エジプトにおける事業拠点の4つの形態

令和3年7月更新

1. はじめに

 エジプトに進出する場合の事業拠点の主な形態は、(1)株式会社、(2)有限責任会社、(3)支店及び(4)駐在員事務所の4つです。以下では、順番に、それぞれの形態の特徴と概要をご紹介いたします。

(1)株式会社(Joint Stock Company)

 株式会社(Joint Stock Company)は、エジプトで最も一般的に用いられている事業拠点の形態です。特に、多額の投資を必要とする製造業のプロジェクトなどに適しています。その理由は、株式会社を設立する時点で資本金の全額を支払う必要がなく、5年間にわたって支払うことができるためです。もっとも、会社設立時には最低でも資本金の10%、会社設立から3か月後には資本金の25%の支払いが必要になります。

 エジプトの株式会社は、非公開会社又は上場会社のいずれにも設計可能です。また、各株主の責任は当該株式会社の株式の価値に限定されています。

 株式会社の最低資本金の額は、非公開会社の場合には25万エジプトポンド(約176万円)、上場会社の場合は5000万エジプトポンド(約3憶5200万円)とされています。ただし、有価証券の取引・投資目的で設立されるホールディングカンパニーの場合、最低資本金の額は500万エジプトポンド(約3520万円)とされており、設立時にはそのうちの25%の支払が必要とされていますので、留意が必要です。

 株式会社は、設立時に、最低3名の株主が必要です。自然人であれ法人であれ、株主となることができます。

 株式会社の経営を行うのは取締役会であり、会社の日常業務を遂行する権限を有すると共に、第三者に対して会社を代表する権限を有します。しかし、法令又は定款において明示的に株主総会に権限が与えられている事項については、取締役会は権限を有していません。取締役会の構成員である取締役は、少なくとも3名選任する必要があります。取締役の任期は原則として3年ですが、設立時の株主総会により選任される設立時の取締役の任期は5年です。取締役について、国籍要件はありません。

(2)有限責任会社(Limited Liability Company)

 有限責任会社(Limited Liability Company)は、国内規模における取引やサービスなどの、多額の資金調達を必要としない小規模プロジェクトに利用されることの多い形態です。そのため、多額の資金や高額の資産を取扱う一定の事業活動、例えば、保険、銀行、預貯金等の受入、証券業、及び投資運用などの事業活動を行うことはできません。

 有限責任会社の設計は、非公開会社に限られ、株式を公開することはできません。有限責任会社の出資者は、会社に対して出資した出資額を限度に責任を負います。また、出資者の数は、最低2人、最大で50人です。

 有限責任会社の経営は、マネージャーにより行われます。マネージャーは、出資者により選任され、1人又は複数人を選任することができます。かつては、エジプト国籍を有するマネージャーを少なくとも1人置く必要がありましたが、2018年の改正により、かかる規制は廃止されました。もっとも、例外として、輸入業、商業代理店及び仲介業者などについては、現在も国籍要件は存続していますので、留意が必要です。

(3)支店(Branch Office)

 外国企業がエジプトで支店を設置するには、エジプト国内で事業を遂行する内容を含んだ契約を、エジプトの民間または公営企業との間で締結している必要があります。外国会社の支店は、当該契約の範囲内で、商業・金融・産業・建設活動などをエジプト国内で行うことができます。

 支店を設置するには、投資・フリーゾーン庁(General Authority for Investment and Free Zones:GAFI​)からの承認を得て、商業登記局及び外国企業登録原簿に登記をする必要があります。かかる登記は、5年間有効です。

 支店の経営は、支店長により行われます。支店長となる人員について、国籍要件はありません。

 なお、支店には、最低資本金の制限は課されませんが、支店設置時の当初の投資は、登録されたエジプトの銀行を通じて、外貨によってエジプトに送金される必要があります。

(4)駐在員事務所(Representative Office)

 駐在員事務所は、外国企業がエジプトにおいて会社・支店として登録することなく、エジプトで市場調査などを行うことができるできる事業拠点です。外国企業が、エジプトへの投資を調査・検討するために設計された形態ですので、商業的な活動や商業代理行為を行うことはできません。

 駐在員事務所は、最終的にエジプトに投資するかどうかを決定することを目的とする拠点であるため、期間制限が定められています。駐在員事務所を設置してから3年以内に、現地法人の設立、支店を設置、又は駐在員事務所の閉鎖のいずれかへ移行する必要があります。

 駐在員事務所の運営は、1名又は複数のマネージャーにより行われます。マネージャーとなる人員について、国籍要件はありません。

 駐在員事務所は、毎年、GAFIに対し、①所属する従業員に関する詳細なリスト、②駐在員事務所が実施した作業の詳細、及び③市場調査の予定表を提出する義務があります。これらの書類は、GAFIが発行する駐在員事務所のライセンスを更新するための審査のためにも、毎年提出する必要があります。

2. 株式会社の設立手続

 次に、株式会社を設立するにあたり必要な手続きについてご紹介いたします。

(1)株式会社を設立する場合、発起人(Founder)が3名以上必要です。

(2)新会社が予定している商号が、他の会社の商号として用いられていないこと、及び、当該の商号の使用が禁止されるものではないことを証する商号証明書を取得します。

(3)新会社の定款を作成し、在外エジプト大使館または領事による認証、エジプト外務省認証局の認証を受けます。

(4)予定している新会社の資本金の額の10%以上の金額を、エジプトの銀行の口座に払い込みを行い、資本金の払込証明書を取得します。

(5)GAFIの企業局(Companies Department)に対して、以下を含む必要書類を提出します。

  • ①発起人の名称、その他の情報を記載した書面
  • ②商号証明書
  • ③認証済みの定款
  • ④資本金の払込証明書
  • ⑤新会社の取締役による表明書(会社法第89条および第177条ないし第180条に違反した事実がない旨表明するもの)
  • ⑥新会社の本店施設に関する賃貸借契約書の写し
  • ⑦設立費用の支払いに関する受領証

 また、企業局に対しては、以下の資料・情報を提出する必要があります。

  • 発起人及び取締役のパスポート・住所
  • 新会社の資本構成
  • 新会社の会計年度の開始・終了日
  • 新会社の株主総会及び取締役会を開催する場所
  • 新会社の株主総会の定足数及び決議要件
  • 外国人投資家を含む場合は、当該外国人投資家に関する情報

(6)その後、GAFIの企業局から必要書類をすべて受理した旨の証明書が発行された場合、当該証明書を、商業登記局において登記します。なお、会社の株式については、エジプト証券保管振替機関に別途登録をする必要があります。

(7)当該企業は、登記の日から15日経過後に法人格を取得します。

以上