カンボジアにおける倒産処理

2016年12月5日更新

 カンボジアの会社の破産手続は、主として破産法(2007年10月16日。以下「破産法」という。)において定められている。カンボジアの破産法は、個人及び法人の両者を対象として規定されているが、本稿は、現地法人の一形態であり実務上用いられることの多い非公開(私的)有限責任会社を前提に記載している。以下では、破産法に規定されたカンボジアにおける破産手続の一般的な手続の規律の概要を紹介する。

 カンボジアにおいて破産法が初めて適用された事案は、2013年1月にMFoneが債務者として破産申立てをしたケースであるが、本稿執筆現在においても先例が少なく、また、カンボジアの裁判官も破産手続に対する経験が十分とは言い難いため、MFoneの事案においてもみられたように、破産手続が長期化するおそれがある点には、注意が必要である。

  1. 1. 破産法の適用対象
  2.  カンボジアにおける破産手続は、原則として、以下の債務者に対して開始され得る。

     (i) カンボジア法に基づいて組成されたパートナーシップ又は法人

     (ii) カンボジア王国内に、居住地及び資産を有する自然人

     (iii) 外国法に基づいて組成されたパートナーシップ又は法人で、カンボジア王国内に資産及び登記住所を有するもの

     (iv) カンボジア王国外に居住地を有する自然人で、カンボジア王国内に資産及び登記住所を有するもの

     また、債務者又は債権者の申立てによる場合、原則として、債務者が有効かつ履行期の到来した、合計500万リエル(約142,000円)を超える債務の支払を懈怠したことが、破産手続開示の原因となる。

  3. 2. 破産手続開始の申立て
  4.  破産手続開始の申立ては、①債務者、②1名以上の債権者、③検察官等が申し立てることができる。

    上記1.に記載した破産手続開始原因を有する債務者は、債務の支払を行わなかった日から30日以内に、自身に対する破産手続開始を申し立てる。破産法上、かかる債務者による申立ては、債務者が自然人である場合には当該個人の、債務者が法人又はパートナーシップである場合にはその各取締役、パートナー又はマネージャーの義務として規定されており、これを故意又は重過失により懈怠した場合には、これにより債権者が被った損害に対して連帯責任を負う旨が定められている点には、注意が必要である。

     これに対し、債権者・検察官等による申立ては、裁判所に申し立てられてから7日以内に債務者に対して送達される。

  5. 3. 破産申立てに対する決定
  6.  破産申立ては、債務者による場合は申立てから15日以内に、債権者・検察官等による場合は申立てから30日以内に、裁判所による聴聞に付される。かかる債権者・検察官等は、かかる聴聞手続に参加する権利を有する。

     破産申立てに理由があると認める場合、前記の聴聞手続の後、裁判所は、以下の事項について書面で決定を発する。

     (i) 当該債務者に対して、破産手続を開始すること。

     (ii) 管財人を任命すること。

     (iii) 債権者集会を開催する日を公表すること。かかる日は、破産手続開始の日から30日以降60日以内とする。

     (iv) 債権を証する証拠の提出期限を特定すること。かかる日は、債権者集会を開催する日の7日前とする。

     破産申立てに理由がないと認める場合、又は、債務者若しくは債権者による申立ての場合に債務者が不誠実に自身の義務を懈怠した等の場合、裁判所は破産申立てを却下する決定を発する。また、債務者の資産が破産手続の費用を賄うために十分でない場合にも、原則として破産申立ては却下される。裁判所による破産手続開始の決定又は破産申立てを却下する決定は、聴聞手続の後14日以内に発せられる。

     破産手続開始決定の際又はその後何時でも、裁判所は、債務者の事業の再建が実現不可能であること又は和解計画が承認される見込みがないことを理由として、債務者の事業の清算を開始する決定を発することができる。

     裁判所による破産手続開始決定の日に、破産手続は開始したとみなされるものとする。裁判所は、破産手続開始決定を、日刊新聞において公告しかつ登記により公示する。また、管財人は、破産手続の開始から7日以内に、少なくとも2つ以上のカンボジア王国の主要な新聞に広告を掲載すること等によって、以下の事項を公に告示する。

     (i) 当該債務者に対して破産手続が開始したこと。

     (ii) 債権を証する証拠の提出期限及びその証拠の提出の宛先

     (iii) 債権者集会が開催される日時・場所。

  7. 4. 破産手続開始後の手続
  8.  破産手続開始の主な効果は、以下のとおりである。 

     (i) 破産手続が終了するまでの間、債務者及び破産財団に対する訴訟・法的手続・執行手続は開始又は続行されない。しかし、管財人の報酬や管財人が負担した費用に関する請求権については、この限りではなく、また、破産財団の最上の利益になる場合には、管財人は、担保権者の受戻権を消滅させるために、担保権者に対して、書面により、担保目的物の再占有・売却又はその他の方法を許諾することができる。

     (ii) 破産手続開始の日及びそれ以降において破産者が有するあらゆる種類の資産、権利、債権から、破産財団が創設される。

     (iii) 債務者の全ての資産を管理する権限は、管財人に付与される。

     

     (iv) 債務者は、管財人に全面的に協力しなければならず、債務者の事業に関する全ての必要な情報を管財人に提供しなければならない。

     債権者集会が開催されるまでの期間において、管財人は、(1)実施可能と思われかつ明白に不経済でない場合には、債務者の事業を継続しなければならず、また、(2)債務者の財政状況・経済状況・再建の見込みを調査し、管財人報告書を準備しなければならない。

     債務者は、破産手続開始から14日以内に、以下の詳細を記載した陳述書を、裁判所及び管財人に提出しなければならない。

     (i) 破産財団

     (ii) 債務者に知れたる全ての債権者の氏名、住所及び各債権者に対する債務の簡単な説明

     管財人は、以下の場合を除き、破産手続開始から30日以内に、債権者が有する破産財団の資産に付された担保権の評価を決定する。

     (i) 裁判所が、債務者の事業の清算手続の開始を命じた場合

     (ii) 管財人が、担保権の付された資産を売却し、又は、その売却若しくは担保権の実行を関係する債権者に許諾し、その売却益をその債権者の債権の満足に充てた場合 

  9. 5. 和解計画
  10.  和解計画の提案は、遅くとも関連する債権者集会の7日前までに裁判所に申請しなければならず、かかる和解計画は無料での公の縦覧に付さなければならない。和解計画は、債権者が検討しその承認を得るため、債権者集会に提出される。

     債権者集会において和解計画が承認された場合、管財人は、承認の日から7日以内に、裁判所の承認を得るため、裁判所に対して書面により申請する。和解計画が法定の条件のいずれかを満たしていない場合、裁判所は破産財団の清算手続の開始を決定する。

     裁判所による和解計画の承認は、破産手続を終了させ、和解計画に定められた実施期間を開始する効果を有する。かかる和解計画の実施期間は、裁判所の承認から2年間を超えることはできない。

     実施のために和解計画に定められた期間内に和解計画が実施されない場合、債務者・債権者・検察官等は、破産手続の再開を申し立てることができ、債務者に対する裁判所の命令により破産手続が再開する。この場合、債務者の清算手続が直ちに開始し、債権者の債権・権利・担保権に関する和解計画の効力は存続する。

  11. 6. 債権者集会
  12.  債権者集会は、管財人が補助する裁判官を招集し、その議長を務める。

     債権者集会において、管財人は、債務者の事業の状況及びその原因を報告し、債務者の事業の全部又は一部を継続する見込みが存するかどうか、和解計画の承認及び実施のための見込みが存するかどうか、及び、債権者の満足する効果が得られるかどうかを表明する。

     かかる管財人の報告を受けて、債権者は、破産手続を継続するか否かについて決定する。かかる管財人の報告を検討した後、債権者は、債務者により提案された和解計画について表決を行う。債務者による和解計画の提案がない場合、又は、債務者が提案した和解計画案が債権者により承認されなかった場合、債権者は、①債権者集会の開催を延期するか、又は ②破産財団の清算手続を開始するかを決定する。債権者集会が延期された場合、再開された債権者集会においては、債権者は、提案された和解計画のみを検討し表決することができ、和解計画を債権者が承認しない場合、破産財団の清算手続が開始する。

     債権者集会においては、請求権一覧表の内容が確認される。管財人・債務者・債権者は、請求権一覧表に記載された各請求権の有効性・金額・担保の状況等について、異議を申し立てることができる。債権者集会において管財人・債権者からの異議が申出られなかった請求権は、その範囲において破産手続において承認されたとみなされる。請求権一覧表は、異議手続終了後、管財人によりまとめられ、裁判所に提出される。

  13. 7. 清算及び弁済
  14.  清算手続の開始において、破産手続における債権者の請求権の満足に必要な範囲において、管財人は、破産財団の全ての金銭以外の資産を、可能な限り現金化する。破産財団の清算手続における弁済は、原則として以下の優先順位に従う。

     (i) 従業員の賃金債権、管財人の報酬、破産手続費用、裁判所費用

     (ii) 担保権が付された範囲内又は担保権が付された資産の売却益の範囲内における、担保付債権

     (iii) 一定範囲の国税債権

     (iv) その他一切の債権 

     上記の全ての債権が満足した後の破産財団内の財産は、債務者に返却される。

  15. 8. 清算手続後の破産手続の終了
  16.  管財人は、自身の活動について報告書を作成し、裁判所に提出する。かかる報告書には、破産財団の財産の分配及び弁済されなかった請求権についての決算が記載される。

     管財人の報告書を受領した日から14日以内に、裁判所は、最終の債権者集会を招集する。かかる債権者集会においては、財産の分配及び弁済されなかった請求権についての決算が承認され、売却できなかった破産財団の財産の利用について決定される。

     最終の債権者集会の後、直ちに、裁判所は破産手続を終了する命令を発する。かかる命令は、カンボジア王国の官報及び日刊新聞に掲載される。破産手続の終了により、債務者は、破産財団内の残余財産を自由に処分する権利を回復する。債務者が会社の場合、全ての債務が完済されることにより破産手続が終了した場合を除き、清算を経た破産手続を終了する裁判所の命令の発布により、当該債務者は解散したとみなされる。

    以上