インド 撤退

  1. 1. 現地法人の撤退方法
  2. 現地法人のインドからの撤退方法としては、①現地法人の清算、及び②株式の譲渡の二つの方法が考えられる。
    100%独資による現地子会社が撤退する場合、その全株式の譲渡先を見つけることは困難であるから、その撤退方法として清算を選択するのが通常である。他方、インド企業との合弁会社の場合、合弁会社の清算もしくは合弁相手のインド企業へ保有する合弁会社の株式を譲渡するという方法のいずれかを選択することも可能である。但し、通常は合弁契約(Joint Venture Agreement)や株主間契約(Shareholders Agreement)に合弁解消や合弁会社の清算について規定されていることから、これらの条項に従うこととなる。

  3. 2. 現地法人の清算
    1. (1) 適用される法律
    2. 清算に関しては、2013年インド会社法(The Comlianies Act, 2013)においてその手続きが規定されているが、本原稿の執筆時において同規定は施行されていない。したがって、現状では1956年インド会社法(The Comlianies Act, 1956)の規定に従うこととなる。但し、清算に必要な機関決定(取締役会・株主総会)に関する手続き規定(招集方法等)に関しては、すでに施行されている2013年インド会社法の該当規定が適用されることには注意が必要である。

    3. (2) 清算方法の種類
    4. 1956年インド会社法には、現地法人の清算方法として、①裁判所による清算と②自主清算の2つの方法が規定されている。さらに後者については、株主による自主清算と債権者による自主清算に分類されている。

    5. (3) 裁判所による清算
      1. (a) 要件(1956年インド会社法第433条)
      2. 1956年インド会社法第433条は、裁判所による会社の清算を開始する要件として、以下を規定している。

        1. ① 会社が裁判所によって清算される旨を株主総会特別決議によって決議した場合
        2. ② 会社が登記官への法定報告書の提出又は法定の株主総会の開催を怠った場合
        3. ③ 会社が設立から1年以内に事業を開始しない場合、又は1年間事業を休止した場合
        4. ④ 公開会社の株主数が7名(法定最低株主数)を下回った場合、又は非公開会社の株主数が2名(法定最低株主数)を下回った場合
        5. ⑤ 会社がその債務を弁済できなくなった場合
        6. ⑥ 裁判所が会社を清算することが公正・衡平であるとの見解に至った場合
        7. ⑦ 会社が連続5年間その貸借対照表・損益計算書、又は年次報告書の提出を怠った場合
        8. ⑧ 会社がインドの主権及び統合の利益、州の安全、他国との友好関係、公序、礼節又は良俗に反した行為を行った場合
        9. ⑨ 裁判所が法第424G条に規定する事情に基づき会社を清算すべきであるとの見解に至った場合
      3. (b) 手続(1956年インド会社法第433条乃至483条)
      4. 裁判所による清算の手続きについては、1956年インド会社法第433条乃至483条に規定されている。具体的な手続内容の説明は割愛するが、裁判所による清算手続きは、清算開始から解散命令に至るまで裁判所が主導する点にその特徴がある。すなわち、裁判所に対して裁判所による会社清算の申立てがなされた場合、裁判所が清算開始の有無を決定し、実際に清算業務を行う公共清算人(Official Liquidator)による清算業務が終了した場合、裁判所は解散命令を出すこととなる。

    6. (4) 自主清算
      1. (a) 要件(1956年インド会社法第484条)
      2. 1956年インド会社法第484条は、裁判所による会社の清算を開始する要件として、以下を規定している。

        1. ① 附属定款に会社の存続期間が規定されている場合にその存続期間が満了した場合、又は附属定款に会社の解散事由が規定されている場合にその解散事由が発生した場合に、その株主総会において会社の自主清算を決議した場合
        2. ② 会社を自主清算すべき旨を株主総会特別決議により可決した場合
      3. (b) 手続
      4. 上記の株主総会に先立ち、取締役会は、①会社に債務が存在しない、又は②清算手続開始後3年以内に会社のすべての債務を弁済することが可能である旨の宣言を行うことができる。この宣言を行った場合、その自主清算手続きには、株主による自主清算手続きに関する規定(1956年インド会社法第489条乃至498条)が適用される。他方、上記のような宣言を行わない場合、その自主清算手続きには、主に債権者による自主清算手続きに関する規定(1956年インド会社法第499条乃至509条)が適用される。このように債権者による自主清算は、株主による自主清算と異なり、会社債務の全額弁済を前提としない。したがって債権者保護の見地より、例えば清算手続きの監督、清算人の報酬決定に関する監視委員会の選任、年ベースの債権者集会の招集等、その清算手続きの過程において債権者が様々な権利を有する点に特徴がある。
        自主清算の場合、会社の清算開始の決定は上記のとおり会社主導で行われる、実際の清算業務も株主総会によって指名された清算人(株主による自主清算の場合)もしくは株主総会及び債権者集会によって指名された清算人(債権者による自主清算の場合)によって行われる。公共清算人の役割は、会社(株主総会又は株主総会・債権者集会)が指名した清算人が行なった清算業務の精査及びその結果を裁判所に報告するに留まり、裁判所は、公共清算人の報告に基づき解散命令の有無を判断することになる。

  4. 3. 株式の譲渡
  5. 前述のとおり、現地法人のインドからの撤退方法としての株式譲渡は、インド企業との合弁会社の場合において合弁相手のインド企業へ株式を譲渡するという方法でなされるのが通常である。以下、上記のような場合のおける株式譲渡における主な注意点について説明する。

    1. (1) 譲渡価格
    2. 合弁会社の株式を保有する日本の親会社が合弁相手のインド企業に対して株式の譲渡を行う場合、このような株式譲渡はいわゆる「インド非居住者」から「インド居住者」への株式譲渡に該当する。インド非居住者からインド居住者に対する株式譲渡については、1999年インド外国為替管理法(the Foreign Exchange Management Act, 1999 )に基づきインド準備銀行が発行するMaster Circular on Foreign
      Investment in Indiaにおいて規律されている。特に譲渡価格について同Master Circularは以下のように規定し、インド居住者の保護を図っている。

      1. (a) 上場会社の株式の場合(譲渡される株式がインド証券取引委員会によって認定されているインドの証券取引所に上場されている会社の株式の場合)
        この場合、インド証券取引委員会のガイドラインに基づいて行うことができる株式の優先割当の場合の価格以下を譲渡価格としなければならない。
      2. (b) 非上場会社の株式の場合(譲渡される株式がインド証券取引委員会によって認定されているインドの証券取引所に上場されていない会社の株式の場合)
        この場合、独立当事者間取引に基づく株価評価として国際的に受容されている株価算定方法に従って算定され、インド勅許会計士又はインド証券取引委員会に登録されているマーチャント・バンカーによって認証された公正価格以下を譲渡価格としなければならない。
    3. (2) インド準備銀行への報告
    4. 同Master Circularは、インド居住者(本件の場合は、合弁相手のインド企業)に対し、株式譲渡の対価を受領した日から60日以内に、Form FC-TRSをインド準備銀行が認定しているAD Category-I Bankに対して提出する義務を課している。