Ⅱ.労働条件に関する法規

1948年インド工場法(Factories Act, 1948

1.規定内容

 1948年インド工場法は、工場において雇用されている労働者の規律、及びそのような労働者を不当な搾取から保護するために制定されています。また同法は、工場における労働条件を規律し、労働者の安全、健康、福祉、並びに勤務時間、休暇・休日、児童・女性の雇用等に関する基本的な最低限の要件を規定しています。

2.適用対象

 インド工場法は、同法に定義される「製造過程」が行なわれているすべての建造物、又は①製造過程に動力支援が用いられている10名以上の労働者が現に労働している、又は直前12ヶ月中の任意の日に労働していた工場、又は②製造過程に動力支援が用いられていない20名以上の労働者が現に労働している、又は直前12ヶ月中の任意の日に労働していた工場に適用されます。

3.具体的内容

  • (1) 健康配慮義務

     インド工場法は、工場の管理責任者に対し、工場を清潔に保ち、排水その他の有害物質から発生する悪臭の除去、排水の処理、工場内の十分かつ適切な照明の確保、安全な飲料水の確保、及び換気及び室温管理等を行う義務を課しています。
  • (2) 安全配慮義務

     またインド工場法は、工場の管理責任者に対し、機械を安全柵で囲む、稼働中の機械周辺における安全の確保、労働者に対する安全装置の提供等、労働者の安全を確保する義務を課しています。
  • (3) 福祉設備設置義務

     インド工場法には、様々な福祉設備を設置しなければならない旨が規定されています。主な具体例は以下のとおりです。
  • 250名を超える労働者が雇用されている工場には、労働者が利用できる食堂(canteen)を設置しなければならない(同法第46条)
  • 150名を超える労働者が雇用されている工場には、休憩室、飲料水を提供する軽食堂(lunch room)を設置しなければならない(同法第47条)
  • 30名以上の女性労働者が雇用されている工場には、女性労働者の6歳未満の子供が利用できる託児所を設置しなければならない(同法第48条)
  • (4) 労働条件
  • (a) 労働時間

     インド工場法は、労働者の労働時間につき、週48時間、1日あたり原則9時間を上限としています(同法第51条及び54条)。また、1日につき連続して労働させることができるのは最長5時間とされ、少なくとも30分の休憩時間を与えずに連続5時間を超えて労働させてはなりません(同法第55条)。

     また、労働者の1日あたりの拘束時間は、原則として休憩時間を含め10.5時間を超えてはなりません。なお、女性労働者は、原則として午後7時から翌朝6時までの間勤務することが許されていません(同法第66条)。
  • (b) 時間外手当

     労働者が定められた労働時間(1日9時間又は週48時間)を超えて勤務した場合、その超過労働に関し通常の2倍の賃金を支払わなければなりません(同法第59条)。
  • (c) 週休

     インド工場法は、日曜日を週休とすることを規定し、日曜日に労働者を勤務させる場合、その前後3日間のうちの1日を休日としなければならない旨を規定しています。また、1日の完全休日(24時間)なしに連続10日を超える期間の労働は許されていません。なお、任意の理由又は規定により上記の週休をとらなかった労働者は、その週休と同じ日数の休日を以後2ヶ月(場合によっては1ヶ月)以内にとることができる旨が規定されています(同法第53条)。
  • (d) 年次有給休暇

     インド工場法は、前暦年中240日以上の期間勤務した労働者に対して、その勤務日数の20日毎に1日の割合で計算された日数の年次有給休暇が付与される旨を規定しています(同法第79条)。

4.罰則

 インド工場法及びその規則に違反した者に対して、同法は一般的な罰則として、2年以下の禁固、又は10万ルピー以下の罰金、又はその両方が科される旨を規定しています。また再犯の場合は刑が加重され、3年以下の禁固、又は20万ルピー以下の罰金、又はその両方が科される旨を規定しています。

インド店舗及び施設法(Shops and Establishment Act

1.規定内容

 インド店舗及び施設法は、インドのすべての州によってその州法として制定されており、特に、店舗、商業施設、レストラン、映画館等、及び1948年インド工場法の適用対象外の工場における従業員の労働時間、休暇、賃金、超過時間賃金を含む雇用条件等を規定しています。

2.適用対象

 インド店舗及び施設法は、商業、専門職、事業活動、又はそれらに付随的・補助的な仕事が行なわれているすべての施設及びそれらに雇用されているすべての従業員に適用されます。なお、1948年インド工場法が適用される工場及びその労働者には適用されません。

3.具体的内容

  • (1) 労働条件
  • (a) 労働時間

     店舗及び施設の従業員の労働時間は、各州の店舗及び施設法によって規定されています。例えば、パンジャブ州店舗及び商業施設法(ハリヤナ州にも適用)は、従業員の労働時間につき、原則として週48時間、及び1日あたり9時間を上限としています(同法第7条)。また、1日につき連続して労働させ得るのは最長5時間とされ、少なくとも30分の休憩時間を与えずに連続5時間を超えて労働させてはならない旨も規定しています(同法第8条)。
  • (b) 時間外手当

     時間外手当についても、各州の店舗及び施設法によって規定されています。すべての州の店舗及び施設法には、従業員が定められた労働時間を超えて勤務した場合、その超過労働に関し通常の2倍の賃金を支払わなければならない旨が規定されています。
  • (c) 祝祭日

     各州の店舗及び施設法は、一般的に、独立記念日(8月15日)、共和国記念日(1月26日)、ガンジー誕生日(10月2日)を有給休暇とする旨を規定しています。またすべての州において、各州で祝われる特別な祭典に関する州独自の休日を規定しています。
  • (2) 解雇

     多くの州の店舗及び施設法では、一定の期間連続して雇用されている従業員との雇用契約を解除する場合、雇用主は、当該従業員に対して解雇日から少なくとも1ヶ月前までにその旨を通知するか、もしくは通知に代えて1ヶ月分の賃金を支払わなければならない旨を規定しています。但し、従業員の非行を理由とする雇用契約の解除の場合はこの限りではありません。

4.罰則

 罰則については、各州の店舗及び施設法ごとに異なる罰則を規定しています。なお、すべての州の店舗及び施設法は、同法の規定に違反した場合、罰金を科す旨を規定しており、その罰金額は100ルピー乃至5,000ルピーとなっています。