カンボジアにおける事業拠点の設置

2016年12月1日更新

 外国資本がカンボジアに新たに事業組織を組成する場合の主な形態としては、①現地法人、②パートナーシップ、③外国会社の支店、④駐在員事務所の形態が考えられるが、実務上用いられることが多いのは、投資法上の適格投資プロジェクトの利用が可能な①現地法人の一形態である非公開(私的)有限責任会社(以下「非公開会社」という。)が用いられる場合が多いように思われる。以下では、主として、2005年に制定された会社法(2005年6月19日、法第NS/RK/0605/019号。以下「会社法」という。)に基づき、非公開会社の特徴とその設立手続の概要を紹介する。

 カンボジアにおける拠点設置の特徴的な点は、現地で予定事業について投資法上の適格投資プロジェクトの申請を行うか否かにより、会社設立の手続・申請機関が異なる点である。本稿では、適格投資プロジェクトの申請を行わない、経済特区(SEZ)以外の一般的な地域に非公開会社を設立する場面を念頭において記載している。

 カンボジアにおいては、法令の内容とその実務上の運用に乖離がある場合が少なくなく、所轄官庁への申請内容の説明や担当官による法令の解釈の違い等を原因として、法定期間や想定スケジュールを上回る遅延が生ずる場合が散見される。スケジュールを作成する際には、相当の余裕を持たせておいた方が良いように思われる。

  1. 1. 非公開会社の特徴
  2.  非公開会社とは、株主の責任が各自の株式の払込金額の範囲に限定される会社のうち、原則として株主数が2名以上30名以下で、株式・社債その他証券の 公募が禁止された会社をいう。会社の株式・社債その他の証券の公募が可能な公開有限責任会社とは異なって、株式その他の証券を割り当てることができる相手方が株主 ・会社役員等に限られる点が、非公開会社の主な特徴の1つである。

  3. 2. 非公開会社の設立手続
  4.  カンボジアにおいて非公開会社を設立する場合、商業省(Ministry of Commerce:MOC)に対して申請を行い、企業登録を行う必要がある。会社の必要事項が確定してから企業登録が完了するまでの一般的な目安期間は3~6ヶ月程度であるが、予定している事業内容によっては1年以上もかかったケースも存在しているため注意を要する。

     非公開会社の設立に必要となる手続の一般的な流れは以下のとおりである。

  5. (1) 会社の必要事項の確定
  6.  設立に際して確定しておくべき必要事項には以下が含まれる。

     (a) 機関構成

     非公開会社の場合、原則として株主2名、取締役1名を有することが必要である。取締役は、自然人である必要があるが、カンボジアでの居住要件・国籍要件は法律上存在していない。監査役については、会社の証券を一般公開していない非公開会社については、監査役を選任しないことを決議することができる。

     (b) 資本金

     会社法上、会社は、額面額4,000リエル以上の株式を、最低1,000株発行する必要があることから、最低資本金の額は、400万リエル(約114,000円)となる。

     ただし、実務上、商業省は最低5,000米ドル(約571,000円)の資本金を要求している点には、留意が必要である。

     (c) 会社名(商号)

     非公開会社の商号には、その末尾に非公開会社であることを示す文言が含まれている必要がある。

     また、以下の商号については、商業省の担当官は申請を却下することができる。

     ・他の会社の商号と類似した紛らわしい商号

     ・公序良俗に反する商号

     ・低俗な商号

     ・その他不適切な商号

     (d) 会社の事業活動

     (e) 会社所在地

  7. (2) 商号の予約
  8.  予定している会社の商号を確保するためには、商業省に対して申請を行うことが必要である。オンラインでも申請が可能である。予約する商号は、クメール語及び英語で記載されており、その末尾に非公開会社であることを示す文字又はその略号が付されている必要がある。多くの場合、申請を行ってから約3~5営業日で、承認・不承認の判断がされる。予約された商号は、承認された日から3ヶ月間有効であり、さらに3ヶ月の延長も可能である。

  9. (3) 会社登記申請書類の提出
  10.  商業省に対して行う会社登記申請の際に必要となる情報には、以下が含まれる。

     ・事業目的

     ・会社の商号

     ・法人の形態

     ・株式に関する情報(券面額、株式数、異なる種類の株式の有無等)

     ・所在地に関する情報(事務所所在地、登録所在地、電話番号等)

     ・従業員数に関する情報(性別・国籍ごと)

     ・申請者に関する情報(氏名、電子メールアドレス、電話番号)

     会社登記申請の必要書類には、以下が含まれる。

     ・会社登記申請書

      申請書には、取締役及び株主についての詳細を記載した書類を添付する必要がある。

     ・株主及び取締役のパスポート/IDの写し及び写真

     ・定款

     ・カンボジアの銀行が発行する資本金額に関する残高証明書

     ・会社所在地を証する書面

     申請書類一式が商業省の担当官に受領された後、会社登記の申請が承認されるまでに、通常10日~1か月程度の期間がかかっているが、申請の時期や書類の不備等が原因となりより多くの日数を要する場合が少なくないため注意を要する。

  11. (4) 設立証明書の発行
  12.  会社登記申請が承認された後、商業省から設立証明書(Certificate of Incorporation)が発行される。設立証明書の発行と合わせて、商業省の登記認可書(Registration Authorization Letter)及び認証された会社定款の原本が交付されるのが通常である。会社は、登記がされた日から法人格を取得する。

  13. (5) 税務登録(付加価値税及び登録税の納税者登録)
  14.  商業省の認証を得た設立関連書類は、印紙を貼付した上で、14 営業日以内に、経済財務省の税務総局(General Department of Tax)によって認証される必要がある。その後、設立する会社の所在地を管轄する税務署に対して、認証済みの設立関連書類及び申請書と共に以下の必要書類などを提出して、付加価値税及び登録税(Patent Tax)の納税者登録をし、納税者識別番号(Tax Identification Number: TIN)を取得する。

     ・申請書

     ・定款

     ・会社資産のリスト

     ・会社従業員のリスト

     ・税務総局に提出する書類にサインする人物(通常はChairman だが株主や他の取締役などでも可)のパスポートの写し及びパスポート用の写真

     ・委任状

     税務総局による認証の結果発行される証明書の取得には、付加価値税に係る証明書については必要書類の提出から通常1 ヵ月程度、登録税に係る証明書についてはさらに2ヵ月程度を要するが、納税者番号については、税務総局への登録が完了していれば、証明書が発行されていなくとも発行される。

  15. (6) 労働職業訓練省への通知
  16.  6人以上の従業員を雇用する事業者は、実際に事業を開始する前に労働職業訓練省へ書面で通知を行う必要がある。また、従業員を雇用又は解雇した際には、雇用又は解雇した日から遅くとも15日以内に労働職業訓練省へ書面で通知を行う必要がある。さらに、8人以上の従業員を雇用する事業者は、就業規則を作成し、事業開始から3 ヵ月以内に届出をする必要がある。

    以上