ラオスにおける倒産処理

2016年8月8日更新

 ラオスの会社に対する倒産手続は、主として企業倒産法(06/NA、1994年10月14日)において定められている。ラオスにおいて支払不能にある企業の処理手続としては、再生型の手続である(1)企業再生、清算型の手続である(2)破産宣告後の破産・清算手続に加えて、(3)事業売却手続が法定されている。ラオスの倒産法制の特徴的な点は、これら(1)(2)(3)の手続が、破産申立てにより開始する一連の手続の1つの選択肢として位置づけられている点である。以下、ラオスにおける倒産手続の規律の概要を紹介する。

  1. 1. 企業倒産法の適用対象
  2.  ラオスの企業倒産法は、ラオス国内に所在するか又はラオス国内で事業を営む企業のうち、支払不能の状態にあるものに適用される。支払不能の状態にある企業とは、当該企業の事業活動において困難に直面し又は損害を被り、かつ、あらゆる必要な金融手段を用いたが、期限の到来した債務を弁済することができない企業、と定義されている。

  3. 2. 破産の申立て
  4.  支払不能の状態にある企業について、裁判所に対して破産宣告を求める申立てをすることができる者は、①当該企業の債権者及び②当該企業自身である。かかる申立ては、以下のいずれかを満たす場合に行うことができる。

    1. (i) 当該企業が、支払能力を超える債務を有していること
    2. (ii) 当該企業の債権者が、少なくとも20日の間隔をおいて3回以上、当該企業に対して当該債務の弁済を請求する通知を送付し、当該企業が通知受領承諾書に署名したにもかかわらず、債務が弁済されなかったこと
    3. (iii) (②当該企業自身が申立てをする場合に限る)当該企業が将来債務を弁済できなくなるであろう困難に直面し、かかる将来の事態の発生を予期していること

     破産宣告を求める申立てに関して注意すべき点は、かかる申立てに十分な理由がなく、かつ、被申立企業を害する目的でなされた場合には、刑事訴追される可能性がある旨が法定されている点である。

     裁判所は、申立書の受領から7日以内に、申立人に対して、自身の判断を通知しなければならない。申立てを受理して審査を行うと判断した場合には、裁判所は、債権者及び被申立企業に対しても、書面により通知をする。

     裁判所は、審査のために申立てを受理する決定をした日から35日以内に、申立てを審査するための会議を開催しなければならない。

  5. 3. 破産申立ての審査
  6.  破産申立ての審査の段階においては、以下の手続・規律が定められている。

  7. (1) 調停
  8.  支払不能の状態にある企業は、裁判所に対して、調停を提案することができる。裁判所は、適切であると認めた場合、主要な債権者・当該企業間の債権債務について和解を成立させるため、調停人を指名する。(i)かかる当事者間で合意が成立し、かつ、(ii) 当該企業が合意を履行をすることが可能な場合、破産申立ては取り消され、破産手続は終了する。この場合、当該企業は、事業活動を継続しなければならない。前記(i)又は(ii) が満たされない場合、裁判所は、調停手続の終了日時を決定し、当該企業の破産を担当する裁判所を構成する裁判官及び資産監視委員会を指名する。

  9. (2) 裁判所
  10.  裁判所は、以下の権利及び義務を有する。

    1. (i) 当該企業の破産宣告のための書面及び証拠を収集すること
    2. (ii) 資産監視委員会の活動の追跡調査をすること
    3. (iii) 当該企業の安全を保護するため、必要な場合に、仮の手段を決定すること
    4. (iv) 債権者集会を監視すること
    5. (v) 当該企業の破産宣告の一時停止又は取り消しを決定すること
    6. (vi) 当該企業に破産を宣告すること

     破産申立ての審査手続において、証拠が不十分である場合には、裁判所は申立てを排斥することができる。この場合、申立人は、裁判所の決定を知った日から15日以内に、かかる判断を争うことができる。

  11. (3) 資産監視委員会
  12.  資産監視委員会は、以下の権利及び義務を有する。

    1. (i) 当該企業の資産を特定するリストを作成すること
    2. (ii) 当該企業の資産を調査・監視すること。当該企業の資産を保護するために必要な場合、必要かつ緊急の仮の手段を決定するように裁判所に提案することも可能である。
    3. (iii) 債権者及び債権額についてリストを作成すること
    4. (iv) 当該企業の資産が監視されていることを公示し、債権者が申し出ることができる期限を決定すること

     裁判所が、当該企業の資産を監視する決定をした後、当該企業は、裁判所及び資産監視委員会の監視の下で事業活動を継続することができるが、資産を隠匿・移動・売却・移転することは禁止される。裁判所からの資産監視に関する通知を受け取った日から15日以内に、株主は、自身が引受けた株式の未払部分を全額払い込まなければならない。

  13. (4) 債権者集会
  14.  債権者集会は、以下の権利及び義務を有する。

    1. (i) 当該企業の企業再生計画及び事業運営組織について検討すること
    2. (ii) 再生計画が合意されない場合、当該企業の資産の分配について検討して裁判所に提案すること

     債権者集会は、資産監視委員会又は総債権額の4分の1以上を有する債権者の提案により招集される。債権者集会の議題を記載した招集状は、開催日の3日以上前に、参加者に送付されなければならない。

     債権者集会では、当該企業の所有者又は代表者は、当該企業の組織及び事業運営の再構築についての方策等について説明をし、かつ、集会で提起された論点について明確化を図らなければならない。

     債権者集会の決議は、総債権額の3分の2以上を有する債権者の賛成により決定される。債権者集会は、当該企業について、以下のうちの1つを決定し、裁判所に提案することができる。

    1. (i) 企業再生
    2. (ii) 事業売却
    3. (iii) 破産及び清算

     以下では、上記(i)(ii)(iii)の手続の概要について順に紹介する。

  15. 4. 企業再生
  16.  企業再生手続においては、当該企業の所有者又は代表者は、裁判所の決定に従って、当該企業の再生計画を実施する義務を負う。債権者は、裁判所の決定を実施し、当該企業による再生計画の実施を監視する権利及び義務を有する。

     当該企業の継続された事業運営に必要な資産は、裁判所の承認なく売却・移転することはできない。

     当該企業の定款は、再生計画に従い変更することができる。また、当該企業は、再生計画に従って増資をすることができる。

     当該企業の再生期間は、裁判所が再生計画を決定した日から2年を超えないものとする。再生期間内において、当該企業は、再生計画に従って債務を弁済しなければならない。裁判所は、再生期間内において、当該企業が再生できないと判断した場合、いつでも当該企業に破産を宣告することができる。

     再生期間が経過した時点で、当該企業が計画した事業に成功している場合には、裁判所は、事業の継続を決定する。当該企業が再生できていない場合には、裁判所は、当該企業に破産を宣告する。

  17. 5. 事業売却
  18.  裁判所が当該企業の資産の監視を決定した日から、全ての個人又は法人は、当該企業の事業の全部又は一部の購入を提案することができる。事業の一部の購入が提案された場合、裁判所は、売却の対象となる資産を明確に決定しなければならない。

     裁判所が決定した期限内において、事業の購入費用の支払が可能な者を、検討し選定しなければならない。当該事業の購入者は、事業の購入費用を全額支払った場合に限り、当該企業の資産を第三者に売却・移転することができる。

  19. 6. 破産宣告後の破産・清算手続
  20. (1) 破産宣告
  21.  裁判所は、以下の場合には、企業に破産を宣告する。

    1. (i) 当該企業の所有者又は代表者が、当該企業の再生計画を有しない場合
    2. (ii) 当該企業の所有者又は代表者が、債権者集会において、必要な説明を行うことができない場合
    3. (iii) 債権者集会が、当該企業の再生計画を受け入れない場合
    4. (iv) 当該企業の再生期間が満了したが、当該企業の事業が利益をもたらさず、債権者が破産を検討するように要求した場合
    5. (v) 再生手続において、当該企業が裁判所の決定に著しく違反した場合
    6. (vi) 当該企業の所有者が逃亡し又は死亡し、その相続人が相続を拒否するか又は相続人がいない場合

     債権者及び当該企業の所有者又は代表者は、企業の破産についての裁判書の決定に対して、かかる決定を認識した日から15日以内に、上訴することができる。

  22. (2) 清算委員会による清算
  23. 清算委員会は、裁判所の決定に基づき組織され、以下の権利・義務を有する。

    1. (i) 当該企業の資産及び債務を調査すること
    2. (ii) 資産監視委員会から資産及びその他の関連書面を引き継ぐこと
    3. (iii) 当該企業が締結した違法な契約を無効にすること
    4. (iv) 当該企業の資産を収集すること
    5. (v) 当該企業の資産を競売すること
    6. (vi) 当該企業の資産を債権者に分配すること
    7. (vii) 債務の弁済後の残余財産を企業の所有者及び株主に分配すること

     当該企業は、裁判所が破産を宣告した後、裁判所の決定の実施に際して、清算委員会に協力しなければならない。

     裁判所の破産宣告が確定してから10日以内に、裁判官は、破産宣告を、メディアにおいて3日連続して公表し、かつ、執行機関・債権者・当該企業の所有者・銀行・商工会議所等に送付しなければならない。

     当該企業の資産及び債権の回収が完了した場合、清算委員会は、これらを、以下の優先順位に従って、債権者に対して分配する。

    1. (i) 従業員の給与
    2. (ii) 政府に対する債務
    3. (iii) 担保を有する債務
    4. (iv) 無担保債務

     上記の債権者に対する分配が完了して、なお残余資産がある場合には、株主・当該企業の所有者に対して分配される。

     清算委員会は、活動を開始した日以降、自身を指名した裁判所、債権者及び当該企業の所有者に対して、定期的に報告をしなければならない。債権者及び当該企業の所有者は、清算委員会の不正行為に関し、裁判所に通知し、かつ、申立てをすることができる。

  24. (3) 清算手続の終了
  25.  破産企業の清算手続は、以下のいずれかの場合に終了するものとする。

    1. (i) 裁判所において債権者・債務者間で調停が成立した場合
    2. (ii) 清算委員会が、債権者に対する資産の分配を完了し、債務者が分配するための資産を有しない場合

     清算手続の終了後、裁判所は、企業登記簿から破産した企業の名称を削除するために、企業登録事務所に通知をし、メディアにおいて公告を行わなければならない。

     債権者又は債務者は、裁判所が清算終了を命じた日から15日以内に企業清算の終了を再検討するように、裁判所に請求することができる。裁判所がかかる請求に理由があると認める場合、裁判所は、清算手続の再開を検討する。

     裁判所は、破産企業の所有者から、全ての債務が完済されかつ全ての制裁が遵守されていることを証する書面と共に申立てを受領した場合、当該企業の所有者が破産者であることを免れさせる決定をする。

以上