エジプトにおける投資・外資規制について

令和3年4月9日更新

1.はじめに

 エジプトにおける投資を規律する基本的な法律は、投資法(2017年、法律第72 号。以下「新投資法」といいます。)です。新投資法は、エジプトの国内投資及び海外からの投資のいずれにも適用され、国内投資家と外国人投資家とが平等に取り扱われることを保障することなどを定めています。

 他方で、エジプト国内の特定の業態を保護し、また、エジプト人の雇用機会を確保することなどを目的として、特定の業種における外資・外国人による出資比率・事業活動・就業を制限し、一定の企業において可能な外国人労働者の雇用割合に制限を設ける等、外国資本・外国人を対象とする法的な規制が存在しています。

 本稿では、①外国人投資家に対する法的な保護を規定するエジプトの新投資法の概要を紹介すると共に、②エジプトに存在する外資規制のうち⑴業種毎の出資比率の制限、⑵外資・外国人による事業活動・就業の制限、及び⑶会社が雇用可能な外国人労働者の割合についての制限を解説します。

2.新投資法について

  • (1)概要

     海外からエジプトへの直接投資(「FDI」)の促進を目的とした取り組みとして、新投資法が施行されました。新投資法は、外国人投資家がエジプトで事業活動を行う上での保護・保障を定めると共に、エジプトの事業に投資する外国人投資家にとっても従前障害となっていた複雑で時間のかかる許認可の取得プロセスを簡素化しました。以下では、外国資本・外国人に認められている主な保障をご紹介します。
  • (2)平等取扱いの保障

     新投資法は、外国人投資家が、エジプトの国内投資家に与えられているものと同様の取り扱いが保障されること明記しています。
  • (3)外国人投資家に対する優遇措置

     上記⑵の平等な取扱いに加え、新投資法は、相互主義の観点から、外国人投資家に有利な待遇を与えることを認めています。
  • (4)海外資金・送金の自由

     新投資法が定める投資プロジェクトに対しては、海外の資金を、制限なくかつ外国通貨建てで支出することができる旨が定められています。また、海外からの投資に関するエジプトと外国との間の送金については、自由かつ遅滞なく行うことができる旨も定められています。

     国外送金については、新投資法が定める投資プロジェクトで働く外国人労働者についても、送金の自由が定められています。
  • (5)外国人投資家の居住の保

     外国人投資家は、投資プロジェクトの期間内、法令の定めに従って、エジプト国内に住居が与えられます。
  • (6)財産権の保障

     投資プロジェクトは、国有化されないことが、投資法上明記されています。また、投資プロジェクトの資産は、公共の用に供する場合を除いて収容されず、収容される場合には、公正な補償として、収容の決定がされた日における収容される資産の公正な経済的価値に等しい価額が、遅滞なく支払われることが定められています。かかる補償金の海外への送金は、制限なく認められます。

     また、投資プロジェクトの資産は、裁判所の判決・命令、及び国による租税・社会保険料の回収による場合でなければ、差押え・没収・凍結することができないことも保障されています。

     加えて、エジプトの行政機関は、投資プロジェクトを管轄するGeneral Authority for Investment and Free Zones (GAFI)の役員会に意見を求め、かつ、Supreme Council of Investment等からの承認を得ない限り、投資プロジェクトの設立・運営に関し、財政的・手続的な負担を課す決定をすることができず、投資プロジェクトへの行政サービスの費用・対価を課すことができないことも定められています。
  • (7)ライセンスの保障

     エジプトの行政機関は、違反行為を行った投資家に対して警告を発し、当該投資家を聴聞し、違反の原因を是正する適切な期間を付与する前に、投資プロジェクトのために発行されたライセンスを取り消したり、一時停止したりすることはできず、また、投資プロジェクトに割り当てた不動産の返還を求めることはできないことが明記されています。

3.外資・外国人にのみ適用される制限

 上記のとおり、エジプトにおいては、新投資法により、原則として、外国人投資家に対する平等取扱いが保障されていますが、例外的に、外資・外国人に対してのみ適用される法的規制が、以下のとおり存在しています。

 本稿で検討する外資規制は、主要なもののみを挙げていますので、実際にエジプトへの出資・進出を検討する際には、外国投資を所轄しているGAFIに確認をするだけでなく、所轄官庁が実際にどのような対応をしているのかを確認・検討しておくことが望ましいといえます。

  • (1)業種毎の出資比率の制限

     エジプトにおいては、外資・外国人であっても、原則としてすべての事業分野において、自由に投資し、当該企業の株式を100%保有することができます。しかし、以下の事業においては、外資・外国人の出資に対する制限が存在しています。
  • ア 航空関連の事業においては、Decree No. 523 of 2018などに基づき、以下の規制が存在しています。
    • (ア) 旅客または貨物の定期的な国際航空輸送、乗客または貨物の定期的な国内輸送、および小型航空機による事業活動を行う企業については、外国人投資家の株式保有率は、40%を超えることはできません。
    • (イ) 航空会社の代理店業務や、エジプトに所在するすべての空港における航空会社の業務を円滑化するための業務における資本は、100%エジプトの資本である必要があります。
    • (ウ) 民間航空省からライセンスが発行されている事業活動などについては、外国人投資家の保有する資本の額は、全体の49%を超えることはできません。
  • イ 交易目的の輸入を業としている有限責任会社および株式会社においては、外国人投資家は、49%を超える株式を保有することはできません。
  • ウ エジプトの油井・ガス井戸に関連する事業を行うすべての石油・ガス事業会社につき、エジプト政府は、当該会社の株式の50%を保有する権利を留保しています。
  • (2)外資・外国人による事業活動・就業の制限
  • ア 代理商として活動できるのは、エジプト人か、エジプト国籍を取得してから少なくとも10年以上経過している外国人に限定されています(Law No. 120 of the year 1982 regulating Commercial Agencies)。
  • イ 旅行代理店については、エジプト人の総支配人がいない場合、ライセンスを取得できません(Ministerial Decree No. 209 of 2009 )。
  • ウ 交易目的の輸入についても、外国人は行うことができません(Law No. 7 of 2017 amending the Law 121 of 1982 regarding the Importers Registry)。
  • エ 観光省からの事前の許可なくして、外国人はツアーガイドとして働くことはできません(Law No.121 of 1983 concerning Tour Guides, Import and Export and Customs Clearance)。
  • (3)会社が雇用可能な外国人労働者の場合

     エジプトの会社法(The Egyptian Companies Law No. 159 of 1981)は、会社が支払った総賃金に対する収益の割合が20%を超えない会社については、外国人労働者の割合は、最大で総労働者の10%に設定されています。もっとも、専門職および管理職の外国人労働者に関しては、総賃金に対する収益の割合が30%以下であれば、最大25%まで増加することができます。また、企業は、担当大臣に対して、資格を有するエジプト人労働者が不足していることを根拠に、企業が指定した外国人の雇用の承認を要請することができます。

     新投資法に基づく投資事業を行う企業は、総労働者の10%を限度に外国人労働者を雇用することができ、事業に必要な資格を持つエジプト人を雇うことができない場合においては、その割合を最大20%まで増加することができると共に、特別な重要性を持つ戦略的なプロジェクトについては、例外的にその割合の増加が認められる場合があります。

以上