イスラエルにおける主な進出形態と子会社設立手続

令和4年7月更新

・ 第1 はじめに

 イスラエルに外国企業が進出する主な方法としては、支店(Branch Office)、子会社(Subsidiary)又は、駐在員事務所(Representative Office)を現地に設置する方法があります。これらの進出形態のうち、イスラエルにおける事業主体として最も一般的な形態は、子会社形態のうちの有限責任会社(Limited Liability Company)です。

 そこで本稿では、上記3つの形態を法人格の面から比較検討し、その後、子会社の設立手順について述べます。

・ 第2 進出形態ごとの法人格及び本社の法的責任

 子会社は親会社とは異なる法人格を有するため、子会社を有限責任会社として設立した場合、子会社を設立した外国企業の責任は、後述のとおり子会社の定款に定めた範囲にしか及びません。また、イスラエルの裁判所が、いわゆる法人格否認の法理を適用して、子会社の背後の親会社の法的責任を認めることは例外的な場合に限られます。そのため、有限責任会社である子会社がイスラエル国内で負担した責任は、親会社にまで及ばないことが原則です。

 これに対し、支店形態でイスラエルに進出しイスラエルで事業を行った場合、その支店は、法的には、それを設置した外国企業がイスラエル国内まで延伸したものと構成され、支店は本国の企業とは別個の法主体とはされません。従って、イスラエルに進出した外国企業の本社は、イスラエルにおける支店の活動から生じた責任について、これを全て負うことになります。

 駐在員事務所の場合、支店と同様に、外国企業とは別に法人格を認められることはありません。したがって、駐在員事務所の活動に関連して生じた責任については、事務所を設けた外国企業自身が全て負うことになります。なお、駐在員事務所は、登記局への登記が不要であるなど設立手続きが簡素であることから、イスラエルにおける市場調査や連絡業務などに適しています。

・ 第3 設立手順

 イスラエルでは、子会社の設立及び支店の設置には、法務省登記局への登記が必要です。これに対し、駐在員事務所の設立には、前記登記局への登記は不要です。

・ 以下では、子会社の設立に必要な主な手順を紹介します。

⑴ 会社の基本事項の決定

ア 株主の責任
 イスラエルの会社の特色の1つは、定款において、株主の責任を無限責任とする旨を定めることができる点です。有限責任とする場合には、責任制限の方法について、定款に定める必要があります。株式の額面額を定めた場合には、株主は少なくとも当該額面額を会社に対して払い込む責任を負います。

イ 会社名
 イスラエルの会社の社名は、既にイスラエルで登録されている他社の社名との混同を招くものや、公序良俗に反するもの等は、認められません。そのため、会社設立の申請書には、社名の候補を3つ記載することとされており、登記官が付された優先順位に従って社名の肯否を判断して、社名が決まります。事前に既存の会社の社名をオンラインで確認することができるので、確認をした上で社名候補を決定することが推奨されます。

 また、株主の責任が有限である場合には、会社名の末尾には有限責任を示す文言(「בערבון מוגבל」(Limited)又は「בע”מ」(Ltd.))を付す必要があります。

 また、社名はヘブライ語で表記されるが、英語(大文字のみ)の名称を加えることができます。ただし、英語の名称は、①ヘブライ語の名称を逐語的に英訳したもの、又は、②ヘブライ語の名称の発音を英語表記したものに限られます。

ウ 機関構成
 イスラエルで会社を設立する場合、非公開会社(Private Company)の場合、株主は1名で足り、当該株主は、取締役を兼任することができます。

 また、原則として外国人・外国企業が、100%出資することができ、最低資本金の制限はありません。

⑵ 定款の作成

 イスラエルの会社法においては、定款は、会社と株主間の契約、かつ、株主相互の契約であると定められています。

 イスラエルの会社の定款には、①会社名、②会社の目的、③登録株主資本、     ④株主の責任の制限を記載する必要があります(定款の必要的記載事項)。

 登録株主資本としては、資本金額及び種類ごとの株式数を定めます。資本金額の基礎となる通貨としては、イスラエルの通貨シェケルに加え、米ドル及びユーロを用いることができます。株式の額面額については、定めないことも可能ですが、額面額を定めた場合には、定款に、株式数に加え、各株式の額面額を定める必要があります。

 また、定款には、設立時株主全員が署名をする必要があります。

⑶ 登録費用の支払

 非公開会社(Private Company)の場合、本書作成時点における登録費用は2, 711シェケル(約107,638円)ですが、オンラインで手続をする場合には、登録費用の割引を受けることができます。

 この登録費用の支払を証する書面は、申請書の添付書類として、会社登録の申請の際に合わせて提出します。

⑷ 申請書類の提出

 子会社の設立の際に提出が求められる主な書類は以下のとおりです。

ア 会社登録申請書(Application to register a company (Form 1))

イ 株主の宣言書(Shareholder declaration)

ウ 取締役の事前宣言書(Preliminary declaration of directors (Form 2))

エ (株主・取締役が、外国人の場合)アポスティーユが付されたその者の署名認証、及び、公証人等により認証されたその者のパスポートの写し

オ (株主・取締役が、法人である場合)当該法人の名称、法人番号及び所在地を記載し、当該法人の署名権者が署名した宣言書(署名については公証人等による認証が必要)

カ (株主・取締役が、外国法人である場合)上記オの書類に加え、当該外国法人の設立証明書及び活動状況証明書(status certificate)並びにこれらのヘブライ語訳又は英訳の公証人等による認証済写し

キ 定款の現地弁護士の真正証明付き写し(ヘブライ語・英語以外の言語で定款が作成されている場合は、ヘブライ語訳と公証人による認証が必要。)

⑸ 会社の登録

 当局によると、会社登録の申請の審査期間は3日(申請書類を郵送で提出した場合は受領から14日)です。会社としての登録が承認された場合、設立証明書が送付されます。会社登録が認められない場合、登録拒絶の通知がなされます。

 会社登録の申請の承認により設立手続は完了し、当該会社は法的に有効な活動中の会社となります。

・ 第4 結語

 イスラエル国内において営業活動を行うことを予定して進出する場合、駐在員事務所は、活動範囲が市場調査や海外本社からの連絡業務などの非営業活動に限られるため、進出形態としては支店の設置又は子会社を設立することが考えられます。このうち支店は、上記のとおり本社自体が法的な責任を負うことになることに加え、毎年、支店の財務情報に加え本社の財務情報をイスラエルの当局に提出する必要があるため、一般的には、子会社の形態が好まれることが多いです。設立手順や法的責任の範囲等を考慮して、いずれの形態が妥当か判断することになるでしょう。