Ⅲ.社会保障に関する法規

1948年インド従業員州保険法(Employees’ State Insurance Act, 1948

1.規定内容

 1948年インド従業員州保険法は、主に妊娠・出産、及び労災により従業員が就業不能となった場合における給付金を規定する目的で制定されたものです。

2.適用対象

 インド従業員州保険法は、10名以上の従業員を雇用している季節稼働ではない工場、及び10名以上(一部の州は20名以上)の従業員を雇用している店舗、ホテル、レストラン、映画館、道路運送業、新聞社、保険業者、ノンバンク、港湾、空港、及び倉庫施設及びその従業員に適用されます。なお、月額21,000ルピーを超える賃金を受領している従業員、及び月額25,000ルピーを超える賃金を受領している身体障害を持つ従業員には適用されません。

3.具体的内容

  • (1) 保険金の負担

     インド従業員州保険法に基づき、従業員州保険基金(Employees’ Statement Fund)が設立され、同法の適用対象となる従業員及びその雇用主は、当該基金に対し保険金を支払わなければなりません。具体的には、従業員がその賃金の0.75%を保険金として負担し、雇用主が当該従業員に対する賃金の3.25%を保険金として負担しなければなりません。なお、一日の賃金が137ルピー以下の従業員は、上記の保険金の負担を免除されています。但し、この場合であってもその雇用主の保険金の負担は免除されません。
  • (2) 主たる雇用主(Principal Employer)の責任

     主たる雇用主は、直接又は直接の雇用主(例えば、請負業者)を通じて雇用した従業員に関する保険金を支払う義務を負います。したがって、従業員の直接の雇用主が保険金の支払いを怠った場合には、主たる雇用主が直接の雇用主に代わってその保険金を支払わなければなりません。保険金を期限までに納付しなかった場合、主たる雇用主は、納付されるまで未納保険金につき年利12%以上の利息支払義務を負うことになります。

4.罰則

 雇用主が、本法に基づき支払義務を負う負担金を納付しない場合、当該雇用主に対する罰則として、1年以上3年以下の禁固及び10,000ルピー以下の罰金が規定されています。また、再犯の場合における刑の加重についても規定されています。

1923年インド従業員補償法(Employees’ Compensation Act, 1923

1.規定内容

 1923年インド従業員補償法は、就業中の事故によって従業員が負った傷害及びそれに基づく就労不能に対する雇用主による補償金の支払いを規定しています。

2.適用対象

 インド従業員補償法は、同法のSchedule IIに規定されるすべての従業員に対して適用されます。なお、1948年従業員州保険法の適用対象となっている従業員には、本法は適用されません。

3.具体的内容

  • (1) 雇用主の補償義務

    雇用主は、就業中の事故によって従業員が傷害を負った場合、その従業員に対し、原則として補償金を支払う義務を負います。もっとも以下の場合、雇用主は補償金を支払う義務を負いません(同法第3条)。

     ① 3日を超える全面的又は部分的就労不能の結果をもたらさない傷害の場合

     ② 飲酒・薬物使用、故意による安全規則違反・安全措置の除去等に直接起因する事故による傷害であるが死亡又は恒久的全面的就労不能の結果をもたらさない場合
  • (2) 補償額

    インド従業員補償法は、以下の場合につき雇用主が支払うべき補償金額を規定しています(同法第4条)。

(a)  当該傷害から死亡に至った場合

月額賃金の50%に所定の係数を乗じた金額、又は12万ルピーのいずれか大きい額

(b)  当該傷害から恒久的全面的就労不能に至った場合

月額賃金の60%に所定の係数を乗じた金額、又は14万ルピーのいずれか大きい額

(c)  当該傷害から恒久的部分的就労不能に至った場合

 

①Schedule I第2部に規定されている傷害の場合

恒久的全面的就労不能の場合の補償額に上記規定の収入能力損失割合を乗じた額

②Schedule Iに規定されていない傷害の場合

恒久的全面的就労不能の場合の補償額に資格を有する医師によって診断された収入能力損失割合を乗じた額

(d)  当該傷害から一時的就労不能に至った場合

所定の方法に従って月額賃金の25%に相当する額を月2回支払う

4.罰則

 雇用主が、本法に基づく補償金支払義務の履行を不当に遅滞した場合、当該雇用主に対して罰則によって追加の補償金支払義務を課すことができる旨規定されています。具体的には、年利12%(又は政府が通達によって示した銀行の借入金利の最高利率)の遅延損害金及び補償額の50%以下の罰金が規定されています。

1952年インド従業員積立基金及び雑則法(Employees Provident Funds and Miscellaneous Provisions Act, 1952

1.規定内容

 1952年インド従業員積立基金及び雑則法は、従業員の退職後の生活保障、及び在職中の死亡の場合の遺族のための生活保障を目的として規定されています。同法に基づき、以下の3つのスキームが策定されています。

  • ① 1952年インド従業員積立基金スキーム(Employees’ Provident Fund Scheme, 1952)
  • ② 1995年インド従業員年金スキーム(Employees’ Pension Scheme, 1995)
  • ③ 1976年インド預託保険スキーム(Employees’ Deposit Linked Insurance Scheme, 1976)

2.適用対象

 インド従業員積立基金及び雑則法は、①同法のSchedule 1に規定される産業に従事し、かつその従業員が20名以上のすべての工場、②別途インド中央政府によって通知される従業員20名以上のその他の施設に適用されます。なお、従業員20名未満の施設も自発的に同法の対象となることに同意できますが、インド中央政府によって通知されなければなりません。

 上記の要件を充たす工場及び施設の従業員のうち、月額賃金が15,000ルピー以下の従業員のみ前述の3つのスキームへの加入が義務付けられます。

3.具体的内容(積立金・保険料の負担)

  • (1) 従業員積立基金

    雇用主は、従業員の賃金の12%に相当する金額を従業員の賃金から控除し、同額を「従業員負担金」として同基金に納付しなければなりません。同様に、雇用主も従業員の賃金の12%に相当する金額を「雇用主負担金」として同基金に納付しなければなりません。
  • (2) 従業員年金基金

    従業員年金基金において、その負担金は雇用主のみが負担し、従業員はこれを負担する必要はありません。雇用主は、従業員の賃金の8.33%又は1,250ルピーのいずれか低い金額を同基金に納付しなければなりません。なお、インド中央政府も従業員の賃金の1.16%に相当する金額を同基金に納付しなければなりません。
  • (3) 預託保険

    預託保険においても、その保険料は雇用主のみが負担し、従業員はこれを負担する必要はありません。雇用主は、従業員の賃金の0.5%を同保険の保険料として負担しなければなりません。これに加え、雇用主は、管理費として従業員の賃金の0.01%も負担しなければなりません。

4.罰則

 雇用主が、前述のスキームに基づく報告書・記録の提出を怠った場合、又は負担金・保険料・管理費の支払いを怠った場合等の違反行為に対して、その違反行為の態様に応じて禁固及び罰金を規定しています。

1972年インド退職金支払法(Payment of Gratuity Act, 1972

1.規定内容

 1972年インド退職金支払法は、工場又はその他の施設において雇用されているすべての従業員に対する退職金の支払いについて規定する法律です。

2.適用対象

 インド退職金支払法は、①すべての工場、鉱山、油田、プランテーション(大規模農場)、港湾、鉄道会社、②10名以上が雇用されている又は過去12ヵ月の任意の日に雇用されていたすべての店舗又は施設、③10名以上が雇用されている又は過去12ヵ月の任意の日に雇用されていたその他の施設で、中央政府がこの点につき通達によって規定している施設に適用されます(同法第1条3項)。

3.具体的内容(退職金の支払要件及び支払額)

 5年以上の期間中継続して雇用されていた従業員は、その雇用終了時に退職金を受領することができます。退職金を受領することができる場合の雇用終了事由は、①定年退職、②自主退職、又は③死亡・事故・病気を原因とする就労不能を理由とする退職とされています。なお、従業員の退職理由が、雇用主の所有物の破壊、又は損害・損失をもたらした作為又は故意による不作為の場合、雇用主は発生した損害・損失の限度で退職金を減額することができます。

 従業員が受領できる退職金の金額は、15日分の賃金×勤続年数で計算されます。

4.罰則

 雇用主が、退職金の支払いを免れる目的で虚偽の書類の作成した場合、雇用主には6月以下の禁固、又は10,000ルピー以下の罰金、又はその両方が科せられる旨が規定されています。

 また、雇用主が、本法及びその規則等の条項に違反した場合、雇用主には3月以上1年以下の禁固、又は10,000ルピー以上20,000ルピー以下の罰金、又はその両方が科せられる旨が規定されています。但し、退職金の不払いに関する違反行為の場合、上記の禁固刑が加重され、雇用主には6月以上2年以下の禁固が科せられる旨が規定されています(同法第9条)。