インド M&A及び組織再編

  1. 1. 総論
  2. インドにおけるM&A及び組織再編については、2013年インド会社法第15章(第230条乃至240条)に規定されているが、未だ施行されていない(2015年12月現在)。したがって、1956年インド会社法第391条乃至394条の規定が適用される。但し、その機関決定等については2013年インド会社法の該当規定に従わなければならない点には注意が必要である。なお、M&Aに関しては他の法令、組織再編に関しては1961年インド所得税法及び2002年インド競争法の規制についても留意しなければならない。

  3. 2. M&A及び組織再編の形態
  4. インドにおけるM&A及び組織再編の形態としては、主に以下の4つの方法が想定される。

    1. ① 事業譲渡(Slump Sale)
    2. ② 合併(Merger and Amalgamation)
    3. ③ 分割(Demerger)
    4. ④ 株式譲渡(Transfer of Shares)
  5. 3. 事業譲渡
  6. インド法上の事業譲渡は、①当事者間の合意による事業譲渡と②裁判所が関与する事業譲渡の二種類が認められている。

    1. (1) 当事者間の合意による事業譲渡
    2. 当事者間の合意による事業譲渡においては、裁判所の関与なしに当事者間の合意のみによって事業譲渡が完了する。

      1. (a) 手続
      2. 譲渡会社及び譲受会社それぞれにおいて、2013年インド会社法に従った機関決定が必要となる。

      3. (b) 債権債務・契約上の地位の承継
      4. 当事者間の合意による事業譲渡の場合、譲渡会社の債権債務・契約上の地位の承継には、当該契約に別段の定めがない限り、債権者や契約の他方当事者等の個別の同意が必要となる。また、事業譲渡の一部として従業員の移転が予定されている場合は、原則として従業員からの個別の同意も必要となる。さらに政府機関から発行されているライセンス・許認可等が事業譲渡により移転される場合は、当該政府機関からのNo objection Letterを取得する必要がある。

    3. (2) 裁判所が関与する事業譲渡
    4. 1956年インド会社法に規定されている組織再編の一手段として事業譲渡を行う場合、裁判所の関与が必要となる。

      1. (a) 手続
        1. ① 事業譲渡計画書の作成
        2. 譲渡会社及び譲受会社の合意に基づく事業譲渡計画書を作成し、それぞれの取締役会において事業譲渡計画を承認する。

        3. ② 管轄高等裁判所への申立て(株主総会招集等)
        4. 管轄の高等裁判所に対して事業譲渡計画書を提出し、株主総会、債権者集会の招集・開催を申し立てる。

        5. ③ 管轄高等裁判所の命令に基づく株主総会等の招集・開催
        6. 管轄の高等裁判所から命令が下された場合、譲渡会社及び譲受会社は、株主総会、及び債権者集会(裁判所が債権者集会の開催も命じた場合。以下同様。)を招集する。なお本件招集は、新聞紙面上でも行う必要がある。

          株主総会及び債権者集会においては、事業譲渡計画書につき、 特別多数による承認(4分の3以上)がなされなければならない。

        7. ④ 管轄高等裁判所への申立て(事業譲渡の許可)
        8. 事業譲渡計画書に対する株主総会及び債権者集会の承認後、管轄高等裁判所に対してその承認が得られた旨の確認書を提出し、事業譲渡の許可を求める申立てを行う。裁判所は、インド中央政府の管轄機関に対して、事業譲渡計画書に対する意見を求める通知書を送付し、その通知書は新聞紙面へ掲載される。また、上記申立てに関する弁論期日を決定し、関係当事者の弁論後、事業譲渡の許可又は棄却を決定する。

        9. ⑤ 事業譲渡許可命令の取得・登記
        10. 事業譲渡について裁判所の許可が得られた場合、事業譲渡許可命令書を管轄の会社登記局(Registrar of Companies)に提出する。提出された段階で許可された事業譲渡計画書どおりの事業譲渡がなされたものとみなされる。なお、裁判所が、事業譲渡計画書の内容を修正した場合、修正後の内容に従って事業譲渡が行われたものとみなされる。但し、各当事者は、裁判所による修正が受け入れられない場合、事業譲渡計画自体を撤回することができる。

      2. (b) 債権債務・契約上の地位の承継
      3. 上記のとおり、裁判所が関与する手続中においては、必要があれば債権者集会が開催されることになるため、当事者間の合意による事業譲渡とは異なり債権者等から個別の同意を得る必要はない。もっとも、その他従業員の移転、ライセンス・許認可については、前述の当事者の合意による事業譲渡の場合と同様に原則として従業員からの個別の同意、及び政府機関からのNo Objection Letterを取得する必要がある。

  7. 4. 合併
    1. (1) 手続き
    2. 会社の合併は、1956年インド会社法に規定される組織再編に関する規定(第392条乃至394条)に従って行われる。会社の合併も前述の裁判所が関与する事業譲渡や後述する会社分割と同じく1956年インド会社法上の組織再編の一態様であり、同法上の組織再編に関する規定が適用されるため、その手続きは同じである。

      1. ① 合併計画書の作成
      2. 合併当事者となる各会社の合意に基づく合併計画書を作成し、それぞれの取締役会において合併計画書を承認する。

      3. ② 管轄高等裁判所への申立て(株主総会招集等)
      4. 管轄の高等裁判所に対して合併計画書を提出し、株主総会、債権者集会の招集・開催を申し立てる。

      5. ③ 管轄高等裁判所の命令に基づく株主総会等の招集・開催
      6. 管轄の高等裁判所から命令が下された場合、合併当事者となる各会社は、株主総会、及び債権者集会(裁判所が債権者集会の開催も命じた場合。以下同様。)を招集する。なお本件招集は、新聞紙面上でも行う必要がある。株主総会及び債権者集会においては、合併計画書につき、特別多数による承認(4分の3以上)がなされなければならない。

      7. ④ 管轄高等裁判所への申立て(合併の許可)
      8. 合併計画書に対する株主総会及び債権者集会の承認後、管轄高等裁判所に対してその承認が得られた旨の確認書を提出し、合併の許可を求める申立てを行う。裁判所は、インド中央政府の管轄機関に対して、合併計画書に対する意見を求める通知書を送付し、その通知書は新聞紙面へ掲載される。また、上記申立てに関する弁論期日を決定し、関係当事者の弁論後、合併の許可又は棄却を決定する。

      9. ⑤ 合併許可命令の取得・登記
      10. 合併につき裁判所の許可が得られた場合、合併許可命令書を管轄の会社登記局(Registrar of Companies)に提出する。提出された段階で許可された合併計画書どおりの合併がなされたものとみなされる。なお、裁判所が、合併計画書の内容を修正した場合、修正後の内容に従って合併が行われたものとみなされる。但し、各当事者は、裁判所による修正が受け入れられない場合、合併計画自体を撤回することができる。

    3. (2) 債権債務・契約上の地位の承継
    4. 合併の場合、合併消滅会社の債権債務・契約上の地位は、合併存続会社に包括的に承継されるため、当事者間の合意による事業譲渡の場合のように、債権者や契約の他方当事者等から個別の同意を得る必要はない。また、政府機関から合併消滅会社に対して発行されているライセンス・許認可等も、原則として合併存続会社に承継される。もっとも、従業員の移転が予定されている場合には原則として従業員からの個別の同意が必要となる点については、事業譲渡の場合と同様である。

    5. (3) 税務上のメリット
    6. インド所得税法上の条件を充たした場合、合併消滅会社の累積損失及び償却されていない減価償却は、合併存続会社の減価償却のための損失・費用と見做される。また、インド所得税法第47条(vi) は、合併計画に従った固定資産の移転につき同法に基づくキャピタル・ゲイン課税を免除している。さらに、インド所得税法第47条(vii) は、合併消滅会社の株式との引き換えに行われる合併存続会社による株主に対する株式割当についても、同法に基づくキャピタル・ゲイン課税を免除している。

  8. 5. 会社分割
    1. (1) 手続き
    2. 会社分割も、1956年インド会社法に規定される組織再編に関する規定(第392条乃至394条)に従って行われる。会社分割も前述の裁判所が関与する事業譲渡や合併と同じく1956年インド会社法上の組織再編の一態様であり、同法上の組織再編に関する規定が適用される。したがって、その手続きは同じである。

      1. ① 分割計画書の作成
      2. 分割会社及び分割承継会社の合意に基づく分割計画書を作成し、それぞれの取締役会において分割計画書を承認する。

      3. ② 管轄高等裁判所への申立て(株主総会招集等)
      4. 管轄の高等裁判所に対して分割計画書を提出し、株主総会、債権者集会の招集・開催を申し立てる。

      5. ③ 管轄高等裁判所の命令に基づく株主総会等の招集・開催
      6. 管轄の高等裁判所から命令が下された場合、分割会社及び分割承継会社は、株主総会、及び債権者集会(裁判所が債権者集会の開催も命じた場合。以下同様。)を招集する。なお本件招集は、新聞紙面上でも行う必要がある。株主総会及び債権者集会においては、分割計画書につき、特別多数による承認(4分の3以上)がなされなければならない。

      7. ④ 管轄高等裁判所への申立て(分割の許可)
      8. 分割計画書に対する株主総会及び債権者集会の承認後、管轄高等裁判所に対してその承認が得られた旨の確認書を提出し、分割の許可を求める申立てを行う。裁判所は、インド中央政府の管轄機関に対して、分割計画書に対する意見を求める通知書を送付し、その通知書は新聞紙面へ掲載される。また、上記申立てに関する弁論期日を決定し、関係当事者の弁論後、会社分割の許可又は棄却を決定する。

      9. ⑤ 会社分割許可命令の取得・登記
      10. 会社分割につき裁判所の許可が得られた場合、会社分割許可命令書を管轄の会社登記局(Registrar of Companies)に提出する。提出された段階で許可された分割計画書どおりの分割がなされたものとみなされる。なお、裁判所が、分割計画書の内容を修正した場合、修正後の内容に従って分割が行われたものとみなされる。但し、各当事者は、裁判所による修正が受け入れられない場合、分割計画自体を撤回することができる。

    3. (2) 債権債務・契約上の地位の承継
    4. 会社分割の場合、分割会社における分割対象となる事業に関する債権債務・契約上の地位は、分割承継会社に包括的に承継されるため、当事者間の合意による事業譲渡の場合のように、債権者や契約の他方当事者等から個別の同意を得る必要はない。しかしながら、政府機関から分割会社に対して発行されているライセンス・許認可等は、当然には分割承継会社に承継されない。また、従業員の移転が予定されている場合には原則として従業員からの個別の同意が必要となる点については、事業譲渡や合併の場合と同様である。

    5. (3) 税務上のメリット
    6. インド所得税法上の条件を充たした場合、インド所得税法第47条 (vib) に基づき、分割計画に従った分割会社から分割承継会社への固定資産の移転につき、キャピタル・ゲイン課税が免除される。

  9. 6. 株式譲渡
    1. (1) 手続き
    2. 株式譲渡については、2013年インド会社法の規定に従った機関決定が必要となる。特に、2013年インド会社法第2条68項において、非公開会社はその附属定款に株式譲渡を制限する旨が規定されている会社と定義されているため、譲渡される株式が非公開会社の株式である場合は会社の承認が必要となる。

      また、1956年インド会社法第395条は、株式譲渡スキーム又は株式譲渡契約が、譲渡会社の株主持株比率の90%によって承認されれば、裁判所の介在なしにその全株式を他の会社に譲渡することができる旨を規定している。

      1. (a) 譲渡価格
      2. 日本企業がインド人株主から株式を譲り受ける場合のように、「インド居住者」から「インド非居住者」へ株式を譲渡する場合、1999年インド外国為替管理法(the Foreign Exchange Management Act, 1999 )及びそれに基づいてインド準備銀行が発行するMaster Circular on Foreign Investment in Indiaに従わなければならない。特に譲渡価格について、上場会社の株式の場合は、インド証券取引委員会のガイドラインに基づいて行うことができる株式の優先割当の場合の価格以上を譲渡価格としなければならず、他方、非上場会社の株式の場合は、独立当事者間取引に基づく株価評価として国際的に受容されている株価算定方法に従って算定され、インド勅許会計士又はインド証券取引委員会に登録されているマーチャント・バンカーによって認証された公正価格以上を譲渡価格としなければならない。

      3. (b) インド準備銀行への報告
      4. インド居住者からインド非居住者に株式が譲渡された場合、譲渡人たるインド居住者は、株式譲渡の対価を受領した日から60日以内に、Form FC-TRSをインド準備銀行が認定しているAD Category-I Bankに対して提出しなければならない(Master Circular on Foreign Investment in India)。

    3. (2) 債権債務・契約上の地位の承継
    4. 株式譲渡の場合、当該会社の実質的な所有者である株主に変更があるにすぎないため、債権債務関係及び契約上の地位について変更は生じない。