ラオスにおける事業拠点の設置

2016年6月9日更新

 外国資本がラオスに新たに事業組織を組成する場合の主な形態としては、①現地法人、②パートナーシップ、③外国会社の支店、④駐在員事務所の形態が考えられるが、実務上は①の一形態である有限(非公開)会社(ລິສັດຈ າກັດ。英訳はLimited Company。以下「有限会社」という。)が用いられる場合が多いように思われる。以下では、主として、2013年に改正された改正企業法(ວ່າດ້ວຍ ວິສາຫະກິດ (ສະບັບປັບປຸງ) ລົງທຶນ ສະບັບເລກທີ 46/ສພຊ ລົງວັນ ທີ 26 ທັນວາ 2013。英訳はEnterprise Law (Amended)。以下「改正企業法」という。)に基づき、有限会社の特徴とその設立手続の概要を紹介する。

 ラオスにおける拠点設置の特徴的な点は、3種類の事業形態(一般事業・コンセッション事業・経済特区における開発投資事業)の違いにより、会社設立の手続・申請機関が異なる点である。本稿では、一般に用いられることが多いと思われる一般事業を営む有限会社を念頭において記載している。

 ラオスにおいては、法令の内容とその実務上の運用に乖離がある場合が少なくなく、所轄官庁への申請内容の説明や担当官による法令の解釈の違い等を原因として、法定期間や想定スケジュールを上回る遅延が生ずる場合が散見される。スケジュールを作成する際には、かなりの余裕を持たせておいた方が良いように思われる。

  1. 1. 有限会社の特徴
  2.  有限会社とは、各々等しい価値を有する株式に分割された資本により構成され、株主の責任が各株主が保有する株式の払込金額に限定される会社のうち、原則として株主数が2名以上30人以下のものをいう。株主が株式を自由に譲渡でき公募も可能な公開会社(ລິສັດມະຫາຊົນ。英訳はPublic Company。)とは異なって、既存の株主に対して優先的に譲渡の申出や新株の発行をしなければならない等、株式の取扱いに関して一定の制限が課せられている点が有限会社の主な特徴の1つである。

  3. 2. 有限会社の設立手続
  4.  ラオスにおいて一般事業を営むために有限会社を設立する場合、商工省(Ministry of Industry and Commerce:MOIC)に対して申請を行い、企業登録(ການຂ ້ນທະບຽນວິສາຫະກິດ。英訳はEnterprise Registration。以下「企業登録」という。)を行う必要がある。会社の必要事項が確定してから企業登録が完了するまでの一般的な目安期間は3~6ヶ月程度であるが、予定している事業内容によっては1年以上もかかったケースも存在しているため注意を要する。

     有限会社の設立に必要となる手続の一般的な流れは以下のとおりである。

    1. (1) 会社の必要事項の確定
    2.  設立に際して確定しておくべき必要事項には以下が含まれる。

       (a) 会社の事業活動

       ラオスにおいて拠点を設置する場合、その予定している事業が、①一般事業、②コンセッション事業、③経済特区における開発事業のいずれに該当するかにより、手続の申請先及び手続の内容が異なるため、予定事業がいずれに区分されるかを明確にしておく必要がある。

       まず、コンセッション事業とは、開発や事業運営を目的として、法令に基づいて、ラオス政府の所有権及びその他権利の利用について政府から特別の許可を受けた投資事業をいう。コンセッション事業に該当しうる事業分野は、鉱業・電力・通信・人工衛星・ラジオ・テレビ局、航空会社、航空・海上輸送、政府所有地を利用する事業、インフラの建設等であり、投資奨励法の下位規範に具体的に規定されている。これに対し、一般事業とは、いわゆるネガティブリストに該当するか否かを問わず、上記のコンセッション事業に該当しない一般的な事業分野における投資事業をいう。

       (b) 機関構成

       有限会社の場合、株主(発起人)2名、取締役1名を有することが必要である。取締役については、ラオスでの居住要件・国籍要件は法律上存在していない。監査役については、会社が保有する資産が500億キープ(約6億6600万円)以下の場合には、法律上設置義務はない。

       (c) 資本金

       外国投資家が一般事業への投資する場合、登録資本金の額は10億キープ(約1330万円)以上でなければならない。

       (d) 会社名(商号)

       有限会社の商号には、有限会社であることを示す文言が含まれている必要がある。

       また、以下の商号については、法律上使用が禁止されている。

       ・企業の他の名称又は有名な企業の名称と比較して不明瞭、同一又は類似の商号

       ・良好な国家的・文化的モラル及び社会秩序と矛盾する商号

       ・国家、国際組織、ラオスの典型的な文化又は史跡の名称と一致する商号

       ・企業の形式・種類を示す名称と同一又は類似の商号

       (e) 会社所在地

    3. (2) 必要書類の準備
    4.  有限会社の設立のために必要な書類には、以下のものが含まれる。

       ・合弁(設立)契約書(株主が2名以上の場合):改正企業法において必要的記載事項が法定されている。内容の変更には、株主総会の特別決議が必要とされているため注意が必要である。

       ・定款:改正企業法において必要的記載事項が法定されている。取締役が署名する必要があり、内容の変更には株主総会の特別決議が必要である。

    5. (3) 商号の予約及び企業登録
    6.  商工省の事業登録事務所(Enterprise Registry Office: ERO)に対して申請を行う。商号の予約申請においては、希望する3つの商号を申請書に記載する。企業登録申請の際の必要書類には、以下が含まれる。

       ・申請書

       ・定款

       ・合弁(設立)契約書

       ・創立総会の議事録

       ・投資事業の内容を示す書類

       ・出資者のパスポート(外国人の場合)又は身分証明書(ラオス国民の場合)の写し

       申請書類が受領された後、記載された事業活動がネガティブリストに列挙された事業(以下「審査対象事業」という。)に該当するか否かの判断が当局によりなされる。審査対象事業に該当しない場合、EROの担当官が申請書類を検討し要件を満たしている場合には申請から10営業日以内に承認される。これに対し、審査対象事業に該当する場合は、申請書類は所轄官庁へ回付されそこで技術的な審査により多くの時間を要する場合を除き10営業日以内に審査され、EROに戻された書類は3営業日内に担当官により検討されて要件が満たされている場合には申請は承認される。これらの期間は改正企業法上定められている期間であるが、実務上は正式に書類が受理されて承認されるまでに、より多くの日数を要する場合が少なくないため注意を要する。

    7. (4) 定款の登録
    8.  企業登録申請が承認された後、会社の定款を他の必要書類と共に、ラオス財務省(Ministry of Finance: MOF)に対して、定款の登録の申請をする。

    9. (5) 納税者識別番号の取得
    10.  納税者識別番号(Tax Identification Number: TIN)を取得するため、MOFの税務部門に対して申請を行う必要がある。かかる申請の際の必要書類には、以下が含まれる。

       ・申請書

       ・定款

       ・会社資産のリスト

       ・会社従業員のリスト

       ・事務所・オフィス等の賃貸借契約書の写し

       上記(1)~(5)に記載した手続を経ることにより、原則として企業登録は完了する。これにより、当該会社は独立の法人格を取得し、原則として企業登録証明書に定められた全ての事業活動を実施することができる。ただし、監督省庁からのライセンスや許認可の取得が必要な事業活動を行う場合には、これらの取得が事業開始の条件となる。従って、予定している事業に関して必要となるライセンス・許認可を、弁護士等の専門家又は所轄官庁に事前に確認しておくことが重要である。

       会社は、企業登録の後、自身の商号を示す看板を掲示し、企業登録の日から90日以内に事業を開始しなければならない。また、企業登録証明書を取得した後、会社の社印を作成することができる。

以上