3 月)相当の利用が進んでいる一方で、特許権・意匠権についてはこれまでのところ登録件数は限定的であり現段階ではあまり利用は進んでいないように思われる。

本稿では、ラオスに進出する日系企業が利用することが多いと思われる商標権及び著作権について、改正知的財産法に基づいて概説する。

  1. 1. 商標権
  2.  商標権の基礎となる標章とは、ある事業の商品又はサービスを他の事業の商品又はサービスから識別することが可能な標識又は標識の組み合わせをいい、かかる標識には人名を含む語、文字、数字、図形の要素及び色彩の組み合わせ並びにこれらの標識の組み合わせを含めることが可能である。

     ラオスにおいて商標として保護を受けるためには、原則として、科学技術省の登録簿に商標登録をする必要がある。ただし、ラオスの領域内において広く認知されている周知商標については、商標登録の有無にかかわらず保護を受けることができる。

     商標登録をするために、対象となる標章が満たすべき要件の概要は、以下のとおりである。

    1. (i) ある事業の商品又はサービスを、他の事業の商品又はサービスから識別することが可能な標識又は標識の組み合わせであること
    2. (ii) 同一の商品又はサービスについて、先に登録された標章・周知標章・地理的表示と同一でないこと
    3. (iii) 同一・類似・関連する商品又はサービスについて、先に登録された標章・周知標章と類似していないこと。ただし、当該標章の使用により、当該商品又はサービスの出所に関して、混同を惹起し、又は、他の者との関係を誤認させる場合に限る。
    4. (iv) 登録を受けることができない標章に該当しないこと

     商標出願は、ラオス科学技術省又はラオスが加盟している国際知的所有権登録組織に対して行うことができる。ラオス国外に所在する個人・法人・組織は、ラオス国内の代理人を選任してこの者を通じて出願する必要がある。出願書類及び添付資料は、ラオス語又は英語で記載する必要があり、英語で記載されたものについては、翻訳の正確性が証明されたラオス語の翻訳文を90日以内に提出する必要がある。

     商標出願については、初めに方式審査が行われる。方式要件を満たさない場合には、60日以内に補正するように命じられ、この期間内に方式要件が補正されない場合、当該出願は放棄されたものとみなされる。商標出願が方式要件を満たしている場合、出願が上記(i)~(iv)の要件を満たしているか否かの実体審査が開始される。要件を満たしていると判断された商標に関しては、①商標登録証が発行され、②登録台帳に登録され、③産業財産広報において公告される。かかる公告から5年間、第三者は、当該登録に対して異議を述べ又は登録の取消しを請求することができる。

     登録された商標の保護期間は、登録日から10年間であり、満了時に10年の期間で更新することができ、更新の回数に制限はない。ただし、更新毎に手数料を前納しなければならない。

     商標権者は、登録された商標を侵害する者に対して、損害賠償、侵害行為の停止、税関手続の停止、侵害品の押収等を請求する民事訴訟を人民裁判所に提起することができる。また、侵害発生の防止、侵害品の商業経路への流入の防止、侵害に関する証拠の保全を目的とするいわゆる仮処分の制度も存在している。さらに、行政罰として、故意に商標権を侵害した者は生じた損害額の1%が、反復して商標権を侵害した者は生じた損害額の5%が、罰金として課される。加えて、刑事罰として、商標権の侵害者に対しては、最大で懲役2年及び罰金1000万キープ(約13万円)が課され、追加的に営業ライセンスの停止・撤回、侵害品の押収という措置がなされうる。

  3. 2. 著作権
  4.  著作権とは、科学的作品を含む芸術及び文学の領域における自己の作品にかかる個人・法人・組織の権利と定義されている。作品とは、芸術、文学及び科学の領域において何らかの形態又は方法により示された個人・法人・組織による創作作品をいう。

     著作権は、作品の創作により原則として自動的に発生するが、科学技術省に対してその権利を通知することにより、以下の各事項を公的に記録しておくことができる。

    1. (i) 創作者の名称
    2. (ii) 作品の名称
    3. (iii) 創作の日付

     ただし、かかる権利者による通知の記録は、紛争発生時のための証拠を事前に確保しておくための手段にとどまり、通知人を権利者とみなす制度ではない点には留意する必要がある。

     著作権は、当該作品の創作者に帰属し、作品が共同で創作された場合には、別途合意がなされない限り、所有権は、複数の創作者に共同で帰属する。作品が雇用の過程で創作された場合には、別途合意がなされない限り、使用者が、著作権の保有者となる。ただし、権利関係の明確化のためには、従業員との間で著作権の帰属について合意をしておくことが望ましい。

     著作権は、契約により譲渡し、又は、相続により移転することができる。しかし、創作者が著作権を全て譲渡し又は移転した場合であっても、当該創作者は以下の内容の著作者人格権を有する。

    1. (i) 未公表の作品を公表すること
    2. (ii) 作品の創作者の地位を主張すること
    3. (iii) 作品に創作者の名称を表示させ、かつ、作品に関する広報活動で創作者の名称を使用させること
    4. (iv) 仮名を使用し又は匿名で作品を発表すること
    5. (v) 創作者に帰属するべき権利が誤って他人に帰属した場合に異議を申し立てること
    6. (vi) 創作者が実際には創作していない作品又は他人により改変された作品に関する創作者の名称の使用に異議を唱えること
    7. (vii) 作品の変形・切除・改変又は創作者の名誉・誠実性を傷つける行為に対して、異議を申し立てること

     著作権の有効期間は、原則として、当該作品が創作された日を始期となり、創作者が死亡した日から50年間存続する。共同創作による著作権は、最後に生存した創作者の死亡の日から50年間存続する。作者不詳又はペンネームの著作物については、著作物が公表された日から50年間存続する。映画の著作物については、作品が公表された日から50年間存続するが、作品が公表されなかった場合には創作された日から50年間が有効期間となる。

     著作者人格権の有効期間は、以下のとおりである。

    1. ・ 上記(i)については、原則として創作者の生存期間
    2. ・ 上記(ii)(iii)(iv)(vii)については、著作権の存続期間と同一
    3. ・ 上記(v)(vi)については、有効期間の制限はない

     著作権者は、自身の著作権を侵害する者に対して、損害賠償、侵害行為の停止、税関手続の停止、侵害品の押収等を請求する民事訴訟を人民裁判所に提起することができる。また、侵害発生の防止、侵害品の商業経路への流入の防止、侵害に関する証拠の保全を目的とするいわゆる仮処分の制度も存在している。さらに、行政罰として、故意に著作権を侵害した者は生じた損害額の1%が、反復して著作権を侵害した者は生じた損害額の5%が、罰金として課されうる。加えて、刑事罰として、著作権権の侵害者に対しては、最大で懲役2年及び罰金1000万キープ(約13万円)が課され、追加的に営業ライセンスの停止・撤回、侵害品の押収という措置がなされうる。

以上