インド 撤退

1.現地法人の撤退方法

 現地法人のインドからの撤退方法としては、大きく分けて①現地法人の清算、及び②株式の譲渡の二つの方法が考えられます。

 100%独資による現地子会社が撤退する場合、その全株式の譲渡先を見つけることは困難ですので、その撤退方法として清算を選択するのが一般的です。他方、インド企業との合弁会社の場合、合弁会社の清算、もしくは合弁相手のインド企業へ保有する合弁会社の株式を譲渡するという方法のいずれかを選択することも可能です。もっとも、通常は合弁契約(Joint Venture Agreement)や株主間契約(Shareholders Agreement)に合弁解消や合弁会社の清算について規定されていることから、これらの条項に従うことになるでしょう。

2.現地法人の清算

(1) 清算方法の種類

 現地法人の清算方法として、インドでは主に以下の方法が利用可能です。

  • ① 清算(Liquidation)
  • ② 自主清算(Voluntary Liquidation)
  • ③ 会社登記名義抹消(Removal of Names of Company from Register of Companies)

(2) 清算

 2016年インド倒産及び破産法(Insolvency and Bankruptcy Code, 2016)は、債務不履行にある会社についての清算方法を規定しています。もっとも、この清算方法は、会社再生手続が不調に終わった場合にはじめて清算手続に移行することになります。換言すれば、会社の清算手続の開始前に、必ず会社の再生手続を経る必要があることになります。したがいまして、インドからの撤退方法としてこの手続を利用することは時間とコストを考慮すると、あまり良い方法とは言えないでしょう。債務超過状態にある会社の場合は、日本の親会社からの支援によって債務超過状態を解消した上で、後述する自主清算の方法を用いるのが良いかと思います。

(3) 自主清算

 2016年インド倒産及び破産法(Insolvency and Bankruptcy Code, 2016)は、上記(2)の清算方法に加え、自主清算という方法も規定しています。自主清算は、債務不履行にない(債務がない又は債務はあるが返済が可能)会社が利用できる清算方法ですので、債務超過にある会社が自主清算を行うには、前述のとおり日本の親会社の支援等により債務超過状態を解消する必要があります。自主清算は、原則として株主総会による特別決議(附属定款に会社の存続期間が規定されている場合又は会社の解散事由が規定されている場合は普通決議)、及び会社に債務がある場合には会社の債務額の3分の2以上の債権者の承認があれば開始できるという点で、会社のイニチアチブによる清算方法と言えます。

 前述(2)の清算方法と異なり、会社再生手続を経ない点で、時間及びコストが低くおさえられることから、現地法人の撤退方法として清算という手段を選択する場合は自主清算によることが推奨されます。

(4) 会社登記名義抹消

 会社登記名義抹消は、①設立から1年の間に事業を開始しなかった場合、②直近2会計年度にわたり事業活動を行っておらず、且つその期間休眠会社の申請を行っていない場合、又は③基本定款への署名者(発起人)が、設立時から180日以内に株式払込金を払い込んでいない場合等に、会社の登記名義を登記記録から抹消するように申請する方法です。この方法は、会社の全債務を消滅させることが申請の前提とされているため、債務超過の状態にある会社は、日本の親会社からの支援等により事前に債務超過状態を解消する必要があります。また、通常の場合、上記②のとおり直近2会計年度にわたり事業を行っていないことが要件となりますので、撤退を決定してから会社登記名義抹消の申請までに最低2会計年度を要することに鑑みれば、この方法を選択できる場面は限定されていると言えるでしょう。

3.株式の譲渡

 前述のとおり、現地法人のインドからの撤退方法としての株式譲渡は、インド企業との合弁会社における合弁相手のインド企業へ株式を譲渡するという方法でなされるのが通常です。以下、上記のような場合の株式譲渡における主な注意点について説明します。

(1) 譲渡価格

 合弁会社の株式を保有する日本の親会社が合弁相手のインド企業に対して株式の譲渡を行う場合、このような株式譲渡はいわゆる「インド非居住者」から「インド居住者」への株式譲渡に該当しますので、その譲渡価格については1999年インド外国為替管理法(the Foreign Exchange Management Act, 1999 )に基づいてインド準備銀行が発行するMaster Circular on Foreign Investment in India等に従わなければなりません。

  • (a) 上場会社の株式の場合(譲渡される株式がインド証券取引委員会によって認定されているインドの証券取引所に上場されている会社の株式の場合)

     この場合、インド証券取引委員会のガイドラインに基づいて行うことができる株式の第三者割当の場合の引受価格以下の価格を譲渡価格としなければなりません。具体的には、①基準日前の26週間において公認の証券取引所で取引された当該普通株式の売買高加重平均価格(VWAP: Volume Weighted Average Price)の週間高低額の平均価格、又は②基準日前の2週間において公認の証券取引所で取引された当該普通株式の売買高加重平均価格の週間高低額の平均価格のいずれか以下の価格を譲渡価格としなければなりません。
  • (b) 非上場会社の株式の場合(譲渡される株式がインド証券取引委員会によって認定されているインドの証券取引所に上場されていない会社の株式の場合)

     この場合、独立当事者間取引に基づく株価評価として国際的に受容されている株価算定方法に従って算定され、インド勅許会計士又はインド証券取引委員会に登録されているマーチャント・バンカーによって認証された公正価格以下を譲渡価格としなければなりません。

(2) インド準備銀行への報告

 原則としてインド居住者は、株式譲渡の対価を受領/送金した日から60日以内に、Form FC-TRS (Single Master Form) の様式でその株式譲渡の報告をインド準備銀行が指定するウェブサイトからオンラインで提出する必要があります。